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睡眠インセンティブは働き方改革に寄与するのか?

寝るとポイントが付くCRAZYの「睡眠報酬制度」、導入5ヶ月でどうなった?

2019年03月14日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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 2019年3月13日、ウェディングやイベントプロデュース事業を手がけるCRAZY(クレイジー)は、昨年10月から導入されている「睡眠報酬制度」の経過報告会を実施。規定時間以上睡眠するとインセンティブが付与されるというユニークな制度の狙いと経過をCRAZY 代表取締役社長の森山和彦氏が説明した。

睡眠時間の計測に用いられているエアウィーヴのアプリ

睡眠量を可視化し、指標を達成するとポイントが付与

 2012年創業のCRAZYは完全オーダーメイドのオリジナルウェディング事業を手がけており、6年間で1000組を超える全国各地でプロデュースしている。2017年からは「CRAZY CELEBRTION AGENCY」を発足し、法人向けのイベントプロデュース事業もスタート。また、2019年2月には新しい結婚式を提供するブランド「IWAI」を表参道にオープンさせている。そんな同社が創業時からこだわってきたのが健康経営だ。

 同社の健康経営は、身体的健康のみならず、精神的健康、社会的健康まで包括したWHO憲章に則ったもの。たとえば、社員ごとの働き方や休み方を選べる制度を用意したり、自然食のランチを6年間にわたって全社員にふるまうといった施策を進めてきた。こうした制度面が評価され、2019年には経済産業省が推進する「健康経営優良法人2019」にも認定されている。

 2018年10月に導入された「睡眠報酬制度」もこうした健康経営の一環で、社員の睡眠量を可視化し、指標を達成した社員に対して報酬を支払う制度だ。具体的には、1週間のうち5日以上で「6時間以上」の睡眠時間を確保できた社員に、日数に応じたポイントが付与される。付与されたポイントはオフィス内の食堂やカフェで利用できる。

 制度の運営においては、睡眠の改善に取り組むエアウィーヴ社と協業しており、専門知識の提供、睡眠に関するセミナーの実施、睡眠パッドの特別価格での販売も行なったという。また、計測は同社の睡眠アプリ「airweave Sleep Analysis」を採用しており、寝るときと起きるときにボタンを押すことで睡眠時間が打刻されるという。

睡眠報酬制度を運用するためのさまざまなノウハウ

 睡眠報酬制度は「健康にひも付くパフォーマンスの向上」「より自由で多様な働き方の実現」「新しいインセンティブ制度を通した社会実験そのもの」という3つが期待されている効果として掲げられている。「寝て、インセンティブが出たら面白い」という森山氏の思いつきと、サービス提供のためには「社員が心身ともに健康であることが重要」という信念、そして睡眠の質を追求するエアウィーヴ社の知見が組み合わさる形でスタートした。「海外でも報道されており、ドイツでは『日本人はなぜそんなに眠らないのか?』という観点で記事が書かれ、アジア圏はおおむね同調する論調だった」(森山氏)。

睡眠報酬制度について語るCRAZY 代表取締役社長 森山和彦氏

 制度面はかなり綿密に考えられている。まず「6時間」の根拠は、諸説ある中でも最低限とるべき睡眠時間が6時間だったこと。また、あくまで労働時間以外の管理なので、社員の参加は任意。「ホワイトカラーの仕事はすでに公私が完全に分離できず、管理できない前提で行なわれている。参加は任意で、しかも報酬制度なので、社内でハレーション(軋轢)は起こらなかった」と森山氏は語る。一方で、週末の睡眠時間が平日におよぶことも考慮されているので、休日の睡眠もインセンティブの対象となる。

 森山氏は記者の質問に応じて、「導入前は小出しでアピール」「誰に計測してほしいか社内で投票した」「睡眠改善した人が表彰されるので、不正しづらい」「技術的に未成熟なので睡眠の質は今のところ考慮しない」などとコメントし、制度設計や運用の細かい工夫も披露された。

睡眠と生産性に対する意識が向上

 さて睡眠報酬制度の5ヶ月間の運用を振り返ると、全社員85名中、参加者は53~39名と増減した。年末年始の繁忙期にさしかかったことで参加者は減ったものの、開始3ヶ月後の表彰式を経て、参加者もV字復活しているとのこと。計測した日の平均は10日から17日に増え、まずは睡眠時間を測るという意識自体が植え付けられたという。

 平均睡眠時間に関しては、従来の平均5時間30分からあきらかに長くなり、繁忙期の11月を過ぎた後は、おおむね6時間以上をキープするようになった。「6時間を目標にしていたので、達成したときは社内も沸いた」(森山氏)とのこと。また、「睡眠や休息の取り方が原因でベストパフォーマンスが出ない日がありますか?」という全社員向けのアンケートの値も改善傾向が見られたという。

 参加者からは「風邪が減った」「寝られたかという会話が増えた」「業務の割り当て方が変わった」といったポジティブな意見が得られた。総じて、即物的に業務パフォーマンスが上がったというよりは、可視化することで睡眠や生産性に対する意識が向上したのが大きなメリットと言えるようだ。

 CRAZYの制度設計は引き続き改良中で、今後は1日単位でポイントを付与する仕組みにして、参加障壁を下げるという。また、今後は「健康ポイント」という形で健康経営に関する報酬を統一化する予定で、別途で運動や体力作りに寄与する制度の導入も進めていきたいという。健康に向けた森本氏の飽くなきチャレンジは続く。

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