アメリカ、エストニアに続き、東京オフィスを開所したプラネットウェイ
「e-Residency」などの仕組みで知られるバルト三国の小国エストニアは、1991年のソビエト連邦からの独⽴以降、ITを国策に「Skype」などのベンチャー企業を⽣み出すだけでなく、世界各国に先駆けて政府やさまざまなシステムのデジタル対応に邁進してきた。e-Residencyは世界から企業を誘致してエストニアを軸にビジネスを展開してもらうための仕組みだが、同時にこれまで電子政府の実現で培ってきたノウハウを海外にアピールすることで、国外でそのノウハウを活用する取り組みも行われている。
プラネットウェイは、こうしたエストニアの技術や実績をベースに、日本国内及びグローバルでの民間応用を目指すスタートアップ企業だ。同社はエストニア、アメリカにも拠点を持ち、グローバルに活動しているが、2017年9⽉末に、日本での拠点となる東京新オフィスを東京・霞が関にオープン。この記念式典ではエストニア政府の現内閣で教育研究省(Minister of Education and Research)大臣のマイリス・レップス(Mailis Reps)氏を招いての交流挨拶のほか、同社が現在福岡エリアで東京海上日動動火災保険と取り組んでいる保険医療システム実証実験の最新成果などが報告された。
開所式冒頭で挨拶を行ったプラネットウェイ代表取締役CEOの平尾憲映氏は「プラネットウェイはエストニアと日本のハイブリッドなグローバルスタートアップ企業として2015年7⽉に設⽴され、現在はエストニアのe-Governmentシステムを民間応用することで、日本の保険業界や⾃治体を巻き込む形で新たなPoC(Proof of Concept)事業を展開している。エストニアで使われている『X-Road』『Citizen ID』「e-Residency」を活用し、エストニアと日本の架け橋となりつつ、今後日本から新たなビジネスを作っていきたいと考えている」と現状や狙いについて説明する。
エストニアの情報共有技術で「セキュリティ」を価値に変える
同氏の話で興味深いのが、セキュリティに関する考えだ。「こうした仕組みの実現において重要となる要素がセキュリティで、中でもわれわれはサイバーセキュリティが重要だと考えている。これまでコストとしてしかみられなかったセキュリティが、逆に価値のあるバリューになると考えている。個人が⾃分の意思で自身の個人情報を外部に出していくことで結果的にメリットを得られる仕組みは『Individual Data Driven Social Innovation』と呼ばれるが、これを推進していきたい」と述べている。エストニアの電子政府における興味深い取り組みの1つに、データを特定の組織内で完結させるのではなく、必要に応じて参照や共有を可能にするというデータ共有に対するスタンスがある。国民全員が利用するCitizen IDなどはデータ共有の⼀例だろう。
現在、このエストニアの技術をベースに福岡エリアで行われているPoCでは、保険の支払いプロセスをデジタル化する取り組みが行われている。ここでは、「X-Road」と呼ばれるエストニアの政府情報連携基盤技術をカスタマイズしブロックチェーンと組み合わせる形で病院との連携が8⽉からスタートしており、すでに稼働実績ができつつあることがポイントとなっている。平尾氏によれば、ここで重視しているのが「データの改ざん防止」「データの完全性」「データのトレーサビリティ」というデータ処理とセキュリティを同時に実現している点で、実際に患者のデータと保険会社の連携がそのような形で行われているという。
今回のPoCに参加してデータの連携先となっている東京海上日動火災保険 IT企画部 企画グループ 担当課長の堅田英次氏によれば、技術選択の決め⼿はエストニアでの稼働実績にあったと述べている。「われわれは保険会社なので、保険を通じてお客様に安心と安全をお届けしていくという一方で、お客様からいただいている保険料を大切に扱うために、ビジネスプロセス簡素化を通じてコストを下げていく必要性があると考えている。そのため、つねに新しい技術を探しており、ここで紹介されている「avenue-cross」のような技術には非常に注目している」と提携の狙いを説明する。同時に「お客様から預かっているデータは非常にセンシティブなものであり、このコスト削減と利便性の向上、安全性の確保というのを両⽴しなければいけない。これを実現しているのが(今回利用している)avenue-crossではないかと考えている」とも述べており、技術の広域展開と顧客へのメリット還元を実現していきたいとプラネットウェイに賛辞を送っている。
エストニア政府関係者からも今後の活躍にエール
今回の新事務所開設にあたり、エストニア教育研究省大臣のマイリス・レップス氏からも賛辞が送られている。「意欲、アイデア、イノベーション、真面目さをもって新しい地平の開拓に向かうという点で、プラネットウェイはこれ以上にないサンプルだ。日本とエストニアは地理的にも⽂化的にも異なるが、一方でIT分野に関する取り組みではこのように密接に取り組みが行えるという点で、非常に素晴らしいものをみせてくれている。日本とエストニアの両研究機関の橋渡しの場として、これからも意欲をともに共有していきたい」と今後の活躍への期待感を述べた。
このプラネットウェイだが、福岡エリアのPoCに⾒られるようなエストニアの技術をベースにプラットフォームを国内展開していくだけでなく、次の展開に向けて動き出している。最新のトピックとしては、シードラウンドとしてABBALabIoEファンドの⼩笠原治氏、Mistletoeの孫泰蔵氏、トクスイコーポレーションの徳島建征氏の3名から2.6億円の資⾦調達したことが挙げられる。そして、エストニアの技術を活用して日本と同国の間での教育プログラムの架け橋を実現していくことを表明している。
CEOの平尾氏自身が米国留学経験者であり、国を越えて学問を学ぶことの素晴らしさを知ってもらいたいという思いがあるようだ。現在、プラネットウェイは単にエストニアの技術を日本に取り入れるだけで無く、強固な開発チームにより技術を各国に向けて独自開発を加えて、其のエリアでのユースケースを創出して行く、技術・ビジネス開発者としての重要な役割を担っているが、将来的な取り組みの一つとして留学をデジタルで実現する、いわゆる「留学クラウド」のようなものを実現したいという。その際には、先ほども登場したavenue-crossや、プラネットウェイのPlanet IDを活用していく意向で、日本とエストニアの両サイドでの教育関係者の交流を深めていく。開所式では日本から教育関係のゲストが招かれたほか、今回レップス氏らエストニア政府の教育研究省関係者が複数来日していたのも、日本政府との交流ならびに、このプロジェクト参加検討のためでもある。
昨今、その取り組みがクローズアップされたことから、ITやその周辺業界の人々から熱い視線を浴びるエストニア。情報収集や意見交換のために、現地を訪れたり、諸事情に詳しい人々との交流が以前にも増して進みつつある。プラネットウェイはその窓⼝の1つとして、今後注目を集めることになりそうだ。