2025年に開催が決まった大阪・関西万博を見越して、統合型リゾート(IR)の計画を着々と進めるのが大阪だ。7年間で来阪外国人旅行者数を7倍以上まで引き上げたインバウンドでの実績を元に、府と市が一体になって進めるIRプロジェクトの現状と意気込みについて、大阪府の松井一郎知事に聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー KADOKAWA 玉置泰紀)
もっとも高い経済波及効果を狙ってIRの開業を目指す
玉置:まずはスケジュール感を教えてください。国の基本方針が出てから、事業者の選定ということになりますが、大阪府はこれまで先んじて統合型リゾート(IR)に取り組んでいますよね。
松井:同じIRをやるんだったら、どの時期に開業するのが一番日本の成長につながるかをつねに考えています。その点、われわれとしては、なんとか2025年の大阪・関西万博の前にIRを開業し、両者のシナジーを得て、高い経済波及効果を狙っていきたいと思っています。
やはり建設には4年程かかるので、そこから逆算した2019年の後半には具体的な事業者の絞り込みに入ります。
玉置:とはいえ、もう今年の後半ですよね。
松井:IRを設置することは決まっているわけだから、僕らは政治家としてどこで、どの時期に開業するのが一番日本のためになるかを決断し、役所を動かして行きます。決断することが政治家の役割ですよね。
確かにスケジュールとしては厳しいかもしれないけど、2019年夏以降から年末までの間に区域指定を勝ち取っていきたいと思っています。早くしてほしいという要望、どうせやるなら最大の効果を目指しましょうという希望は政府に伝えています。
玉置:国の基本方針の詳細を待たず、前段階でできることはやっているということですね。
松井:民間で新しいビジネスにチャレンジするとき、綿密に調査して、予測した中で準備をするのは当たり前のこと。われわれもそういう感覚です。政府から出ている情報や方向性を見ながら、展示場10万㎡以上、会議場は1万2000人規模の会議に対応するアジアNo.1のMICE施設を目指して、事業者の方とお話ししています。全部揃わないと、なにもできないなんてそんなの役所仕事ですよ。われわれはそうじゃない。
玉置:事業者の方々ともビジョンを共有しているわけですね。
松井:われわれはアジアNo.1、世界を驚かせるようなIRを目指しています。この理想や規模感をお伝えしていますし、民間事業者もいまできることを最大限にやってくれています。
7年で7倍以上に拡大したインバウンドの実績
玉置:日本では3エリアの区域整備計画が認定されることになる予定ですが、大阪が認定を勝ち取るにあたり、他のエリアに対して優位な点を改めて教えてください。
松井:IRは世界中のお客様を迎え入れる施設です。ここで言うお客様というのは、観光客はもちろん、国際会議やビジネスイベントに参加するビジネスマンも含んでいます。こうしたお客様を一番迎え入れられる可能性が日本でもっとも高いのは、やはり東京と大阪です。大阪は空港が3箇所あり、そのうち1つの関西国際空港は24時間運用しています。日本の成長を考えたら、当然大阪は入るはず。大阪を選ばない理由がなにかあるのですか?という感じです。
玉置:知事就任以来、インバウンドできちんと実績を上げていますよね。
松井:僕が知事になった2011年の来阪外国人旅行者数は年間約160万人でした。でも、昨年2018年はあれだけの地震と台風が発生した中でも年間約1200万人と予測されています。7倍以上の伸びです。地震と台風がなければ、1300万人いってたと思います。
玉置:海外の人たちが大阪のよさを理解してくれたということですよね。
松井:イギリスのエコノミスト誌の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」は、住みやすい都市ランキングの3位に大阪を選んでくれました。
今までだって、大阪は別に住みにくかったわけじゃない。単に世界の人には知られてなかっただけです。日本の都市と言えば、東京というイメージが強かったのは事実。でも、われわれがきちんとアピールし、大阪に来た観光客が自らSNS等で発信してくれたことで、大阪のよさを伝えられたんです。もちろん、住んでいるわれわれもうれしいし、他のまちに住んでいる方たちも、大阪に住んでみようかと思ってくれますよね。
玉置:ここまでアピールできた背景には、どういった施策があったのでしょうか?
松井:これまでの大阪は、大阪市と大阪府が連携してなかったので、もともと持っていたポテンシャルを引き出せなかったんです。民間企業がいろいろな取り組みをやろうとしても、1つにまとまって進められませんでした。
観光政策だって、大阪市と大阪府で別々でした。だから、知事が僕、市長が橋下さんになった段階で、みんなでいっしょに大阪観光局を作りました。理事長は民間から来てもらいましたし、行政もなるべく口を出さない。彼らのような観光のプロが大阪の魅力をうまく発信しているんだと思います。
玉置:観光施策に関しては、他のエリアに比べても積極さが目立ちます。
松井:大阪城公園、万博公園、天王寺公園なども、今までは単に行政が維持管理している公園に過ぎなかったんですが、太陽の塔の内部公開や大阪城公園のナイトイベントなどを仕掛けることで、集客できる観光のスポットになっています。
こうした公園は、別に新しく作ったモノではないけど、今までは観光資産として有効活用できていなかった。でも、集客していきたいと民間の方々に協力をお願いしたら、いろいろな会社が手を挙げてくれるんです。だから、観光資産としての価値も上がっていますよね。
負の遺産だった夢洲をエンタテインメントの島に
玉置:IRの候補地としては、2025年の万博会場にもなる夢洲が予定されています。夢洲のポテンシャルについて教えてください。
松井:東京で今さらお台場を負の遺産だと言う人は誰もいないと思うんですよ。ニューヨークや上海だって、ベイエリアは都市の成長を牽引する場所ですよね。でも、大阪のベイエリアは、残念ながら負の遺産でした。 なぜ負の遺産だったのか? みんな知らないふりをしたんですよ。1回失敗しただけで、もう見向きもしない。大阪市だけであのベイエリアをなんとかするのは力量不足だけど、府から口出されるのはイヤという状態で放置されていました。だけど、使い方によっては有効な資産に作り替えることができるんです。
玉置:なるほど。IRだけではなく、全体のビジョンあっての夢洲なんですね。
松井:そうです。ベイエリアでそんなに失敗しているところって、世界でもあまりないんですよ(笑)。だから、発想力、想像力、行動力の3つがあればやれると思います。今の時代の大阪という地理条件の中で、なにをやればよいのか? 大阪府と大阪市で徹底的に考えた結果、でてきたのがIRです。さらに「夢洲の広さを考えれば、もっとやれることあるよね」ということで、万博の計画まで話が進みました。
もちろん、展示型の万博、国威発揚型の万博はもはや時代にはマッチしないので、体験型の万博をやります。しかも、われわれが得意なライフサイエンスやウェルネスの分野。人が健康で人生をまっとうできるということを体験してもらいます。
玉置:IRと万博を見据えて、夢洲はどのようになっていくのでしょうか?
松井:あの島に住居は考えていません。人がいないのがあの島の魅力。人を惹きつける非日常的なエンタテインメントの拠点として成長させていきたいです。
吉村市長はF1レースを誘致したいと言っています。実現できるかは別にして、こういう発想ができるのも、やはり人が住んでいないからです。ほかの都市で公道レースをやろうと思っても、一般の人が住んでいたら、難しいです。
玉置:日本型IRでは、イベント会場、宿泊、観光、送客のほか、エンタテインメントも重要になります。IRのエンタテインメントに関するイメージはお持ちですか?
松井:ソフトの部分は専門家に考えてもらうのがよいと思います。専門家ではないわれわれが知恵を絞っても、しょぼいものが出てしまうので。われわれの仕事は非日常の空間を作れるようにしておくことです。
IRの法整備が進んだからこそ、ギャンブル等依存症対策が本格化した
玉置:最後、府民の多くが懸念しているカジノでのギャンブル依存症の対策についてもお話を聞かせてください。
松井:IRの法整備が進んだことで、初めてギャンブル等依存症対策基本法ができました。一番依存性が高いのはパチンコですが、なぜかと言えば誰でも入れるからです。一方で、IRのカジノエリアに関しては、入場に一定の規制が課せられます。これだけでも、今までのパチンコよりはるかにハードルが上がっているし、家族の申し出によっても入場できなくなることが制度化されています。加えて、大阪府市としては、最先端のICT技術を活用した厳格な入場管理もIR事業者に求めていきます。困っているのは家族ですから。
また、依存症になってしまった人に向けたケアとして、グローバルのIR事業者が展開している施策のほかに、大阪では依存症外来を充実させ、大阪版の依存症対策プログラムをきちんと作ります。
玉置:反社会的勢力への対策に関してもコメントをお願いします。
松井:ご存じだと思いますが、世界のIR事業者は免許を取るために厳しい背面調査を受けており、ギャングとのつきあいが明らかになったら、あっという間に免許取り消しです。IR事業者免許は世界のスタンダートがあり、暴力団等反社会的勢力とのつきあいは許されないわけです。
一方、日本では暴力団対策法があり、加えて、大阪府暴力団排除条例もあり、暴力団と指定された段階で、その関係者までいろいろな権利が剥奪されます。世界レベルの免許規制と国内の厳しい規制の中で、IRに暴力団等の反社会的勢力が入り込む余地はないと考えています。
玉置:ありがとうございました。