ブロックチェーンを用いた最も有名な事例はビットコインや、次々に現れる仮想通貨でしょう。「通貨」という文字がありますが、各国の中央銀行が管理しているような中央集権的なものではなく、お互いに取引を管理する巨大なシステムとメンテナンスへの貢献によって新たな価値が得られる仕組みは、非常に魅力的な存在と言えます。
しかし、ブロックチェーンを日本語訳すれば「分散型取引台帳」。個人的にはこの言葉が、一番テクノロジーから離れた表現で気に入っています。中央集権ではなく分散型での管理が可能で、データの改ざんができず、スマートコントラクトとの組み合わせによって契約の自動化などが実現可能な新しいデータベース技術なのです。
ここまで説明してくると、今回のテーマである「ブロックチェーン・ビール」がなんなのか、だんだんわかってくるのではないでしょうか。もちろんブロックチェーン技術でビールが絞り出せるわけではありません。
ホームブリューもスマート化の時代
下戸な筆者にとっては、夏に水みたいにビールをガバガバ飲むよりは、秋口にコクのあるビールをゆっくり楽しむ方が性にあっているように思います。IPA天国のベイエリアはそうした楽しみに適したエリアです。
ちょっと話が脱線しますが、こちらでは「ホームブリューイング」は割と身近な趣味のようです。
バークレーの近所にビールやワインを醸造するためのグッズが売られているお店の「Oak Barrel Winecraft」(http://oakbarrel.com/)があり、手軽にビール造りを始めるキットを揃えることができます。
またビール醸造マシン「Pico Brew」(https://www.picobrew.com/)という製品もあります。
この製品がユニークなところは、ビール醸造所の材料をパックに詰めた「PicoPak」を購入することで、特定の銘柄のビールを自分の家で作れるようになる点です。1パックあたりだいたい30ドルで5リットルのビールが1~2週間程度で作れる仕組みになっています。
この材料が4層に分かれて入っているPicoPakにはRFIDタグが仕込まれていて、これをマシンにタッチすることでレシピが読み込まれ、最適な温度管理によって醸造を進めてくれるのです。細かい設定は不要なのです。
もちろん材料を自分で用意して、試行錯誤を繰り返すこともできるのですが、家でビールを造りたいのか、自分なりのビールにしたいのか、目的によって変わってきます。最も安いPico Brewは399ドルで材料のパックは前述の通り30ドルから。わりと手頃なホームブリュー体験と言えます。
ブロックチェーンでビールを醸造する?
シリコンバレーの中にある都市、ベルモントにあるAlpha Acid Brewingは、とても小さなビール醸造所で、店舗スペースと同じほどの広さでビールを醸造しています(https://www.alphaacidbrewing.com/)。ここでテクノロジー企業であるオラクルと組んで、ブロックチェーンを生かしたビール醸造が行なわれており、取材する機会がありました。
前述のようにブロックチェーンは新しい種類のデータベース。この技術をどうやってビール醸造に生かすのでしょうか。その答えは、製造と販売、消費に至るまでの品質管理でした。
Alpha Acidのような小規模な醸造所は、最高の品質のビールを届けることに価値がある。そうオーナーは語ります。最高の材料、最高の醸造、最高の配送を実現して、初めて店舗で最高のビールが飲めるというわけです。
このあたりの話は、日本にいると「当たり前じゃないか」と思いますよね。ビールの大手企業が温度管理をきちんとしながらビールを届けている話は何年も前から聞きますし、街でビールを配送するトラックの幌にもそんな事が書いてあります。いえ、だからこそ日本の食文化は最高にクールなわけです。
同じことを小規模なシリコンバレーの醸造所は、テクノロジーを生かしてやっと実現したわけです。
原材料は複数のエリアから最高の麦とホップを取り寄せます。それを、適切な温度管理をしながら、ていねいに醸造します。できあがって樽(Kegといいます)につめ、これを提携しているレストランなどに届けます。
今回は醸造所しか見学していませんが、その製造器には温度センサーが取り付けられており、これが逐一記録され、ブロックチェーンに書き込まれていきます。すべての行程や製造過程を、ブロックチェーンに記録し、樽ごとに照会できるようにするのです。
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