情報銀行は、個人のデータを預かって管理し、本人の希望に基づいて他の事業者にデータを提供する。情報銀行の機能を短く伝えようとするとこのようになるが、実際どのように利益を出そうとしているのか、利用者にはどのような恩恵があるのか、具体的には見えにくいものがある。
電通子会社・電通テックが立ち上げた新会社「マイデータ・インテリジェンス」が手がけるサービスは、情報銀行への理解を深めるうえで注目しておく必要がありそうだ。
●電通孫会社がすでに関連サービス開始
電通テックが開示しているプレスリリースによれば、マイデータ・インテリジェンスは2018年9月に電通テックの100%子会社として設立された。すでに2018年11月19日から個人のデータを管理・運用するプラットフォーム「MEY」のサービスを始めている。MEYはMEとKEYを合わせた造語で「ミー」と読むようだ。
マイデータ・インテリジェンスが始めたサービスは「MEYベネフィット」だ。同社によれば「企業が『MEY』上でキャンペーンなどを実施することで、生活者がさまざまな企業と継続的なコミュニケーションを築き、より多くのベネフィットを獲得することを可能とするプロモーション・メディア」だという。すでにいくつかのプロモーションが始まっている。
その1つが「わたしの朝ごはんキャンペーン」だ。利用者はMEYベネフィットにアカウントを作り、メールアドレスや生年月日、住所などの個人情報を登録。朝ごはんを撮影した画像をスマホやPCから送信する。画像を提供した人の中から抽選で10人に3000円分の電子マネーが贈られるというものだ。
「年末年始プレミアムキャンペーン」では、年末年始に購入した1000円以上のレシートを撮影して、送信する。レシートは、購入日、商品名、金額、購入店舗名がわかるように写真を撮影するよう条件が設定されている。こちらはレシート画像を提供した人の中から抽選で100人に1万円分のギフトカードが贈られる。
●いずれは生体認証なども対象に
いずれのキャンペーンについても応募規約が示されている。参加者が提供した情報の利用目的と、第三者への提供については、次のような記載がある。
【利用目的】
賞品発送
商品・サービス・アンケート情報の案内のため
個人を特定しない形での集計・分析
商品・サービスの開発、提供のため
【第三者への提供】
お預かりした個人情報は、お客様の同意なく第三者に開示・提供することはありません。
現在実施されているキャンペーンはいずれもマイデータ・インテリジェンスが実施主体となっているため、主に同社がMEYを含むサービス開発に個人データを利用するものと理解してよさそうだ。
今のところMEYを通じて個人とマイデータ・インテリジェンスが送受信する個人情報は、比較的気軽にやりとりできる情報に限定されているようにみえる。ただ、同社が示しているロードマップによれば、同社は今後、次のような個人データを取り扱う構想のようだ。
ID・パスワード管理
データトレード
ヘルスケア
保証書
家計簿
フォト
本人認証
生体認証
与信
送金・決済
●利用者の動向を丸裸に
マイデータ・インテリジェンスがWebで公開しているコンセプトムービーによれば、同社のサービスを利用する企業側のメリットを次のように紹介している。
「これまでバラバラで、断片的にしか把握できなかったパーソナルデータにアクセスできるため、生活者の動向、トレンドなどをより深く知ることが可能となります」
上記の個人データをすべて取り扱うようになれば、利用者の動向・トレンドはほとんど丸裸状態になるだろう。それだけの情報を企業側に預けることで、個人が受けられる利益とはどんなものになるのだろうか。
MEYベネフィットの規約を読んでいて、1つ気になった点がある。
この連載の記事
- 第313回 アマゾンに公取委が“ガサ入れ” 調査の進め方に大きな変化
- 第312回 豪州で16歳未満のSNS禁止 ザル法かもしれないが…
- 第311回 政府、次世代電池に1778億円 「全固体」実現性には疑問も
- 第310回 先端半導体、政府がさらに10兆円。大博打の勝算は
- 第309回 トランプ2.0で、AIブームに拍車?
- 第308回 自動運転:トヨタとNTTが本格協業、日本はゆっくりした動き
- 第307回 総選挙で“ベンチャー政党”が躍進 ネット戦略奏功
- 第306回 IT大手の原発投資相次ぐ AIで電力需要が爆増
- 第305回 AndroidでMicrosoftストアが使えるように? “グーグル分割”の現実味
- 第304回 イーロン・マスク氏、ブラジル最高裁に白旗
- この連載の一覧へ