値下げ、新サービス、最新事例、5Gへの道程までてんこ盛り
SORACOMユーザーはIoTを超えてビジネス変革にまで進む
ビジネスモデルを刷新するIoT事例が続々増加
新サービスとともにアピールされたのがユーザー事例だ。SORACOMの導入事例は幅広い業種・業態に及んでいるが、いくつかのパターンも見えている。バスの位置と到着時間を配信するような「動態監視」、踏切設備のような「遠隔監視・M2M」、インバウンド需要で利用価値も高まる「決済端末」、製造ラインの稼働状態を収集する「工場の可視化」、一次産業系のデジタル化を実現する「農業、漁業、畜産」、通信機能を組み込んだ「コンシューマーデバイス」などにパターンを分類した。
コンシューマーデバイスとしては、ソースネクストの大ヒット翻訳機「POCKETALK」やGROOVE Xの家庭用ロボット「LOVOT」に採用されているほか、新たにLEDとSIMを一体化することで、見守り用途にも利用できる「Hello Light」(鈴与商事)の事例も発表された。また、ライドシェアの「メルチャリ」(Neuet)やシンガポールのRideBeam、モバイルバッテリの「Mocha」(GREEN UTILITY)などシェアリングエコノミーでの相性もよい。
さらにサブスクリプションやリカーリングといった新しい分野でもSORACOMは用いられている。「サブスクリプションで毎月商品が届くと、お正月や夏休みに実家に帰ったときは消費されないので、解約のリスクが高まってしまう」という課題から、富士山の銘水ではウォーターサーバーにSORACOMが組み込み、量が減ったら自動的に再注文してくれる。福岡県限定ながら、専用機器で明太子の消費量を送信し、自動注文を実現する「ふくやのIoT」も紹介され、「インターネット・オブ・タラコ」の謳い文句には会場も盛り上がった。
その他、自家消費した以外の電力を買い取ることで、初期費用0円の太陽光発電を実現した「ソラトモサービス」の長州産業、ネズミや蚊などの捕獲数など環境衛生用に用いたイカリ消毒、農機の位置情報からサトウキビの収穫状況を把握している石垣島精糖、見守りサービス「ドシテル」の活動センサー通信に用いる日立グローバルソリューションズなど、さまざまな事例が紹介された。
顧客とつなぐ、パートナーとつなぐ ロボットとつなぐ
基調講演ではユーザーも登壇した。ダイハツ工業 くらしとクルマの研究所 所長 役員 生駒 勝啓氏は、「営業マンは契約したときが関心のピークだが、お客様は納品の方がピーク」というギャップから「納品日だけではなく、新車の居場所までお客に知らせてしまうえばよいのでは」という大胆な仮説を設定。SORACOMデバイスを新車に搭載し、GNSS(全地球航行衛星システム)により、1cm単位の精度で工場出荷から納期までをトラッキングするという実証実験を進めている。
納品までのフローをユーザーにガラス張りにしてしまうため、諸刃の剣でもあるが、納品日が近づくところで販売店とのタッチ機会を増やしたり、販売店での車両管理をデジタル化する狙いもあり、顧客と販売店をつなぐユニークな実験になっている。
日本瓦斯 代表取締役社長の和田 眞治氏は、ガスボンベやメーターなどのデバイスからのデータを収集するIoT基盤「ニチガスストリーム」や、昨年発表されたプラットフォーマー向けAPI提供サービス 「データ・道の駅」について概説。さらに、同日発表されたガスの使用量をリアルタイムに計測できる独自のNetwork Control Unit「スペース蛍」を披露した。
ソラコムと共同開発されたスペース蛍では、人手に頼っていた検針データを1時間に1回検針でき、従来に比べて720倍の精度を実現。125万台のガスメーターに取り付け、各家庭のガスの残量を可視化することで、ガスボンベの配送効率を最適化する。これに加え、2020年に完成する予定のハブ充填基地「夢の絆・川崎」では、貯蔵タンクのガス残量・ボンベ在庫本数・ガス充填機の稼働状況をリアルタイムに把握するほか、ガスボンベにRFIDを付与することで、配送経路や位置情報を把握。他事業者にプラットフォームとして提供することで、世界初のLPガスの託送サービスを実現するという。
HONDAのロボット開発を手がける本田技術研究所 ライフクリエーションセンター ロボティックス担当 執行役員の脇田勉氏は、「すべての人に、『生活の可能性が広がる喜び』を提供する」というHONDAの2030年ビジョンを披露。その上で人が際立つロボティックス社会を実現するためのRaaS(Robotics as a Service)について説明した。
HONDA RaaS Platformはロボットやデバイスからのデータを収集し、API経由で利用できるもの。開発者のみならず、サービスプロバイダー、運用者、サポート担当などが連携して課題解決させていくのが大きなポイントだという。AWSで構築されたRaaSのシステム対して、ロボットからのデータやビデオを集めるべく、SORACOM BeamやKryptonを用いているという。
KDDIはトラステッド、ソラコムはイノベーティブ
サービスや事例紹介を中心とした基調講演の最後、玉川氏が壇上に引き上げたのは、親会社であるKDDIの代表取締役社長である髙橋 誠氏だ。2017年にKDDIグループに入ったソラコムだが、ソラコムオフィスに足を運んで記念ケーキを切りつつ、スタッフからの質疑に丁寧に答えたのが、ほかならぬ髙橋氏。こうした信頼感もあり、玉川氏と髙橋氏のやりとりもフランクでありながら、5Gの未来を感じさせるディープな内容だった。
基調講演の感想を聞かれた髙橋氏は、「これだけのサービスを出されていて、びっくり。お腹いっぱいになるとともに、すべて安くしちゃうんだなと思って、株主として心配にもなった(笑)」と語る。また、玉川氏が会場を代弁する形でKDDIグループの中でのソラコムの位置づけを聞くと、「われわれKDDIは通信会社としてトラステッドなことをやらなければならない。一方で、イノベーティブなことをやっていくのがソラコムだと思っている」とアピール。実際、ソラコムは仮想化のNFVよりも、さらに先をゆくクラウド上のモバイルコアを構築しており、まさにイノベーティブだ。
5G時代を目前に控え、ソラコムはKDDIの研究開発チームとさまざまな実験を進めているという。KDDIは2019年末からトライアルを進めるという5Gだが、クラウド側にシステムを依存しすぎると、5Gの低遅延という特徴が活きない。そのため、エンドユーザーに近い基地局側に処理能力を持たせるMEC(モバイルエッジコンピューティング)に注目が集まっており、ソラコムもKDDIと実証実験を進めているという。
具体的には、ソラコムがクラウド上に構築しているモバイルコアのうち、スケール可能なパケット交換機能をKDDIの基地局側のMECテストサイトに実装し、テストをすでに成功させ、テクノロジープレビューとして公開するという。髙橋氏は、「多接続、大容量、低遅延という5Gの特色を活かすIoTのユースケースが先に来る。この部分をフレキシブルに対応するには小回りの効く設備構成が必要になる。このニーズをソラコムがカバーしてくれると思う」と期待を示した。
最後、SORACOMユーザー会について紹介した玉川氏は、「10年前、クラウドが生まれたことで、世界中でイノベーティブな企業がタケノコのように登場してきた。IoTも10年前のクラウドと同じで、テクノロジーが揃ってきたし、世の中の流れが大きく変わっている。ソラコムとして使いやすいサービスを提供することで、日本から、世界から、1つでも多くのイノベーティブなサービスが出てほしいと思っている。『You Create,We Connect!』」とまとめた。
ユーザー規模の拡大を還元する数々の値下げ発表、エッジコンピューティング領域への本格進出、IoTプラットフォーマーとしてのサーバーレスへの対応などさまざまなトピックで捉えられる基調講演だったが、個人的にはリカーリングやシェアリングエコノミー、XaaSなどビジネス変革に大きく寄与するまさにIoTを超えた事例を数多く聞けた点が大きな成果だった。
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