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仮想通貨、LPWA、人工知能、物理セキュリティ――など、Interop Tokyo 2017で講演

さくら・田中社長、経営者+技術者の両視点で「注目Tech」語る

2017年06月20日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 6月8日の「Interop Tokyo 2017」では、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏が今年、2017年に注目するIT技術と市場を語るカンファレンスセッションが催された。「経営者」と「エンジニア」という2つの顔を持つ田中氏が、ビジネスとテクノロジーの変化動向をふまえながら、これから盛り上がるビジネス領域やそこでの課題を縦横に語った。

さくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏

聞き手を務めたInterop Tokyo 2017カンファレンスプログラム委員の伊勢幸一氏

同セッションの目的。「どういった技術、市場、サービスを展開すれば儲かるのか、われわれが探り当てる場」(伊勢氏)

テクノロジーがもたらす「希少性の変化」が新ビジネスにつながる

 まずセッション前半は、急速に変化/深化するビジネスとITとの関係について、田中氏の視点から現状の整理がなされた。

 蒸気機関の発明を背景とする第1次産業革命、新エネルギー(石油や電力)の登場による第2次産業革命に続いて、1990年代にはIT技術の発展によって第3次産業革命(=IT革命)が起きた。今後、それに続くと目されているのが、IoT、人工知能、ロボットなどの技術を背景とした「第4次産業革命」である。

現在は「第4次産業革命」に突入したと言われる

 田中氏は、第3次産業革命で起きたことを振り返りながら、「次に“来る”ビジネスの見極め方」を語った。

 実は第3次産業革命が始まったとされる90年代よりも以前から、コンピューターもインターネットも存在していた。実際に大きな変革を引き起こす要因となったのは、WWW/Webが登場して「あらゆる情報がひとまとまりにリンクされたこと」だったと、田中氏は分析する。

 この変化を受けて大きなビジネス的成功を収めたのは、情報の出し手でも受け手でもなく、グーグルやフェイスブック、インスタグラム、ラインのような「プラットフォーマー」だった。

 田中氏は、「希少性の変化」に注目することで、将来的なビジネス価値が見えてくると指摘する。言い換えれば、テクノロジーの進化と普及によって希少性が変化すれば、それによって新たに価値を得るビジネス、価値を失うビジネスが生まれるということだ。

テクノロジーの進化が「希少性の変化」を生み、ビジネス価値の変化につながる

 たとえば放送局は、「電波」という希少性のある資源(=伝える手段)を寡占することをビジネス価値の源泉としていた。だが、Webという新たな伝達手段(放送手段)が生まれた現在では、その希少性が損なわれ、放送ビジネスの価値は低下しつつある。新聞や雑誌といった印刷メディアのビジネスも同じだろう。

 その代わりに、Web上で情報の集約/配信を行うプラットフォームを一手に握る事業者(=プラットフォーマー)が、新たなビジネス価値を得るようになった。ここでは特に、ユーザー個人に関する情報(たとえば商品の購買履歴やWeb閲覧履歴、個人の属性情報、ソーシャルグラフなど)、あるいは友人や知人と直接つながる手段そのものが希少性を持ち、ビジネス価値の源泉となっていると言えるだろう。

 「現在の若い人にとっての『キラーコンテンツ』は、彼氏や彼女、友達、好きな有名人から直接届くメッセージだそうだ。だからこそ、それが見られるLINEやInstagram(といったプラットフォーマー)が人気を集めている」(田中氏)

 そして、今後は「人」が希少な資源になるはずだと、田中氏は述べる。労働市場での人手不足が進めば、不足する「人」資源を補うための人工知能やロボット、IoTといったテクノロジーのビジネス価値が高まるのは当然、というわけだ。

規制緩和などの社会状況変化も重要な背景、注視すべき

 田中氏はもうひとつ、既存のビジネスをITで変革する「X-Tech」(フィンテック、リテールテックなど)の文脈にも触れた。ここでは「すべての企業がIT企業」となり、単なるコスト削減のためではなく「価値創造」と「競合差別化」のためにITを利用するようになる。

 「X-Techを実現するためのポイントはイノベーティブであること。単に『便利にする』のではなく、それが社会を変革するかどうかということ」(田中氏)

 また大きな変革は、単一のIT/テクノロジーの進化だけでなく、複数のテクノロジー進化の組み合わせ、あるいは規制緩和などの社会状況の変化との組み合わせによって生まれる。田中氏は、LPWA(低消費電力広域通信)ビジネスを例に取り、「LoRa、SIGFOXなどの通信仕様策定」というテクノロジー進化と「920MHz帯の開放」という規制緩和の両方が揃ったことで成り立ったことを説明した。つまり、テクノロジー面だけでなく、行政の動きなどにも注視しなければならない。

 「LPWAはライセンス(無線局免許)不要で使えるが、現状では、電波が自治体を越えると(自治体の境界をまたぐと)登録が必要になるという足かせもある。こういう規制はどう考えても成り立たない。それならば今後、規制がいつ、どう変更されるのか、行政がどう開放しようと考えているのかを先んじてつかんでおくことが必要だ」(田中氏)

田中氏が2017年に注目する「10のテクノロジー/市場領域」

 セッション後半では、田中氏が2017年に注目する10のテクノロジー/市場領域を足早に紹介していった。大まかに分類して「仮想通貨/ブロックチェーン」「データセンターセキュリティ/DDoS対策」「MVNO/LPWA/IoT通信」「人工知能/GPUクラウド」の4つだ。

田中氏がピックアップした10の注目テクノロジー/市場領域

 ビットコインを中心とした仮想通貨関連のビジネスでは「2つの旬が来ている」と述べた。現在のところ、世間一般にはボラティリティ(価格変動性)の大きい「投機対象」として注目を集める仮想通貨だが、一方で「決済手段」として利用するために価格変動を抑えた「デジタルJPY」発行実験の取り組みも始まっている。「2つの旬」とは、その両面でビジネスの可能性が生まれているという意味だ。

 ちなみにさくらインターネットでは、テックビューロのプライベートブロックチェーン基盤「Mijin」を利用した実証実験環境を提供している。田中氏は、さくらは常にコンピュートリソースを必要としている業界に目を向けており、現在は仮想通貨/ブロックチェーンもそのひとつだと説明した。

 セキュリティに関しては、これからは特に「ファシリティ(物理的な施設)」面でのセキュリティに注目が集まるだろうと語った。従来、ファシリティの制御ネットワーク(BACnetなど)ではセキュリティが考慮されてこなかったため、「この5年以内に、ビルなどで絶対に大きな事故が起きると考えている」(田中氏)。ひとたびそうした事故が起きれば、対策強化の動きが一気に強まることは間違いない。田中氏がビジネス的に注目しているのは、東大グリーンICTプロジェクトが開発に関与し策定された「IEEE1888(FIAP)」だという。

 またDDoS攻撃への対策としては、さくら自身がインメモリDB「VoltDB」とOpenFlowスイッチで実現している自動ミティゲーション(攻撃緩和)機能を紹介した。「OpenFlowは、DDoSのトラフィックをコントロールするのにけっこう使える」(田中氏)。

 次のIoT向け無線通信領域に関してはまず、MVNOに対するHLR/HSSサーバー(加入者管理サーバー)の開放が進むかどうかに注目していると語った。現在のところ、HLR/HSSサーバーはMVNOには開放されておらず(今年下半期にIIJが予定)、MNOが発行したSIMを使わなければならないという制約がある。開放されることでMVNOが独自にSIMを発行可能となり、特にIoT分野においてはカード型ではないオンボード/オンチップ型のSIMが実現するメリットがあるという。IoTプラットフォーム「Sakukra.io」を展開するさくらとしては「IoTデバイス向けに“エンベデッドSIM”を可能にしていきたい」(田中氏)という。

 一方で田中氏は、海外MNOならばHLR/HSSサーバーを開放している事業者も多いことから、国内MNOの開放が望めなければ、海外MNOと提携して国内でローミング通信を行う「パーマネントローミング」の手段も考えられると述べた。通信容量が小さいIoT用途であれば現実的な手段であり、実際に「われわれもやろうとしている」という。

 最後の人工知能やディープラーニング向けGPUクラウドについては、将棋ソフト「Ponanza」Preferred Networks(PFN)がさくらのGPUクラウドを利用しており、「コンピューティング能力(の規模)が、試合や商売の成果に直結するようになっている」と語った。

* * *

 ちなみに、さくらインターネット自身のサービス別売上高を見ると、ハウジング(コロケーション)や専用サーバ(物理サーバー)がピークアウトしている一方で、レンタルサーバやVPS/クラウドのビジネスが大きく伸び、全体としては成長を続けている。田中氏は、その時々で今後の伸びが期待できる分野、期待できない分野を明確に判断し、投資してきた結果だと述べた。

 「メリハリをつけた経営が大切。いろいろな方向性を探っていくことも必要だが、同時に、ビジネスの方向性をしっかり決めて、(成長が期待できない事業は)「買う(買収して拡大する)」か、「売る(売却する)」か、「やめる(撤退する)」かを、先延ばしせず判断することが重要」(田中氏)

さくらインターネットのサービス別売上高推移

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