「ほぼ日」がARに本格参入
ARを使った新しい地球儀「アースボール」。「ほぼ日手帳」でお馴染みの「ほぼ日」からリリースされました。
ARは「Augmented Reality」の略。日本語では「拡張現実」と、少し硬い表現がされますが、人が知覚する現実をコンピュータなどでさらに拡張する技術のこと。たとえば、世界中でヒットした携帯ゲーム「ポケモンGO」などに使われたことで知られています。
また、都市部などで道案内のデジタル指示看板としてARが試験的に使われたりもしています。
しかし、ポケモンGOのケースでは、ゲームの処理速度を上げるためにAR機能をオフにしてしまうプレイヤーが多かったり、ARを使ったデジタル指示看板では人が通れない場所を指定したりとトライ・アンド・エラーを繰り返しています。
テクノロジーとしてインパクトの大きかったARは、いままで実用的なサービスやプロダクツとして、なかなか社会に浸透しなかったのが現実です。「拡張現実」であるはずのARが、マーケットや生活にうまく拡張していかない…。それは逆説的でありながら、少し皮肉なジョークのようにも聞こえます。
地球儀の再発明
アースボールがいままでのARプロダクツと大きく異なるポイントのひとつは、ARマーカー(カメラを通じてARを同期させる記号)となる地球儀を新たに作り直したこと。やや大げさな例かもしれませんが、スティーブ・ジョブズがiPhoneを初めて紹介するとき「電話を再発明する」と言ったことと少し似てる気がします。
いままでの地球儀は「重く」「場所をとる」「大きい」といったオールドファッションの象徴でした。地球儀への憧れはたしかにありましたが、上記の理由から我が家にもありません。正確な地球儀って、意外に高価なんですよね。
アースボールは、その地球儀を「柔らかく」「軽く」「邪魔にならない」ようにした。それだけでなく、スマートフォンやタブレットの専用アプリと連動し、世界各国の国旗、それぞれの国の人口や面積、主な言語などの基本情報はもちろん、昼と夜の地球の姿、世界遺産の映像、最新の研究に基づいた恐竜の姿などを見ることができます。詳細なイラストで描かれた恐竜は意外に美しくて驚きです。
さらにデジタルコンテンツは日々更新され、たとえば「平昌オリンピック」で各国がどれくらいメダルを獲得しているかをメダルタワーで表示する、最新のアプリも公開されています。
じつはARはアナログとデジタルのハイブリッド
こうしたプロダクツでの成功の鍵は「ARはアナログとデジタルのハイブリッド」だと、筆者は勝手に分析しています。
プロモーション動画の冒頭で紹介されているように、空気の力で膨らませるボールタイプなのですが、素材の「非フタル酸PVC」が厚く、しっかりしているのも独特です。愛猫がたまに舐めたり追っかけたりもしますが、手入れもラクチンそうで多少汚れても気になりません。
ARマーカーとしてだけでなく、地球儀として愛らしく実用的に作られ、子供がボールのように遊んでも安全で大丈夫。それでありながら、地球儀としてもしっかりと機能する、正確で精密なディテール。そんなアナログと、冒頭で紹介したARデジタルコンテンツのバランスが絶妙なプロダクツに仕上がっています。
筆者が使用しているiPhone 8 Plusでは、AR画像合成速度もあまり違和感は感じません。おそらく、そうした最新のスマホの画像処理速度の進歩もARを利用したプロダクツの投入のタイミングとしてはベストなのでしょう。
新しいテクノロジーマーケット
電気とガソリンで動くハイブリッド・カーが大ヒットを生んだように、最新のテクノロジーと既存の技術の融合は多くの人に受け入れられる傾向にあります。
最新過ぎても、古過ぎてもうまくいかない。アナログとデジタルのちょうどいいバランス。料理とワインの最良の組み合わせを、結婚にたとえて「マリアージュ」と表現することがありますが、デジタルとアナログの絶妙なマリアージュ。それこそがこれからのテクノロジーマーケットの成功の鍵だと、筆者はコッソリと思っています。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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