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センサー+産業用ルーター+モバイル閉域網+予兆検知アプリをパッケージ、現場導入の“壁”取り払う

THKがドコモやシスコと製造業IoT基盤「OMNI Edge」構築

2018年10月19日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 大手機械部品メーカーのTHKとNTTドコモ、シスコシステムズの3社は2018年10月18日、製造業向けの部品障害予兆検知サービス「OMNI edge(オムニエッジ)」を共同で構築したことを発表した。工作機械などの要素部品に取り付けるセンサーとエッジコンピューティングルーター、モバイル閉域網回線、予兆検知ソフトウェアなどをパッケージ化し、現場導入時の自動設定や安全な通信、グローバル保守対応を実現する。THKが2019年2月から無償トライアルを実施し、2019年春から商用サービスとして提供する予定。

(左から)NTTドコモ 取締役常務執行役員の古川浩司氏、THK 取締役専務執行役員の寺町崇史氏、シスコシステムズ 執行役員 最高技術責任者 兼 最高セキュリティ責任者の濱田義之氏

「OMNI edge(オムニエッジ)」サービスの概要。製造現場の部品センサーデータをモバイルIoTネットワーク(閉域網)経由で安全に収集し、部品状況の可視化や予兆検知を行う

 THKは、世界トップシェアのLMガイド(Linear Motion Guide:直線運動案内)部品を始めとする機械要素部品の大手メーカーだ。内蔵の金属球やレールによってスムーズかつ精度の高い直線運動をサポートするLMガイドは、製造業の搬送用ロボットや射出成形機、自動包装機などを構築/設置する際に使われるほか、メーカー製工作機械などにも組み込まれ出荷されている。

 ただし、LMガイドの部品状態(金属疲労、潤滑不良など)は目視などでは判断が困難であり、その結果として故障などが急に発生し、現場業務に支障をきたすといった問題が生じていた。

 THKでは今回、要素部品の障害発生を予兆検知する「THK SENSING SYSTEM(TSS)」を開発した。TSSは、LMガイドなどの要素部品に後付けできるセンサーモジュールと、センサー信号を計算処理してネットワーク通信(有線/無線LAN、Bluetooth)可能にするアンプ、アンプ経由で受信したセンサーデータをリアルタイムに可視化するソフトウェアにより構成される。さらにTHK独自のアルゴリズムによる分析で、部品の微細な振動データから部品状態の数値化や診断、障害予兆検知を可能としている。

「THK SENSING SYSTEM(TSS)」の概要。独自アルゴリズム分析で予兆検知が可能

LMガイドに取り付けられたセンサーモジュール(左)とアンプ

 今回3社が構築したOMNI edgeは、シスコの産業用ルーター「IRシリーズ」とドコモのモバイルIoT回線サービスを介して、TSSで得られるセンサーデータを安全にデータセンターへ送信可能にするサービス。これにより、海外工場を含む遠隔拠点のセンサーデータを収集/一元化し、可視化と分析、さらには予兆保全が可能になる。顧客への販売はTHKが行う。

 発表会に出席したTHK 取締役専務執行役員の寺町崇史氏は、OMNI edgeの特徴として「簡単設定」「安全な運用」「グローバル対応」の3点を挙げた。

 OMNI edgeでは、エッジコンピューティングルーターの電源を投入するだけでモバイル回線のネットワーク設定が自動的に行われる“ゼロタッチプロビジョニング”を実現しており、ITエンジニアが不在の現場においても簡単に導入ができる。また、ドコモが提供するモバイル回線はエンドトゥエンドの閉域網となっており、データの安全な収集を可能にしている。加えて、ドコモが今年6月から提供する法人向けグローバルIoTソリューション「Globiot(グロビオ)」の採用により、海外拠点での導入時もドコモがワンストップで回線提供やサポートを行う。

OMNI edgeは「簡単設定」「安全な運用」「グローバル対応」という3つの特徴を持つ

 THKではLMガイドに後付けできる専用センサーモジュールを開発済みであり、まずはLMガイドを自社設備に導入している既存顧客に対し、オプションサービスとしてOMNI edgeの提案と販売を進めていく方針。

 さらに寺町氏は、今後の展開として、LMガイド以外の要素部品向けセンサー/アプリの開発を進めるほか、THKの要素部品を組み込む工作機械などのメーカーとも協業を検討し、OMNI edgeの適用範囲を拡大していきたいと語った。部品レベルの故障予兆検知に限らず、その他のセンサーデータも組み合わせて装置全体の予兆検知や品質不良製品の発生検知などにも展開していく計画だという。

当初はLMガイド用センサーからスタートするが、今後は他の要素部品向けセンサーや、その他のセンサーデータもOMNI edgeに取り込んで適用範囲を拡大していく計画

 THKでは、来年2月から国内50社を対象にOMNI edgeの無償トライアルを開始する。寺町氏は、「この無償トライアルを通じて料金体系や販売/サポート体制などを検証していく」と説明し、具体的な販売モデルやサービス価格などについてはあらためて発表するとした。

製造業に不可欠と言われてきたIoT活用には「“壁”があった」

 OMNI edgeサービス提供の背景について寺町氏は、製造業が直面する“IoT化の壁”を指摘する。

 日本国内の製造現場において熟練エンジニアが減少しつつあるなかで、製造業におけるIoT活用は喫緊の課題となっている。ただし、製造現場におけるITスキル人材の不足などが影響し、IoT化の取り組みは「実証テストばかりが繰り返され、本番稼働に至っていないケースが多い」(寺町氏)。この“壁”を取り払うため、導入や運用、データ活用に専門的なITスキルを必要としないOMNI edgeを提供する。

製造業ではIoT活用が強く求められる一方で“壁”が存在し、ビジネス効果が出るに至っていないと寺町氏は指摘

 NTTドコモ 取締役常務執行役員の古川浩司氏も、「かねてから日本の“ものづくり”にはIoTが不可欠と言われてきたが、さまざまな事情があって進展していない」と同じ問題を指摘。今回、ドコモがモバイルIoT回線を提供することにより、初期投資不要の現場ネットワークが簡単に導入でき、さらに顧客のグローバル展開にもGlobiotで対応すると説明した。なおドコモのGlobiotでは、海外キャリアとの提携によりIoT通信のローミングと請求やサポートのワンストップ化を実現しており、海外キャリアとの閉域網接続についても日本企業が進出する主要な国/地域から順次対応を進めているという。

 またシスコシステムズ 執行役員 CTO兼CSOの濱田義之氏は、シスコでは今回のOMNI edgeサービスについて、企画立案段階からビジネス開発やコンサルティングのかたちで関わり、エッジコンピューティングルーターのIRシリーズに加えて、IoTデータファブリック「Kinetic」も提供していると説明した。

 なお濱田氏によると、現時点のOMNI edgeでは、エッジコンピューティングルーターはセンサーデータの整形と上流側(データセンター側)への送信のみを行っているが、仕組みとしてはデータセンター側からエッジへの通信も可能であり、データセンター側で学習した新たなモデル/アルゴリズムをアンプやルーターへ配信し、より複雑なエッジ処理を行うことも想定しているという。

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