世の中を変えるには事業会社に優秀なエンジニアが必要
大谷:JAWS DAYS 2017のセッションでも議題に出たのですが、モード2頭の人がモード1の会社で苦労しているのはけっこう辛いかなと思っています。JAWS-UGでも、本業じゃないけど勉強会来ている人とか、クラウドやりたいのに会社は許してくれないという人が多くて、結局転職してしまう人もけっこういます。両者をうまく組み合わせるのに苦労している企業はけっこう多いと思うのですが、アドバイスありますでしょうか?
小野:会社のマネジメントや経営って、まさにそのためにあると思います。自然状態だとモード1だった会社がクラウド入れようとしても無理なので、組織や会社は変えられず、転職するといった人が出てくると思います。
でも、クラウド導入しないとまずいという危機感だけでもあれば、モード1に染まり切っていない若手の人を担当としてアサインしてみようとか、チームを作ってみると言ったマネジメントの施策や経営判断が出てくると思います。「クラウド時代はモード1だけではダメ」という考え方のフレームワークがある程度定着していけば、モード2を取り入れていこうと考える組織は増えてくるはずです。だから、大谷さんが言うほど「組織が変わらないなら転職だ!」みたいな人が絶望的になることもないと思うんですけどね。
大谷:そういった人たちがけっこうな割合でクラスメソッドさんに流れているような気もするのですが、横田さんどうですかね。
横田:そんなことはないですよ(笑)。今われわれが重視しているのは、お客様にあたる事業会社側でビジョンをもって推進する人です。その人がいないと、われわれのようなクラウドインテグレーターがいても全然意味がない。だからモード2を経験した人を、モード1しかやっていないような事業会社に斡旋する。斡旋というと職業紹介みたいですが、いい会社ですよとご紹介します。実際、来週そういうイベントやります。
大谷:宣伝してもらって全然OKですよ。
横田:世の中変えるためには優秀なエンジニアが事業会社側に必要だと思っていて、そういった人がいれば、クラウドインテグレーターも活躍できると思い、ファーストリテイリングさんとクラスメソッドでイベントやります。
大谷:私も思い当たる節ありますよ。過去にいろいろユーザー事例を取材していて、すごい新しいことやっている会社の情シスは、だいたいコンサルティングやっていた、ベンダーの人が中の人になったり、東京で社会人経験を積んだ人が地元で親の会社を継いでいたりします。共通しているのは、生え抜きだと変革するのが厳しいというポイントです。外の人がイノベーターとして会社変えるってあると思います。
横田:あるんです。馬車で生活していた人は馬車の改善しかできないので、車を持ち込まないと、スピード感は変えられない。とはいえ、馬車も車も手段なので、本質的な価値なのか、商品なのかは知見を持った人が外から入って変えていく必要があります。本来は中に入って開発するのが一番いいんですが、なかなか内製だけでは難しいので、あくまでそうした人は経験則を元に社内をうまくまとめてもらい、新たな方向性を作ってもらうのがメイン。開発はわれわれのようなパートナーの仕事ではないかという仮説で、そういったイベントをやっています。
小野:それだとプロパーだけじゃダメなのかという話になりがちですが、そんなことはないと思います。もちろん、きっかけは必要ですが、全員入れ替わる必要はない。明確に方針を示す人が一人いれば、周りでも変われる人もけっこういるはず。
大谷:それはそうですね。私の取材した事例でも、もともと生え抜きで業務知識や会社の方向性に強い情シスの担当がいて、そこにIT動向に詳しいベンダーの人が加わると、最強な情シスになりますね。
モード1とモード2のインテグレーターは共存できるのか?
大谷:組織内の話ではなく、業界を俯瞰してみた場合、モード1的な既存のSIerとモード2的なクラウドインテグレーターって共存しうるものなんでしょうか?
横田:両方ないとうまくいかないです。
大谷:クラウドインテグレーターのクラスメソッドから見てもそうなんですか?
横田:AWSで実績を上げて、たまにお客様から「うちのシステム全部AWSで作り直してくれ」と言われるんですけど、全力で拒否します(笑)。まず業務知識がないし、長年既存の業者と作ってきた暗黙の背景をすっ飛ばして、われわれのような小ぶりな会社ができるとは思えないんです。ですから、既存の業者を大事にしつつ、そこでできないことをわれわれにお願いしてもらうのが、一番成功するパターンだと思います。運用費が高いとか、クラウド的なモード2の施策をやりたいとか既存の業者でできないことはお手伝いできることがあるかもしれませんが、全部丸ごとは今は無理です。
小野:SIerとしてのわれわれには、クレジットカードの基幹システムを作っている事業部があるのですが、彼らのメインミッションは「SI×CI(Cloud Integration)」です。SIではお客様との信頼関係や業務知識、かっちり作るというノウハウを培ってきた。これにCIがかけ算になったらすごいよねということで、今まで100人いたCOBOLのエンジニアにAWS SA(AWS Solutions Architect)にスキルトランスフォーメーションしています。
大谷:それは相当思い切った決断ですね。
小野:そうすると業務知識を持った人がクラウドまでわかる。「SAくらいでどうよ」って横田さんもニコニコすると思いますが(笑)、やっぱり半年でとれたらすごいですよ。
大谷:その話も納得できますね。先日、フジテックCIOの友岡さんに取材したときも、もともと内製で苦労していたから、AWS使うとそのよさがすぐに浸透したと言ってました。
小野:そうなんです。今まで苦しんできたから、少年のように喜ぶんですよ。「Practice over Theory」で、本を読んだり、理論を学ぶより、まずは体験すること。マシンに苦労してきた人、ITが好きな人は、EC2を立ち上げるだけで、目がキラキラし出すんです。バイモーダルの実践として、体験をベースにスキルトランスフォーメーション進めれば、歴史のあるSIerでも、情シスでも変えられるという実感はあります。
マーケターがPythonを学び、クロスボーダーが始まった
横田:今のはシステムの話ですが、マーケティング部門でも同じような話をよく聞くようになっています。今までコテコテのマーケやっていた人が、最近Pythonを勉強し始めているんですよ。これって分析を誰かに頼むのではなく、自分たちで生データを扱う動きが出ているということです。
一方で、プログラミング得意な人がマーケティングを勉強し始めています。つまり、クロスボーダーで、関わる人がどんなことをやっているか、それぞれ体験し始めているんですよね。専門家になるわけではないけど、プロジェクトに関わる人たちが共通の目的のために、会話をすべく、お互い体験を始めているのが大きな動きだと思います。
大谷:マーケの人たちもBigQuery使い始めているじゃないですか。やはりそういう流れなんですね。
横田:だから先進的なプロジェクトでも、ITの人だけではなく、現場の人を一人でも入れた方がいいと思います。実際、取材いただいたすかいらーく様の案件でも、要件定義したのはガストで10年店長やっていた人でした。その方が現場の目線でデータをインプットしてくれたんです。Excelのマクロを分析し、SQL文を学びながら、どんどん考えていったんです。店長がどんどんエンジニアなったので、速かった。ここで丸投げしてしまうと、コミュニケーションギャップが発生して、うまくいかなくなってしまうんです。
小野:変化が始まるときって、必ず境界線が薄れていきますよね。お互いが相手のことを理解し始めて、最終的には融合する。たとえば、15年前くらいにはデザイナーとプログラマーで同じようなことが起こり始めたんですよね。絵として美しいという話と、ユーザー体験がエクセレントという話があわさると、両者は不可分だったので、お互いを学び始めたんですよね。
横田:面白い話していいですか? アドビってクリエイターの会社だったけど、10年前にエンタープライズに寄せたんです。同じ頃、エンタープライズの会社だったマイクロソフトがクリエイティブ製品を出し始めたんです。で、どうなったかというと、お互いあきらめて元に戻っていったんです(笑)。結局、クロスボーダーした結果、餅は餅屋だよねということで、自分の得意なところに戻っていく。でも、その過程はすごく大事だった気がしました。
大谷:なるほど。これってIoTの領域でも同じですよね。今までしこしこハードウェア作っていた人がいたけど、インターネットのことはわからなかった。一方でWebの人はモノからデータが取り出せることはわかったけど、ハードウェアのことは知らない。お互いをまったく知らなかった両者が交わってきて、今面白いことになってきているじゃないですか。
小野:その話はすごく重要で、変化が起こるときにはお互いを理解すべく、歩み寄っている。COBOLやっている人も、クラウドに歩み寄らなければならないし、僕も国産のメインフレームのアセンブラを読めるように勉強し始めてます。モード1だけが歩み寄るんじゃなくて、お互いが学び合う。改革者なんていなくても、カジュアルに相手の行動様式に入っていける文化があれば、意外とスムースに行くんじゃないと思います。僕がセゾン情報に入ってからの4年間は本当にそんな感じでした。