トマトとチーズのまろやかさに
ガーリックペッパーのアクセントが光る
しかし、トマトチーズかつ丼の味わいは、びっくりするぐらい、富士そばのかつ丼の弱点だった「味が濃い」が改善されている。まず、トマトソースとトンカツの組み合わせがよい。意外に思えるかもしれないが、よく考えればトマトソースのカツレツだってあるわけで、突拍子もない組み合わせではない。トマトとチーズの相性についてはいまさら言うまでもないだろう。豚肉(と衣)+トマト+チーズ+玉子なわけで、悪かろうはずがないのだ。
もともと味付けがラフだったかつ丼のトンカツ部分が、トマトソースの甘味+酸味とチーズのコクでみごとに中和されており、「ちょうどよい」味の濃さになっている。これにはおどろいた。トマトの酸味がアクセントになりつつ、濃いめの味付けに食傷気味になることもない。最初から最後まで一気に食べられてしまう。白米とのバランスもまったく悪くない。トマトとチーズに米の食感が加わることで、リゾット的な風情さえ感じられる。
チーズと玉子のまろやかさで味の濃さが抑えられているが、一方で味がおとなしくなって輪郭のはっきりしないテイストになっているのでは? という心配は不要だ。パンチを与えているのが、上にまんべんなくかけられているガーリックペッパー。これが富士そばなのに――ほかのメニューから受ける印象から考えるとにわかに信じがたいのだけれど――味と香りが強すぎないのもびっくりする。ほどよい刺激が、全体の味を引き締める役割を担っている。
グルメ担当として多用してはいけない表現であることを承知で書くけれど、普通においしい。いや、これは普通ではない。名前と外見から想像される味より、はるかによくできている。
さすがに高級路線とは言いがたいものの、それでも、イタリアの家庭料理をライスにのせたらかなりおいしかったですよ……みたいな、妙な完成度がある。塩辛すぎることも、薄味でボケていることもなく、味に変にカドがない。ほんとうにバランスがよい。
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