2016年の米国大統領選挙をはじめとして、今後の選挙ではインターネットが最も重要な戦場となるだろう。誹謗中傷やプロパガンダなどの悪質行為から、利用者を保護する対策が急務となっている。
2016年の大統領選挙をめぐる情報戦で、フェイスブックが最も重要な戦場であったことはまず間違いない。 フェイスブックのアレックス・スタモスCSO(最高セキュリティ責任者)は、インターネット・ユーザーを悪意のある者から保護するために、サイバーセキュリティの専門家がもっと積極的に行動を起こすべきだと訴える。
現在のセキュリティ業界に決定的に欠けているもの、それは共感力だ。「私たちはあまりにも、自分たちが守ろうとしている人々の身になって考えることができていませんでした」。2017年7月26日、ラスベガスで開催されたコンピューター・セキュリティに関する会議「ブラック・ハット」で、スタモスCSOはそう語った。
ソーシャルメディアのネットワーク、特に20億人以上のユーザーを抱えるフェイスブックは、今や最も重要な公開討論の場となっている。国の内外を問わず、世界中の政治関係者が有権者に直接訴えかけることのできるフェイスブックやツイッターを活用して、プロバガンダや政治的な攻撃を拡散している。
今後数年間で、さらに10億人単位のインターネット利用人口の増加が見込まれている。こうした状況において、生じうる問題を予測し、あらゆる形の悪用からユーザーを保護することは、フェイスブックのような企業の社会的責任であるとスタモスCEOは述べた。スパムや嫌がらせ、さらには脆弱性の攻略など、悪用の形態は多岐にわたり、「実際の被害が出る恐れもあります」とスタモスCEOは語る。そしてこうした分野こそが、セキュリティ業界がこれまで無視してきた分野なのだ。
たとえば、フェイスブックのアカウントの乗っ取りの大部分は、パスワードの使い回しが原因で起こる。偽アカウントを使って、有権者を惑わすような虚偽投稿を共有し、拡散するのは、大統領選挙期間中にフェイスブック上で展開された「情報操作」の典型例だ。スタモスCSOは、2017年4月に発表された、「悪質な利用者」が偽アカウントを使用して一般市民による SNS上での議論に害を及ぼす手法についてまとめた報告書の執筆に協力している。
人々はなぜ技術的に洗練されていないお粗末な悪質行為の被害にあってしまうのか、その理由を理解することが非常に重要だとスタモスCSOは指摘する。また、ネット上の荒らし行為を減らすためには、司法当局と行政当局の視点を理解することも必要だと語った。これは従来、ハッカーとセキュリティ関係者には難しいと考えられてきたことだ。
その一方で、今後の国内外の選挙は、ネット上の悪質行為、少なくとも2016年に私たちが大統領選挙で目にしたような干渉行為に対して、同様の脆弱性を抱えたものとなるだろう。フェイスブックは事実確認ツールを導入したり、プロバガンダを検出する分析ツールの研究を通じて、こうした悪質行為に対抗する技術を開発している。国をあげての論争となったフランス大統領選挙の投票日10日前に同社が実施した、フランス国内の偽アカウント3万件の停止措置は、この取り組みが功を奏したものだ。フェイスブックはまた、ハーバード・ケネディ・スクールが最近立ち上げたディフェンディング・デジタル・デモクラシー・プロジェクト(デジタル民主主義保護計画)にも後援している。同プロジェクトは、選挙にまつわるサイバー・セキュリティの諸問題の根絶に取り組む超党派チームの設立を目標としている。
それでもなお、数十億という数の人々が新たにインターネットに接続していく中で、悪意のある者たちは新たな脆弱性を探し出すことだろう。ネット上のプロパガンダに抗い、民主主義を守るための戦いは、長期的なものとなりそうだ。概して、人々がネット上で出くわす危険をめぐる状況は「改善していません」とスタモスCSOは述べた。「状況は悪化しているのです」。