2018年のMWC(Mobile World Congress)の主役が5Gだったことに異論の余地は無いと言える。当初2020年と言われていた商用サービスは2019年に前倒しとなり、3GPPは2017年末に5Gの特徴となる「5G NR(New Radio)」の仕様を固めた。MWC開幕の前日に閉幕した平昌五輪では試験的に5Gの電波が飛んで、さまざまな実験が行なわれた。ではデバイス側はどうなるのか?
”5G PC”(ちょっと違和感)
電波の準備が整っても、実際に利用できる端末が登場しないことには5Gスタートとはいえない。これまではネットワーク面にばかりにフォーカスが当たってきたが、今年のMWCではデバイス側でも動きがあった。
個人的に気になったのが、Intelのブースにあった2in1 PC。自社5Gのモデムを内蔵していると売り込む、“5G PC”とでも言うべき存在だ。
IntelはMWCの直前に、2019年の後半にも自社の5Gモデムを搭載したPCが登場すると語っている。同社はここでDell、PC、Lenovoらと協力している。
小見出しで“違和感”とカッコ付きで書いたのは、モバイルのイベントでPCという部分もあるが、”セルラー無線技術をPCに”というのは、決して新しいものではないこともある。モバイル業界は過去に、なんとかして定着させようと試みたちょっと苦い過去があるのだ。
3Gでモバイル業界がWi-Fi対抗で試みた
「Mobile Broadband」イニシアティブ
時はさかのぼって10年前。時代は3Gが後半戦に差し掛かった頃に「Mobile Broadband」というイニシアチブが発足した。組込型の通信モジュールを携帯電話以外に普及させようというものだった。
当時業界は、HSPA技術(下り最大7.2Mbps)のプッシュに必死だった。iPhoneが登場したばかりで、現在で言うところのスマホはまだまだ少数派で、フィーチャーフォンが多数を占めていた。そこで(当時としては)高速な通信技術のメリットが受けられる端末のバリエーションを増やそうとしたわけだ。
もちろん、無線技術におけるライバルであるWi-Fiに対抗する狙いもあった。当時、欧州の多くの通信事業者は3Gを、「ドングル」でのデータ通信でスタートしたこともあり、それならばPCメーカーが最初から3Gモジュールを搭載したものを提供できると見ていたという背景もある。
音頭をとったのはGSMA。通信事業者を中心とした欧州ベースの業界団体だ。GSMAはMWCの主催者として知られるが、この手の業界全体でのイニシアティブで成功した例が少ない(GoogleやAppleのアプリストアに対抗して始めたものの、すぐに頓挫した「Wholesale Applications Community」を覚えている人はいるだろうか?)。
GSMAは当時、3Gモジュール搭載PCの潜在市場規模を500億ドルと見積もっており、Vodafone、Orangeなどの欧州のオペレーター、Ericsson、Qualcomm、Gemaltoなどのモバイル業界の重鎮、東芝、Dell、Asus、AcerなどのPCメーカー、Microsoftまで参加した。ロゴを始め相当なマーケティングを行なったはずだが、いつの間にかなくなっていた。
このような過去を考えると、5G PCが成功するのか確信はない(そもそも3G PCがなぜ成功しなかったのかを分析する必要がある)。当時とは事情が変わってきているが、時代はポストPCだ。あまり楽観できないような気もするが。なお、Intelのブーススタッフに聞くと、「ニッチかもしれないが、ニーズはあると考えている」とのことだった。
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