ヒトがにおいを感じる嗅覚(きゅうかく)は、五感の中で最も原始的なものだという。鼻の奥にある「嗅細胞」が発する信号はほぼ直接大脳に伝わる。これはまだ目が見えない段階で母乳をかぎわけるための仕組みらしい。
においには一種、生物の秘密めいた魅力がある。
マンダム 基盤研究所 生理解析研究室の久加 亜由美(きゅうか あゆみ)主任は臭気判定士の資格をもち、同社でにおいに関する基礎研究を担当している。昨夏は女性のにおいを評価していた。
同社では女性向けのボディシートやロールオンタイプの制汗剤などを発売している。同社がそれまで手がけていたのは男性向け製品が中心だったこともあり、女性向け制汗剤開発のため、女性のにおいの研究をはじめたのだという。
研究の結果、意外なことがわかったそうだ。
「男性と比べて、女性は特別こういうにおいの種類があるという特徴は見つけられなかったんです。男性に比べるとにおいの強さがやや弱いというだけでした。面白いと感じたのは、男性のわきのにおいの強さは、年齢が進むとだんだん弱くなるのですが、女性的には基本的に低いながら変化があまりないんですね。ひとりの人物を追った結果ではないんですが」(久加主任)
女性に限らず、同社では体臭の評価と研究を続けてきた。
「体臭が強い時期は夏場なので7~8月の週末はほぼ毎週体臭を評価していました。先週はわき、今週は頭など、ひと夏で100人ほどのにおいをかぎました」
研究の結果、わきのにおいは8種類にわかれるという発見があった。具体的には「ミルク」「カレースパイス」「酸っぱい」「カビ」「蒸し肉」などだそうだ。また、男性の加齢臭についても発見があった。30代で加齢臭といわれていたにおいは、ミドル脂臭という別のにおいと混同されていた可能性があるという。
「主に30代くらいから『加齢臭が出てきた』と言われはじめるかと思いますが、実は加齢臭のもとになる2-ノネナールという成分は50代以降から本格化するんです。加齢臭は枯れ草臭ともいわれますが、30代くらいに変わってくるにおいは脂っぽいにおい。それはミドル脂臭といい、ジアセチルが原因成分のにおいなんです。ミドル脂臭は頭、とくに後頭部から発生しますが、一方の加齢臭は胸や背中の体幹から発生するもので、別物なんですよ」
目に見えないにおいが科学的に分析されていくとにおいに対する見方が変わってくる。久加主任はにおいにかんする正しい知識を身につけることが大切だと話す。体臭に関する研究を国際学会で発表したときのエピソードだ。
「海外の研究者から受けた質問の中で印象的だったのは『日本人はにおいが少ないと思っていた』という声でした。日本人の体臭の強さは相対的には低いと思いますが、中には強い方もいます。体臭は悩みにつながりやすいと思いますが、しっかりしたケアをしていれば心配しなくてもいいといえると思います」
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中。
人気の記事:
「谷川俊太郎さん オタクな素顔」「爆売れ高級トースターで“アップルの呪縛”解けた」「常識破りの成功 映画館に革命を」「小さな胸、折れない心 feastハヤカワ五味」