2015年から実施されているNASAの宇宙基地設計コンペは、ついに2チームによる決勝戦を残すのみとなった。同コンペでは、再生利用可能な材料と、目的地に存在する資源だけを使って、3Dプリンターで有人ミッションを支援する建造物を作るという困難な課題に各チームが挑んでいる。
人類を深宇宙に送り出すのなら、荷物は軽くする必要がある。つまり、現地で見つかる資源は何でも活用すべきだということだ。
2015年以来、米航空宇宙局(NASA)はこれを実現するために、3Dプリントの宇宙基地設計のコンペ(3D Printed Habitat Challenge)を開催してきた。このコンペでは、再生利用可能な材料と、月や火星、その他深宇宙の目的地に存在する資源だけを使って、3Dプリントで有人ミッションを支援する建造物を作ることを競い合う。ここから生まれた設計が、地球での低コスト住宅に採用される可能性もある。
そして、ついに同コンペの勝者が決定する。4月29日から5月4日にかけてイリノイ州ピオリアで開催される決勝戦では、2チームが3日間かけて、3Dプリンターで各自の設計を砂利道の上で形にしていくことになる。決勝に進出したのは、AIスペースファクトリー(AI SpaceFactory)とペンシルベニア州立大学の2チームだ(後述するように、実は3チームが選ばれたが、1チームは辞退した)。記者がボストンにあるオートデスク・ビルド・スペース(オートデスクがスタートアップや大学向けに提供しているオープンなワークスペース)にAIスペースファクトリーを訪れたのは、彼らがちょうど重さ13トン以上もある巨大なプリント・システムの荷造りを終えて会場に向かう前だった。
AIスペースファクトリーは、1360キロの材料ペレットを運べるフォークリフトのロボットアームに取り付けた押出機を使って、宇宙で建造物を作る計画を立てている。同チームはアームを正確に制御する方法と、壁を適切な状態にするための方法の追求に多くの時間を費やしてきた。素材が熱すぎたり柔らかすぎたりしたら、適切な状態で建てることはできない。
AIスペースファクトリーはこれまでにすべての部品を個別にプリントしたことがあるが、すべてを同時にプリントするのは今回のコンペが初めてだ。それでもチームは、人間による介入を最小限に抑えられることを願っている。コンペでは、人手による助けが必要になるたびに減点されるのだ。もちろんこれは、宇宙で作成中の建造物に、人間が触れることはできないからである。
「今回のコンペは、自律性の追求を主軸において競われます」。AIスペースファクトリーのチームの創設者であり、宇宙建築家であるジェフリー・モンテスはそう話す(チームのプリント試験の動画はこちら)。
同チームが設計した基地は、背の高い蜂の巣のようなシリンダー型だ。側面と天井の隙間にロボットアームによって窓を取り付け、建造物に加圧処理をした後、最後の仕上げに天窓を取り付ける。
AIスペースファクトリーは2017年からこの設計に取り組んでいるが、プリンターの建造と、各部品のプリント試験を始めたのは昨年のことだ。これは困難な課題である。コンペでは、多くのチームが必要な資源を得ることが難しいという理由で脱落していった。ピオリアでの決勝には他にもう1チームが選ばれたのだが、彼らは最後の最後で出場を辞退した。
その理由は、今回のような3Dプリンターや居住空間を作るためのテクノロジーやリソースの多くが未知の領域だからである。「どのチームが勝つにせよ、そのチームが宇宙での居住空間建設という新たな分野における支配者になるであろうことは分かっていました」とモンテスは語る。
今回のコンペのために開発されたテクノロジーの応用は、火星より前に地球で影響を与えることになりそうだ。AIスペースファクトリーは、今回の設計の大規模版として、実際に人間が住むことができる「テラ(Tera)」の制作を計画している。
未来の火星での居住体験がどのようなものになるのか試してみたい人のために、 AIスペースファクトリーはエアビーアンドビー(Airbnb)をはじめとするルームシェア・プラットフォームを利用することを計画している。最高にリラックスできる週末旅行とはいかないかもしれないが、火星でのキャンプ旅行を体験してみたい人にはおすすめかもしれない。私も体験してみたいものだ。