「Core NFC」でできること
本稿執筆点では明確にされていないが、公開されている開発者向け資料から判断するかぎり、決済系サービスに使われるセキュリティ機構にはCore NFCから自由にアクセスできない。Apple Payと連携するカード管理アプリと通信するフレームワークも公開されておらず、Card Emulationおよびセキュアエレメントへのアクセスは原則非公開(JR東日本のSuicaアプリは例外的な存在)ということからも、Apple Pay以外の決済系エコシステムが登場することは考えにくい。
では、Core NFCが果たす機能・役割とはどのようなものだろう? 前項の解説を踏まえ、もう少し具体的にユースケースを検討してみよう。
まず考えられるのは、ポスターなど掲示物を利用したWウェブへの誘導。裏側にNFCタグを貼り付けておき、そこにiPhoneをタッチしてURLを伝えるという使いかただ。NFCタグのユーザーエリアは一般的に144バイトで情報量はわずかだが、単価は100円以下と十分"使い捨て"できるレベル。144バイトあればURL以外にも若干の情報を伝えることができるだろうし、そのままセキュアなWEBサイトへ誘導してユーザー登録させることもできるだろう。スタンプラリー的な用途にも使えるはずだ。
NFCタグの商業利用はまだ夜明け前の状況だが、ここ日本でも実証実験は始まっている。今年2月には宅配ピザ大手のピザハット(Pizza Hut)が、NFCタグ入り販促ツール「スマートプレート」を導入、NFC対応スマートフォンをプレート状の小型デバイスにかざすだけで、最新メニューのチェックやクーポンの取得などを行なうことができるというものだ。伊予鉄道が導入したバスの到着予測時間をスマートフォンで確認できる「スマホ バスロケ」も、NFCタグを利用している。
Apple Pay以外にユースケースを拡げた点に注目すべき
ただし、iOS 11でもそのような使いかたが……と結論付けるのは早計だ。なぜなら、iOS 11ではNFCタグをトリガーとしてアプリを起動させることまではカバーしていない。Android OSでは、OSレベルでNFCタグの検出とNDEFの読み取りをサポートしており、NFCタグにかざすと対応アプリを起動させることができるが、システムレベルでNFCタグをサポートしないiOS 11ではそのような使い方ができない。Core NFCを利用したアプリをフォアグラウンドで起動しておき、NDEFを情報として持つNFCタグを読み取らねばならないのだ。
と、Android OSに比べ"やや弱い"iOS 11のNFCサポートだが、それでもApple Pay以外にユースケースを拡げたことは一大転換といえる。対応機種はiPhone 7/7 Plus以降となるが、今秋に発表されるであろう新モデルも当然含まれるだろうし、“Apple Pay専用”というNFCの位置付けはiPhone 7/7 Plusの時点で変更済みと考えれば、将来的にはP2Pのサポートもありうる話だ。まずは、iOS 11正式リリース以降に公開されるであろうCore NFC対応アプリの登場を待ちたい。

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