さまざまな話題を提供し、将棋ファンの裾野を広げる原動力にもなった電王戦が5月20日、6年の歴史に幕を下ろした。最終局となった第2期電王戦第2局は、Ponanzaが中盤から徐々に佐藤天彦叡王(名人)に差をつけ、94手までで勝利を収めた。これで、4月1日に行なわれた第1局に続き連勝し、Ponanzaは電王戦負け無しの7勝。また、将棋界で最も歴史のあるタイトル“名人”の保持者、佐藤名人が負けたことにより、事実上コンピューター将棋ソフトは、プロ棋士レベルを超えたことになる。中継を見てさらっと記事化したサイトが多い中、本稿では現地取材した最後の電王戦をお届けする。
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午前中は佐藤天彦叡王のペースだったのだが……
第2期電王戦第2局は、舞台を兵庫県の姫路城へ移し、午前10時より対局が始まった。快晴に恵まれた姫路城は昨年3月に大天守保存修理を終え、白い輝きを取り戻した白壁が青空によく映える。対局する場所は大天守というわけではなく、二の丸にある「チの櫓」(ちのやぐら)で行なった。前回は取材陣の控室と対局場所は同じ建物だったが、今回の控室は城内入口前にある迎賓館と城の東側にあるプレハブの建物になった。控室が狭かったため2つに分かれてしまったが、テレビ局と記者クラブの人は迎賓館、その他はプレハブと将棋取材の慣例に従った形で、もちろん筆者はプレハブ行き。WiFiがないので取材場所としては厳しかった。
また、今回の対局場がかなり狭いのと、世界遺産ということで傷つけたり汚したりしては大変と取材陣も入れ替え制。もちろん、テレビ局と記者クラブ優先のため、佐藤叡王の初手は撮影できず、チの櫓の前でiPhoneを使ってニコ生中継を見ていた次第だ。
そんな筆者が外で待たされているときに、佐藤叡王の先手で始まった本局は、まず水をガブリと飲んだあと▲2六歩と飛先を突いた。これに対して、ほとんど考えずPonanzaは反応。△4二玉と第1局の▲3八金と驚かせたのと同様、今回も解説陣はどよめいていた。どうも、初手▲2六歩に対して、後手のPonanzaは9種類の指し手があるらしく、その中の一手を選択したようだ。
この手に対して、少し間を開けたが、佐藤叡王は▲2五歩とさらに進めた。ある程度は予想していたのか、12手目に△7七角成で角交換。23手目で▲2六銀と上がるなど、11時ごろまでに25手まで進み、持ち時間は佐藤叡王が残り4時間41分。Ponanzaが4時間25分と前回とは逆にPonanzaのほうが時間を使った展開だった。しかも評価値は、佐藤叡王のプラスで推移している。今回の評価値は「elmo」が使われていた。今年の世界コンピュータ将棋選手権でPonanzaを倒し、全勝優勝した新進気鋭のソフトだ。
27手目▲2四歩と飛車先を突っかけ、△同歩、▲同銀、△2三歩、▲1五銀と引いたところで、△6四角打ちと飛車取りの攻め。これに対して▲3七角と受けて、△1四歩、▲2六銀と引いたが、ここでPonanzaが長考。36手目△1五歩と指した時点で、残り時間は佐藤叡王が4時間33分、Ponanzaが3時間46分。ここまではPonanzaが時間を消費するという意外な展開で、前回持ち時間を序盤で使いすぎてしまった佐藤叡王の反省がうかがえた。36手目の時点で、評価値は佐藤叡王のプラス200ほど。対Ponanzaでは序盤でもななかなか100以上差をつけるのは難しいが、ここまでは佐藤叡王の思惑通りに進んでいるに見えた。
しかし、昼食休憩に入る直前の43手目、佐藤叡王が▲6八金右と指した途端、評価値がほぼ0に。対局後の記者会見でも山本一成氏が語っていたが、人間的には守りを固めたつもりでも、コンピューター側からすると右側の守りが弱くなり、バランスが崩れるため咎める一手となったのだ。解説陣には5八金の存在を評価していたのだが、この寄りから△3七角成りと角交換へ。佐藤叡王は穴熊へと駒組みを進めていくことになるが、評価値は逆転してしまった。ただ、昼食休憩時までに45手進み、残り時間は佐藤叡王が4時間10分、Ponanzaが3時間29分と30分の差がついていた。