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Yコンビネーター、二酸化炭素回収貯留ベンチャーを募集

2018年10月26日 06時46分更新

文● James Temple

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大気から温室効果ガスを取り除く新たな方法を探るスタートアップ企業をYコンビネーターが募集している。

最近では多くの研究が、地球の平均気温の上昇を産業革命前の水準から2度未満に抑えるという目標を、排出削減だけで回避するのはほぼ不可能であると結論づけている。背景にあるのは、大気中の温室効果ガスの濃度や各国のクリーンエネルギーへの転換の遅れだ。国連の気候変動パネルなどの各機関は、二酸化炭素を回収、貯留する多様な方法も必要になるだろうと現段階で指摘している。

問題は科学者も企業も、そこまでの規模で二酸化炭素を回収、貯留できる経済的な方法を見出していないことだ。

Yコンビネーターは10月23日の声明で、「問題を技術的に解決する新たな方法に投資し、また熱心に追求していく時期が来ています。そこには、リスクが高かったり、まだ証明されていなかったり、実際には効果がないかもしれない方法も含まれます。大きな転換をするべきです」と述べた。

これまでにも、クライムワークス(Climeworks)やカーボン・エンジニアリング(Carbon Engineering)などのスタートアップ数社が資金を集め、大気から二酸化炭素を直接回収するDAC(direct-air capture)施設を建設している。しかし、Yコンビネーターは、温室効果ガスを取り除く初期段階の4つの手法に光を当てた。「これらの手法は、さらなる研究及び注目に値すると考えており、私たちが投資を楽しみにしている分野だ」という。

投資対象となるのは、以下の4つだ。1つ目は、鉱物風化の自然過程を促進する電気化学的な方法を利用して、大気や海から二酸化炭素を取り出す手法。2つ目は、光合成で海中の二酸化炭素を回収、貯留できる遺伝子操作された植物プランクトンを生み出す手法。3つ目は、砂漠を人工的に氾濫させてオアシスを作り出し、2つ目と同じ目的で植物プランクトンを培養する手法。4つ目は、炭素を効率的に回収、貯留でき、使用後は廃棄したり、他の製品の製造に利用できる酵素を生み出す手法である。

Yコンビネーターは、これらの領域のスタートアップ企業や非営利団体への投資を検討するという。

気候変動リスクの上昇や、これまでの公共政策の消極性を鑑みると、世界が直面している危機に対処できる可能性のある領域の研究を支援するのは非常に重要だ。

だがそれとは別に、地球全体に大きな影響を与える可能性がある事業を、利益追求型のベンチャーが立ち上げることが妥当かどうかという疑問がある。環境リスクや恩恵を十分に調査する前にソリューションを展開しなくてはならないという、ビジネス面での課題に直面する可能性があるからだ。4つの手法に関しては、すでに非常に激しい議論が巻き起こっている。砂漠を水浸しにするような大胆な案を利益目的と結び付ければ、さらに事態が複雑化するのは必至だ。

顕著な例として、2012年、カーボンオフセット市場に関わっていたカリフォルニアの起業家が、植物プランクトンの成長を促すために科学的な手順を無視し、太平洋に鉄粉を投入して国際的な議論に拍車をかけたことが挙げられる。

ネイチャー誌の記事が昨年言及したように、鉄による海洋肥沃化の利用を探る主な研究は1990年以降13件あるが、二酸化炭素を回収できるかどうかの結論はまだ出ていない。むしろ、毒性の藻類ブルームを発生させ、海の生態系にマイナスの影響を与える可能性について懸念を示す科学者もいる。

ハーバード大学の「地球工学研究開発プログラム」のゲルノット・ワグナー事務局長は、民間投資家が温室効果ガス回収に有効な商業的手段を支援することは、非常に重要だと語る。特にプロジェクトへの投資によって、DACを目指すベンチャーが実現すれば、「より効率よく二酸化炭素が回収できるようになるでしょう」とメールで語った。

ワグナー事務局長は「それこそが、Yコンビネーターに力を発揮して欲しい分野です」と付け加えた。「遺伝子操作された植物プランクトンの培養といった、さらに実験的な技術はまだ基礎研究に力を入れるべきであり、商業的に関心を持つのは時期尚早でしょう」。

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