IoTがもたらす新しい世界とは?
平尾 今日はよろしくお願いします。
印具 お願いします。
平尾 印具さんは、ツバイソというERPを提供していますが、開発コンセプトである「タレント・オリエンテッド」の資料を読ませてもらいました。
人材を輝かせることを重視し、ITを活用するという概念はとても共感します。
私はIoTというBUZZワードを良く使いますが、IoT社会は、最終的には人の働き方、ライフスタイルなどへ大きな影響を与えます。
モノがつながるというのは人が持っている個性や強みを活かすための基盤と考えています。
印具 先日のIoTイニシアティブ2015での平尾さんのプレゼンテーションを見ましたが、その後、「IoTとはなんだろう?どのような世界が広がるのだろう?」と考えました。IoT社会は、私にとっては、「タレントが楽しく仕事をできる社会」という形で興味が湧いてきました。
平尾 登壇では、グローバル展開を強調しました。日本の企業は国内を意識しすぎていて、IoT社会とは?と考えた場合、1つ挙げられるのがグローバルに展開できるということです。
ボーダレスな社会を本当の意味で生み出せるのがIoT社会です。
印具 IoTは、オープンであることがポイントだと思いますので、グローバル展開、ボーダレスというのはその通りだと思います。
オープンであるということは、社会全体が、モノとインターネットがつながることを前提にすることができるということです。
センサーやデータをどこかの企業だけが囲い込んでるんじゃ、IoT社会になりません。社会全体で共有することで規模の経済が働き、ただみたいになります。
そうするとインターネットみたいにみんなで使われ、IoTが概念だけでなく本当にできるようになってきたように、IoTをインフラとしてさらに新しいものが生まれていきます。
私はこれまで業務システムの中でボトルネックだった人間が、IoT社会だと解放されると考えています。人間が得意でない大量の細かい情報処理は機械とコンピュータに任せてしまい、クリエイティブで楽しい仕事だけに専念する社会にしていきたいです。
ソリューションやシステム同士が「つながる」というものもIoTの醍醐味だと思います。
平尾 ツバイソは、「REST API」(API: Application Programming Interface. ソフトウェアコンポーネントが互いにやりとりするのに使用するインタフェースの仕様)を提供していますが、このソリューションやシステム同士が「つながる」というものもIoTの醍醐味だと思います。
印具 そうですね。ツバイソの「IoTらしさ」というところとしてはREST APIかもしれません。IoT社会では、人間が介在せず、コンピュータ同士が通信して、業務が進んでいく必要があります。それは、いままでの人間を前提としたシステムとは違って、大量の細かいデータをリアルタイムに処理できる性能が必要です。これはアーキテクチャレベルから全く違うシステムになります。
現在は、APIだけでなく、より簡単に他のアプリケーションとつなげるためのコネクタを開発しています。2016年の春頃には、「kintone」「AWS」「Salesforce」のコネクタを提供できると思います。
平尾 ご意見を聞いていると、私たちの共通点は、1つのことにとことんハマってしまうところですね。印具さんは仕事以外にハマってることってあるんですか?
印具 そうですね。好きなことに「ハマる」と、とことんやってしまいますね。
私は自転車が好きで、実業団に登録してロードレースにも参加しています。もうかれこれ十数年続けています。
練習方法、筋肉のこと、栄養素のこと、戦術、自転車機材などハマってますね。プロのコーチにも見てもらってます。
そういえば、自転車もIoTですよ。パワー、速度、回転数、位置情報をリアルタイムにクラウドに上げることができます。
時には落車して怪我もするのですが、楽しいです。実は先日も落車してしまいました(笑)。
平尾 大丈夫ですか?(笑)すごいですね。
私はゲームかな。買ったゲームは最速でクリアするのが趣味です。
クリアするまで徹夜でもずっと続けます。
仕事と違い、まったく関係ないことに集中するのは気分転換に良いですね。
印具 好きなことに集中してると頭が空っぽになって、いろんなことが整理されてきますよね。自転車乗っている時っていろんなアイデアが出てくるんです。この時間は私にとってとても大切です。
自由な時間がクリエイティブを創出する
平尾 時間の使い方といえば、最近、朝型仕事っていうのが流行っていますけど、どうなんですかね?
私は、以前勤めていた会社で、毎朝4時に起きて5時から働くというのを行っていました。
当時の上司が非常に優秀な方で、その人の補佐を務めるためにはこのぐらいの事をするのは当たり前でしたし、モチベーションも高かったので、苦ではありませんでした。
アウトプットもとても良かった気がします。
大げさかもしれませんけど、「命がけでできる仕事」をしていました。
Planetwayを2015年の7月に立ち上げましたが、4時起きの5時仕事はしていません。当時に比べたらまだまだ余裕があるのかな?なんて思っています。
印具 企業によっては、朝出勤を奨励して「朝手当」を出していますね。
私はなんか違う気がします。自分は朝仕事をするとパフォーマンスがでるからやる、というのが自然な気がします。手当で釣っても意味ない気がします。
平尾 おっしゃる通りです。個人が考えて効率を良くしていることと、人から言われてやるのは違いますし、個人毎に最適な仕事の方法があるはずです。
お金の為だけに仕事をするのもちょっとな、、、。
日本は、時間とお金の関係が強すぎますね。
働く時間とか場所って関係ないですね。
でも、時間を決められて働くことのほうが楽な人もいます。
そういう人たちのモチベーションってどうやって上げれば良いのでしょうか?
印具 今おっしゃったように、時間とか場所にとらわれない環境を用意してあげるのが良いと思います。
そこに、ITが役に立ちます。
「タレント・オリエンテッド」という概念の根本なのですが、優秀なタレントって、働くことも含めて、好きなことをやる「クリエイティブ」な時間を多く持ちたいんだと思うのです。
この自由な時間を少しでも多く持てるように、ITを使うという選択肢は非常に有効です。
IoTの社会とは、人にクリエイティブな時間を提供することに思えます。
平尾 私は友人と話している時や寝る前など突然閃くことが多いです。
それって、勤務時間とされる間ではないですよね。
印具 決められた時間の中だけでアイデアを出せと言われても無理。
自由な時間こそ有意義な発想、いわゆる「クリエイティブな発想」ができます。
平尾 自由な時間をいかに持てる環境を創り出すのかは経営の課題ですね。
個人の可能性をより高めるIoT社会
平尾 私はここ数年、海外のIoT視察に出掛けることが多いのですが、国内との大きな違いに気づきました。
欧米は、日本のピラミッド型な事業スタイル(大企業が中小零細に依頼する)から脱却し、1企業ではなく、複数の企業が協力して事業を展開することが盛んに行われています。
IoTイニシアティブのプレゼンテーションでもお話しましたが、IoT社会を実現するためには、1つの企業だけでは絶対に無理なのです。
多くの企業が協力する必要があります。
会社とはそもそも1個人ではできないことを人が集まり実現する為に存在します。
これからの時代は、1会社ができないことを連合体により実現するという方法が求められると思います。
これは、1個人の可能性をより高められることにもつながるでしょう。
複数の会社でポジションを持ちながら力を発揮するタレントが増えてくると良いなと思っています。
印具 日本ではまだまだ難しいスタイルですが、同じような考えを持っている社内の人間や社外の人たちと協力して、いずれ、そのような社会が実現されるのではないでしょうか。
つまり、そういうタレントは勝手に集まっていくような気がするのです。そして、その集まりが拡大していけば自然と「あたりまえ」にそういう社会になっているのだと思います。
守山 IoT社会で、働く人の時間にゆとりができるようになると、私の感覚だと、これが拡大すれば「働く人が減る」気がします。
平尾さんのような使命をもって、そのゆとり時間でよりクリエイティブに働きたい人もいれば、のんびり仕事をしていきたいという人もたくさんいそうです。
印具 私も働く人は減ると思います。
ITを活用することで雇用が減るという意見があります。
減った分はIT産業で雇用を増やさなければという議論もあります。
しかし、私は無理に雇用を増やす必要はないと思います。
1人当たりの生産性を上げて、働かない人も存在できる社会にすれば良いだけです。それは歴史を考えても、そのようになってきています。だって、大学生まで働かなくてもよい時代なんて今までありませんでした。
働くという言葉も、労働という意味合いが強いですが、好きな活動をするというだけだと思います。それがビジネスかもしれませんし、研究かもしれないし、音楽や執筆かもしれない。ダイビングや冒険かもしれません。
自分が楽しいと思うことをやって、自分のため家族のため社会のために自然となっている社会になるといいですね。
平尾 生きるために働くという時代から働きたいから働くという社会ですね。
IoTの次のステップになりますが、自分の好きな事をやることで、誰かが喜ぶような世界が実現できればと思っています。
そのための1つの方法が「電脳化」です。
モノとモノがつながる以上に、ボーダレスな世界を創り出す為にも人同士の意識や考えを距離や障害など関係なくつなげる必要を感じます。
いわゆる「電脳社会」ですね。
その世界では、人の個性が重視され、「働く」という定義が大きく変わると思います。
だからこそ、「個性を磨く」ことの重要性を皆さんにわかってほしいですね。
印具 電脳で思い出しましたが、私、VRデバイスほしいです。
あれ、すごいですよね。
ジェットコースターのコンテンツ見ている人がのけぞっていますよね。
視覚と聴覚で人間の脳って騙せるんですね。
平尾 すごいですよね。私はそういうデバイスなどが普及すればするほど、「アナログって素晴らしい」ってもっと思えるんじゃないかなって思えます。
触れたり、食べたりする喜びをもっと楽しめると思います。
今後はバーチャルな世界に依存する人とアナログ世界で生きていく人に分かれていくでしょう。 その結果、アナログが最も価値の高い世界が生まれます。
様々な視点を持つことで価値基準の変化に対応する
平尾 私が注目しているのは、「人に注目している企業」です。
IoTという観点から言うと、第1次産業です。
農業、漁業、林業などがIoT化されることは私の仕事でもあります。
第4次産業革命(インダストリー4.0)という言葉がありますが、それは工場自体が「考え行動する」ことを指します。
データをセンサーで集めて価値を見出すことから一歩進み、すべてが分散型に広まり、様々なものが1つ1つ知能を持つことになります。
統合するIoTと分散型社会というものが両立していくでしょう。
印具 統合と分散の両立はその通りだと思います。コンピュータの歴史上、分散と集中というのは繰り返され、どちらが正しいということもなく、どちらの良さもありますから。
平尾 私は、世の中で新たに生まれる様々な技術や考えを囲い込みブラックボックス化する現代の日本企業の手法ではなく、それらを受け止めることができる受け口としての役割をPlanetwayとして持ちたいと思っています。
野田 私は注目する企業というよりも、意思決定の速さというものに興味があります。僕自身が経営など含め様々な経験をしていますが、世の中の「価値基準の変化」が加速しています。 そんな中で意思決定が遅いというのは致命的です。
今まで1週間ぐらいで決めていたものが24時間ぐらいで決めなければいけないこともあり、情報の取り扱いや仕組みがこの速さに対応する手段でした。
ただし、「確かな意思決定」というものに関しては不安が残りました。
1つの視点だけでものを見るのは確かな意思決定にはつながらず、様々な視点でものを見ることが大切に思えます。
時間と知恵とお金を1つのものに集中するのはあまり良くないと思い、先ほどお話に挙がったように、様々な場所で自分の価値を提供できる状態のほうが、多くの視点を持って関われるような気がします。
いろいろな立場の方とお付き合いしていくことで様々な視点を持つことができ、これは確実な意思決定の速度の変化に対応するために必要だと思います。
平尾 いいですね。私も自然とそうしているかもしれません。
実際に、いろいろな人と出会い話すことで多くを学べます。
印具 私は、経営を経験された年配の方にアドバイザーになっていただき、週一回ディスカッションしています。
これは、客観的な視点を得るために経営者として重要に思えます。
経営者は、会社の中では客観的に森を見るべき立場ですが、ビジネスでは主体になっているので、どうしても客観的な視点が弱くなってきます。会社の外にいて、客観的な視点で意見できる人と議論することは頭をニュートラルにするためには重要です。
ですから、外から関わっていくことで価値を提供できるという野田さんの考えには同意します。
平尾 私は客観性を持ち続けることは自然にできているような気がしますが、常に思っているのは直観に頼っているところがあります。
自分自身の行動が全て深い考えを持っているわけではなく、直観で気づいたらやっているのかもしれません。
本日は様々なお話ができて幸せです。
もっと続けたいですけど、とりあえずここまでということで。
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印具 毅雄(いんぐ たけお)
1999年3月 九州芸術工科大学大学院 芸術工学研究科 情報伝達専攻(現 九州大学)博士前期課程修了。日本知能情報ファジィ学会論文賞「単峰性関数当てはめによるGA(遺伝的アルゴリズム)収束高速化」
2000年10月 監査法人トーマツ入社。メガバンク、総合商社グループ、証券会社等の法定監査に従事
2004年10月 ブルドッグウォータ株式会社設立。代表取締役社長就任
2010年6月 日本公認会計士協会東京会 役員就任
2015年1月 ツバイソ株式会社設立。代表取締役CEO就任
平尾 憲映(ひらお のりあき)
1983年生まれ。3度の起業経験と1度の会社清算を経験する。米国留学時代に宇宙工学、マーケティング、スタートアップ創業などを学ぶ。2008年米カリフォルニア州立大ノースリッジ校卒業後、ソフトバンクモバイル㈱に入社。孫正義氏、松本徹三氏との出会いから新規事業創設に従事。サーコムジャパン㈱を経て14年2月、㈱ワイヤレスゲート新事業イノベーション室長、現Planetway Corp.代表取締役CEO/ファウンダー。
(提供:プラネットウェイ)
※この記事はプラネットウェイのオウンドメディア「avenuJam」に掲載された記事を再編集したものです。
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