多くの企業がExcelでコスト管理、クラウド利用部門増加やコスト按分の難しさでやがて破綻へ?
過半数の企業でクラウド経費処理に「7日以上」かかる理由、モビンギ調査
2019年06月03日 07時00分更新
クラウドコスト可視化/削減ツールを提供するモビンギ(Mobingi)は2019年5月29日、パブリッククラウド(IaaS/PaaS)を利用する国内企業担当者を対象とした「クラウド活用度調査」の結果レポート第二弾を発表した。企業内の幅広い部門でクラウドサービスの利用が進む中で、ユーザー企業がどのようにクラウドサービスのコスト管理を行っているのか、現状の請求処理作業でどこに課題があるのかを明らかにしている。
同日の記者説明会では、モビンギ セールス担当VPの石田知也氏、同じくセールス/マーケティングディレクターの小路剛広氏が出席し、今回の調査結果から読み取れる動向や課題を説明した。
クラウド利用部門が増えた結果、自社独自の計算処理が必要になりExcelが多用される
今回の調査レポート「Cloud User Analysis vol.2 クラウド利用企業によるコスト管理・経理業務の状況」は、モビンギが5月9日に発表した第一弾レポートと同じ調査に基づくもの。独立系IT調査会社であるアイ・ティ・アール(ITR)への調査委託により、年商1億円以上かつ従業員100名以上の国内企業担当者を対象として2019年3月に実施された。有効回答数は946件だった。
第一弾レポートでは、クラウド利用企業が考える最大の課題は「コストの低減」である一方で、現実には運用コストが「大幅に削減された」と実感している企業は16%にとどまり、多くの企業がオンプレミスサーバーをクラウドに移行しただけで、大幅なクラウドコスト削減を実現する施策のステージには進めていないことが示唆されていた。
また、クラウドサービスの利用料はIT部門が一括管理するようにまとめる企業が増えている(45%)ものの、利用者(アカウント)が社内の各部門に分散しているため、毎月の経費処理に7日間以上かかっている企業が53%、14日以上かかっている企業に絞っても14%もあることが明らかになっている。
今回発表の第二弾レポートではまず、クラウド利用企業が「請求処理で利用しているツール」について質問がなされている。最多の回答は、表計算ソフトの「Microsoft Excel」で37%、続いて「クラウドプロバイダーの提供する機能」が35%となっている(本稿冒頭のグラフ)。
この結果について小路氏は、本来は1アカウントだけならばクラウドプロバイダーが提供するツールで用が足りるはずだが、複数アカウントの利用料を集計したり、利用料を各部門に割り振ったり(課金配賦したり)するなど、自社独自で何らかの計算処理を行わなければならないためにExcelが使われているのではないかと説明する。
また石田氏も「実際にお客様と話すと、8割以上がExcelを使っている」と述べ、クラウドベンダーから請求メールが届くと、その都度その請求額をExcelに入力して、独自に組んだマクロで計算処理を実行している企業が多いと語った。この場合はたいてい合算請求額しかわからないため、課金配賦などの目的で独自の計算処理が必要になるわけだ。
「たとえば1アカウントに対して請求されるクラウド利用料も、原価計算のためには開発/検証/本番環境のそれぞれの用途に分割しなければならないケースもある。そのためにExcelを駆使し、足りない部分はマクロを組んでいるという企業もある。原価計算は大変、難しいという企業の声は多い」(石田氏)
こうしたExcelによる“半手作業”の管理は、保有するアカウント数が増えればいつか限界を迎え、管理作業が破綻するはずだ。石田氏はこれまでの経験に基づく感覚値として、「だいたい50アカウントを超えたあたり」でExcel管理が困難になってくるという見方を示した。小路氏もその見方に同意する。
次に「課金配賦の方式」についての調査結果が紹介された。小路氏によると、従来は利用主体(部門)自身で請求処理を行うケースが多かったが、企業内での利用主体が増え、IT部門が取りまとめたり、場合によってはグループ会社の利用も取りまとめたりするケースも増えているという。今回の調査では、そのように取りまとめている企業が60%であり、そのうち「(各利用部門に)課金配賦している」が42%、「一括処理している(課金配賦していない)」が18%という結果になっている。
課金配賦している企業(有効回答数399社)では、どのように各部門のコスト分担割合を決めているのか。ここでは「ユーザー数に基づいて課金」が54%と過半数を占めている。小路氏は、これは企業が各部門の使用量を正確に把握できる手段がないからではないかと見ている。
「クラウドサービスなので『使用量に基づいた按分』が本来のあり方であり、一般的だろうと思われるかもしれないが、実は『ユーザー数』や『独自に設計する料金体系』で配分している企業が6割を超えている。本当は適切に配分を行いたいが、それができない(その手段がない)実態が表れているのではないか」「クラウドベンダーが提供するツールだけでは、使用者ごとに使用量を分けることができない。お客様からは『ほかの会社ではどうされてますか』とよく質問される」(小路氏)
ちなみに課金配賦をしている企業においては、単純に「プロバイダーからの請求額のみを課金している」は31%で、「請求処理の工数分を上乗せして課金している」が59%と多かった。
リザーブドインスタンスなど「コスト削減」手段の活用はまだ不十分
第一弾レポートにおいて、クラウド利用における“最大の課題”と考えられていることが指摘されていた「コストの低減」だが、それではクラウド利用企業は実際にコストを抑える仕組みを活用しているのだろうか。
各社のIaaSでは、通常の利用方法(オンデマンド)とはクラウドリソース(インスタンス)の準備方法が異なる、割安なサービスも提供している。あらかじめ長期利用契約を結ぶことで割引となる「予約型インスタンス(リザーブドインスタンス)」、オークション形式で利用料が決まり、ユーザー指定価格以下のときのみインスタンスが利用できる「スポットインスタンス」などだ。個々のワークロードの要件に応じて、こうした利用モデルを組み合わせて使うのがコスト削減の決め手となる。
しかし小路氏は、実際の利用率の数字を示しながら「まだまだコスト削減ができる余地は残っていると思われる」と語った。AWSを利用する企業の場合、割引のないオンデマンド利用の比率がまだ高いからだ。使用量の変動が少なく、長期利用が前提となるエンタープライズの業務アプリケーションなどでは、積極的にリザーブドインスタンスを活用することで利用料を引き下げることができる。
石田氏によると、現場の利用部門に任せていてもリザーブドインスタンスの採用が進まないため、利用料を取りまとめるIT部門があらかじめリザーブドインスタンスをまとめて購入しておき、それを利用する部門に割り振るかたちにしている企業もあるという。
「(顧客企業の利用実態を知る立場から言うと)リザーブドインスタンスが50%超という数字は、むしろ『高い』と感じた。これは、部分的に使っている企業も含まれるためだと思う。リザーブドインスタンスを『積極的に』購入しているのは、たとえばゲーム業界などコスト削減意識の強い企業だけであり、その割合は10%程度になるのではないか」(石田氏)
また「コスト分析を行っているかどうか」については、業種ごとに「行っている」割合に差があり53~73%の結果となった。こちらでも利用しているツールとしては「Excel」が他を圧倒している。
小路氏は、毎月の請求処理に7日間以上かかっている企業が過半数を占めるという第一弾レポートの調査結果も引用しながら、Excelを使って請求や分析の作業をしているために、処理に長い日数がかかりがちなのではないかと指摘した。こうしたバックエンド作業にかかる手間や時間は「見えにくいコスト」であるために、そこに新たなソリューションを導入して効率化しようという発想が出てきにくい可能性がある。
「(モビンギの『Ripple』など)クラウドに特化した経理処理や請求管理ツールが出てきている。こうしたものを活用していくことで、請求処理の効率化や的確なコスト分析が可能な状態にしていくことが、今後のポイントになっていくのではないか」(小路氏)
こうしたツールの場合、ユーザー宛に送付される請求書メールのような包括的な利用料ではなく、API経由で1時間単位の細かなビリングデータを取得して利用する。さらに、クラウドベンダー側での頻繁な利用料変更(値下げ)やアカウントごとに適用される特別割引などにも対応するため、請求処理の自動化と効率化が大きく進むと説明した。