業務を変えるkintoneユーザー事例 第24回
疲弊した現場をkintoneで変えた猪原歯科
無駄な事務作業をなくし、働きやすい職場を実現したkintone歯医者
2018年05月18日 09時00分更新
2018年5月17日、サイボウズは大阪で5回目となる「kintone hive osaka」を開催した。毎回、パワフルなユーザー事例が披露されるkintone hiveだが、今回も粒ぞろい。まずは訪問診療の無駄な事務作業を減らし、働きやすい職場を実現した広島の猪原歯科の事例を紹介する。
食生活まで支援する広島の歯科医が目指すもの
いよいよユーザー数も9000社に達し、現場が業務アプリを簡単に作れるクラウドプラットフォームとして存在感を増してきたkintone。福岡、仙台、名古屋に続いて開催されたkintone hive osakaでも、歯科医、造船会社、美容院、製薬会社、橋梁点検会社など、バリエーションに富んだ面々が登壇し、11月に開催されるCybozu Days 2018のkintone AWARDファイナリストの座をかけて、熱いセッションを繰り広げた。
トップバッターは、昨年「裏kintone AWARD」としてkintone Cafe Japanでも登壇した広島県福山市の猪原歯科の前田浩幸氏。医療情報技師としてITと医療の橋渡しをしている前田氏は、kintoneで構築した現場を疲弊させない訪問診療の支援システムについて事例を披露した。
前田氏の所属する猪原歯科は、外来診療や訪問診療だけでなく、「食べる支援をする歯科医院」として、そもそも歯の病気にならない食べ方を支援している。受付の入り口にはキッチンがあり、単なる歯磨きのような予防だけではなく、食生活や生活習慣までを指導している。「歯磨きも食生活や生活習慣の改善も全部自宅でできること。自宅でできるケアをきちんと指導し、患者の行動を変容してもらう」(前田氏)ということで、未病のコンセプトをまさに実践していると言える。
「もう私は辞めたい」無駄な事務作業が現場にもたらした疲弊
そんな猪原歯科の課題が訪問診療での事務作業だった。訪問診療では訪問先でどういった治療や検査を行なったのかという「連絡箋」を作成して、訪問先に残していく必要がある。認知症の高齢者も多いので、きちんと家族に申し送りするためにこうした書類を作成するわけだ。昔は手書きで、複写式の紙で訪問先用とカルテ用を作っていたが、現物を見なければ内容を確認することができず、紛失や破損の恐れもあって不便だった。そこでマイクロソフトのOneNoteを使ってみたが、データが壊れることも多く、現場では不満が出ていたという。
さらに帰院しても事務処理が発生する。介護保険適用のために、ケアマネージャに報告書を送らなければならないのだ。しかもFAXで。「メールではダメなんです。だからOneNoteで作成した内容をWordにコピー&ペーストして書式化し、Excelの差し込み印刷で送り状を出力していました。これを月に百件以上やらなければならないんです」と前田氏は指摘する。同じ内容を2回やらなければならない上に、アプリケーションが複数にまたがっていたため、煩雑で無駄な作業が発生したという。
この作業のため、猪原歯科では毎日2時間近いの残業が発生していた。しかも作業を行なっていたのは、PCの作業も不慣れな50代の歯科衛生士。「現場に行くと、家族の信頼を得て、きちんと口腔ケアを提供してくる本当に優秀な衛生士なのに、無駄な事務作業が発生したことで、仕事のモチベーションを失ってしまった。『こんな無駄な作業を続けて、ミスも多くて、もう私は辞めたい』と口にするようになった。これはよくないと思いました」と前田氏は語る。
もちろん、経営側からしても残業代がかかり、現場からの不満に突き上げられ、場合によっては優秀なスタッフが退職してしまう可能性もはらんでいた。こうした課題を解決するために導入されたのがkintoneだった。
現場で書類を作成し、そのままFAX送信まで実現
今回猪原歯科がkintonで実現したのは、「現地で入力して、kintoneに保存して、そのままFAXできる」というシステムだ。これにより入力は現地で1回行なえば済み、帰院してからの事務作業は不要になる。実際、kintoneの導入後、月17時間34分だった残業時間は9時間48分になったという。
そのため、猪原歯科ではkintoneに加え、帳票出力を支援する「プリントクリエイター」(サイボウズスタートアップ)を導入した。「PDFデータを読み込ませ、kintoneのデータをどこに配置するのか、ドラッグ&ドロップで設定すれば、きれいな帳票として出てくる」(前田氏)というプラグインにより、Wordで作っていた書類作成をkintone上で実現した。
また、ネットFAXを実現する「BIRDS」(バーズ情報科学研究所)によって、kintoneからボタンを押すだけで書類がFAXが送れるようになった。「医療の現場でさまざまな方と連携しようと思うと、ネットがない人も前提としなければならない。紙とネットで連携する際に、この2つのサービスはとても便利」と前田氏は語る。
システム設計で重視したのは、「どこでどのように誰がデータを入力するのか」というインプットと、「どこでどのように誰がデータを閲覧するのか」というアウトプット。「特にアウトプット。絶対になければならないデータはなんなのかを考えて設計しています」(前田氏)とのことで、ケアマネージャーに送るFAXと患者宅に置いてくる書類を念頭にシステムを構築したという。
フェイスツーフェイスで患者に向き合えるやりがいのある職場に
今回は訪問診療での活用法だったが、猪原歯科では診療内容、申し送り、患者情報などあらゆるデータをkintoneに集約し、業務でフル活用している。「歯が2本しかない人が普通の食事をしたら、当然のどに詰まる。だから、食事の内容まで取り込んでおかなければならない」(前田氏)とのことで、食事内容やレントゲンまでkintoneに登録。kintoneを見れば、患者の情報がすべて把握できるという仕組みを実現しているという。
無駄な事務作業を減らし、フェイスツーフェイスで患者に向き合えるようになったことで、猪原歯科は働きやすい職場になったという。離職率も減り、採用や人材育成のコストも減らすことができた。「私が入る前に実際、燃え尽きて辞めてしまった人もいた。でも、そういう人がいなくなったのは、本当に実感している」と前田氏は語る。
長時間労働が是正されたことで新しい職員も増えた。「職員全体の1/4を占めるシングルマザーも、しっかり働けるし、残業なしで帰れるようになる。今年も3名のシングルマザーが増えましたが、みんなやりがいをもって働いてくれています」と語る前田氏。働き方改革に実現するパートナーとして、kintoneが大きく寄与したようだ。
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