太陽光地球工学の専門家であるハーバード大学のキース教授は、トランプ大統領のツイートを心配している。太陽放射管理テクノロジーが排出ガス削減反対派に政治利用されることを懸念しているのだ。
地球温暖化への対抗措置として、化学物質の微粒子を大気に放出した場合のリスクは分からない。だが、太陽放射管理と呼ばれる分野の世界有数の専門家の1人によれば、「理にかなった」展開ならば、享受できる利益と比べてリスクは「比較的少ない」ことが、限られた研究データから分かっているらしい。
とはいえ、ハーバード大学のデビッド・キース教授(応用物理学・公共政策)は、下心ある政治家たちがこの太陽放射管理の技術を急速に展開しようとしていると心配している。
11月7日から始まったMITテクノロジーレビュー主催のEmTechの講演でキース教授は、今最も気がかりなのは太陽放射管理が唱える環境リスクの可能性ではなく、「排出ガス削減を阻もうとする者たちが、多くの人を混乱させる方法としてこの技術を悪用する恐れ」だと語った。キース教授によると、太陽放射管理の「理にかなった」展開とは実際どういうものなのか、もっとよく理解するにはさらなる研究が必要だという。
今年の始め、キース教授はアリゾナ州ツーソンの上空での実験計画を同僚とともに発表した。管理された実験室という環境以外で実施する初の公式な地球工学研究プロジェクトの1つで、プロペラとセンサーを搭載したゴンドラを高高度気球で飛ばすというものだ (「人工的な気候制御で、地球温暖化を緩和できる? 副作用は?」参照)。
米下院科学委員会(同委員会の委員長はつい最近、気候変動に対する不安を「ヒステリー」と呼んだ)は、11月8日に地球工学を主な議題とする公聴会を開催する(編注:この記事の原文は11月7日に掲載された)。キース教授はこのような公聴会は期待外れに終わるだろうといらだっている。
「行政がこのような技術を急速に推進すると、現実的なデメリットが生じます」とキース教授はいう。排出ガス削減政策の裏付けとなっていたパリ協定の離脱もそうだ。「ある意味、私たちが最も恐れているのはトランプ大統領のツイッターでの発言です。『太陽光地球工学で万事解決! 素晴らしい! もう排出ガスは削減しなくていい』などと書かれてしまわないかと」。
現時点で大規模な研究活動を始めるのは無謀だ、とキース教授はいう。倫理的で比較的低リスクな方法で管理できる実験方法が、まだ明らかになっていないからだ。そのためにはまず、基本的な知識の集約を目的とした小規模なプロジェクトが必要になる。「テクノロジーに対するガバナンスと知識は同時に進化しなければなりません。この研究にはガバナンスが必要です。そして、太陽放射管理に対するガバナンスが最終的にどのようになるのかを注視し、追求する必要があります」とキース教授は語った。