2017年9月、Yahoo! JAPANが運営するコワーキングスペース「LODGE」において、「高知家ITコンテンツネットワーク Vol.1」が開催された。高知出身者や高知に興味を持つクリエイターやエンジニアを結び、高知での活動につなげていこうという取り組みの一環。主催は高知県で、会場には知事も訪れていた。
高知県はクリエイティブコンテンツ産地、より多くの人材を募集中
最初に挨拶に立ったのは、高知県知事 尾崎正直氏。尾崎氏は「高知県は人口減少が真っ先に進んだ県」と切り出し、それに対して現在進めている取り組みについて次のように語った。
「人口減少が進む中で、内にこもっていてはしかたがありません。どんどん外に出て言って、高知県にとっての外貨を稼いでくる、いわゆる地産外商を進めています。高知県の強みとしてよく知られているのは農産物、海産物などの第一次産業ですが、実はクリエイティブなコンテンツも得意としています」(尾崎氏)。
クリエイティブなコンテンツ作りを得意と語る尾崎氏が、その裏付けとして挙げたのは次の2つだ。1つ目は、いまや全国200カ所以上に広がった「よさこい踊り」。決まりごとが少なく、オリジナリティを取り入れやすかったのではないかと尾崎氏は言う。2つ目は、人口あたりの漫画家排出数だ。高知県は、人口あたりの漫画家排出数が47都道府県中1位なのだという。アンパンマンの作者であるやなせたかし氏も高知県の出身だ。こうした背景から企画されたのが、今回のイベントだという。
「高知県ゆかりのスピーカーから現状を語ってもらい、高知県に興味を持ってもらい、そしてできれば高知に来て欲しいと思っています。高知県は現在、人材募集中です」(尾崎氏)。
単に移住者を募集するというのではなく、「人材募集中」という言い方で、クリエイティブな人材にアピールした尾崎氏。この言葉が、ITコンテンツネットワーク交流会の目的を端的に表しているように思われた。
高知に拠点を持つアイレップ、ネットの変化について語る
トークセッション1人目は、株式会社アイレップの代表取締役社長CEO 紺野 俊介氏。アイレップは既に高知県内に拠点を持ち、130人ほどの従業員が高知で働いている。
「新たな拠点として高知を選んだ理由は、県と市の仲がよかったからです。企業誘致を進めている土地は色々ありますが、県と市が協力できていると感じたのが高知でした」(紺野氏)。
紺野氏からはその後、広告代理店という立場からインターネットを巡る変化について語られた。ビジネスや消費行動が変わり、店舗やオフィスの場所が関係なくなってきていると、紺野氏。国境さえも超えてビジネスを展開できるようになっている。広告を提供する立場から見ると、利用デバイスの変化も大きな要因で、新入社員の半数はテレビを持っていないというくらい、若者はインターネットから得られる情報に依存している。特に大きな存在感を示すのが、モバイルデバイスだ。
「日本にでは1日に4億回から5億回のGoogle検索が行なわれているが、その70%はモバイルからです。動画視聴もモバイルがメインになっています」(紺野氏)。
便利になる一方で、より多くの個人情報がインターネットに置かれることになり、またユーザー自身が発信者となることで情報の信憑性を見極める能力も求められるようになった。
「しかし、高知にオフィスを持つ企業として最大のメリットは、インターネットのおかげで場所の制約がなくなったことです。どこにいても同じ仕事ができるようになりました」(紺野氏)。
セッションのあとの質疑応答では、広告物を制作するクリエイターの中には交流によって技術を磨いている人もいるが、高知ではどうしているのかという質問があった。それに対して紺野氏は、次のように答えた。
「いまは、クリエイターを東京に連れてきてコミュニティに参加させたりしています。次のステップとしては、高知県内の他の企業と協力して、高知にコミュニティを作っていきたいですね」(紺野氏)。
外のモノサシを知らないことは危険な時代
高知出身者として2人目の登壇者として現れたのは、パラレルマーケターの小島英揮氏。複数の企業に所属して専門性の高い業務をこなす複業を実践している1人だ。小島氏はセッションのゴールとして、「世界で起こっている不可避な流れを理解し、越境していく上で重要な外のモノサシの重要性を知り、それに向けて一歩踏み出してもらうこと」と冒頭で述べた。
「ITの世界でいま起きているのは、クラウド以降のエコシステムが作った『不可避な流れ』です。クラウドを使えるようになり、ビッグデータを簡単に扱えるようになったことから、第3次AIブームが到来しました」(小島氏)。
AI専門家から見れば今のAI技術自体は、今更感のあるものも多いと言われる。しかし、クラウドの登場によりそれらの技術をビジネスに使えるようになったことに、大きな意味があると小島氏は言う。AIがビジネスに使えるようになったことで、AIを取り巻くエコシステムが生まれた。AIのエコシステムが次の新しいエコシステムを作ることも必然だと小島氏は考えているようだ。
ここで小島氏は、「今後10年で何か変わるかという質問はしょっちゅう受けますが、今後10年で変わらないものは何かという質問を受けたことはほとんどありません」というAmazon創業者であるジェフ・ベゾスの言葉を引いた。ジェフ・ベゾスは、今後10年間変わらないものの方が重要だと考えていたという。なぜなら、時を経ても変わらないものを柱に事業戦略を立てられるからだ。
「テクノロジーそのものではなく、これから先も変わらない不可避な流れからエコシステムの変化に注目すべきです。そして日本における不可避な流れのひとつが、人口減少です。既存の商圏が縮小するとともに、テクノロジーの進化により物理的ファイアウォールは消失します。越境していかなければ生き残れない時代が来るのです」(小島氏)。
しかし、その切迫感は地元では感じられないという。小島氏が地元に戻って聞くのは、「なんちゃあないで(何も変わったことはないよ)」という言葉。外を見て高知に戻ると「帯屋町(高知の繁華街)が静かになっている」など変化に気付きやすいが、ずっと同じ場所にいると変化に気付きにくくなる。
「これは、ひとつの場所のモノサシしか持っておらず、他の見方を知らないからです。外のモノサシを知れば、高知の変化にも気づけるようになります」(小島氏)。