第5回のゲストは、株式会社ソウゾウのデザイナー三橋正典さん。これまでのキャリアとお気に入りアイテムについて聞いた前編に続き、いま夢中になっていること、これからやりたいことを伺いました。
想像力を広げるきっかけになる漫画
小島 続いて、趣味についてお聞きしましょう。三橋さんの趣味を象徴するものを用意いただきました。
三橋 音楽にするか漫画にするか迷ったんですけど、最近は漫画のほうがはまっているので。まずは諸星大二郎(※)の『諸星大二郎自選短編集』です。
三橋 諸星大二郎の作品はホラーというかミステリーなんですけど、ドリーミーな感じが好きで。この本は短編作品を文庫化したもので、作家自身が選んだものなんです。
小島 絵が特徴的ですね……。はまったきっかけは?
三橋 大学生のころ、ヴィレッジヴァンガードでアルバイトをしていたときに『妖怪ハンター』という作品に出会って。大雑把にいうと、いろいろな事件が起こって、なぜこうなったのかって調べていくと実はその場所に昔から伝わる伝記があって、それを読み解いて原因を探っていく……という作品なんですけど。
小島 怖そうだけど、おもしろそう。
三橋 おもしろいですよ、諸星大二郎の作品はおすすめです。
小島 で、もう1冊は……?
三橋 最近はまっている、中田春彌(※)の『Levius -レビウス-』です。もともとはIKKIで連載していた作品なんですけど、IKKIが休刊になったあとはウルトラジャンプに移って連載しています。これはすごく絵がきれいな作品です。
小島 CGっぽい画風ですね。
三橋 そうですね。どうやって描いているのかはわからないですけど。いわゆるスチームパンク(※)っぽい感じで、アート系の絵がきれいな作品ってストーリーが難解だったりするんですけど、この作品はわかりやすくて好きです。装丁もかっこいいし。
小島 漫画を2冊、紹介してもらいましたけど、漫画が人生や仕事に影響を与えたことってありますか?
三橋 僕は現実的・写実的な作品よりも、ファンタジーのような普段の現実世界では起こらないことを描いた作品をよく読みます。そういった想像力、空想力、こんなことできたら面白いだろうな、と考えるきっかけになるというか。
小島 自分の想像力を広げる、インスピレーションを得るものが漫画だと?
三橋 もう1つは、普段の生活と切り離された世界なので、日常からちょっと離れる、頭を切り替えるという意味でも、漫画を読んでいるのかなってふと思ったり。
小島 実は三橋さんとは以前、一緒に仕事をしたこともあるけど、2人でアニメや SFの話をしましたよね。一緒に取り組んだプロジェクトでは、SFチックな未来を見据えて、こうなったらいいよね、と話しながら仕事をした思い出があります。
三橋 「こうなったらいいな」というポジティブな未来もあるし、逆にディストピア、「こうなったらいやだな」といった視点も漫画から得られている気はしますね。
いま気になっているのは「デザイン」と「みそ汁」の本
小島 ここから未来の話を聞かせてください。最近勉強していることや自分の仕事に生かせそうな本を毎回教えてもらっているのですが、新しく取り組んでいることはありますか?
三橋 あんまり大きくはないですね(笑)。
小島 まだ転職したばかりですしね。
三橋 それもありますし、普段から本業とは別に、個人的にデザインの仕事を受けたりはしているので、あまり新しいことをしている感覚がないんですよ。
小島 それは本業とは別の新しい視点を得るために?
三橋 たとえばアプリじゃなくてもロゴだとしても、1つのかたちだけで、そのモノであったり想いであったりを伝えるにはどうしたらいいんだろうか、考えたりとか。
小島 ロゴのデザインって、新しいサービスを立ち上げるときとか、ブランディングを大きく変えるときぐらいしか作る機会ないですしね。
小島 最近読んでいるのはどんな本ですか?
三橋 2冊持ってきました。こちらが『DESIGN IS DEAD(?)』という本で、ブックディレクターの幅 允孝(はば・よしたか)さんが、デザインを巡る世の中の現状についてまとめた本です。東京オリンピックのエンブレムの話など、いろんな人(編注:アイデアの室賀清徳編集長、デザイン評論家の藤崎圭一郎氏などが参加)に聞いて、いまのデザインを語る1冊になっています。
小島 「本当に死んだのか」と書いてありますけど、「死んだ」という仮説のもとに過去を振り返っていまに至っているということ?
三橋 「そうは言っても死んではないよね」ということだと思っています。きちんと読み込めてないかもしれないけど、昔のデザインはこうだったけど、最近ではデザインの言葉の意味も広くなってきている中で、「僕らは何を作っているんだっけ?」と改めて考えるとおもしろいなと感じていて。
たとえば昔ならなんでも印刷する前提で作ったりするじゃないですか。Instagramのロゴのグラデーションがわかりやすいですけど、いまならもうCMYKは意識してないですよね。じゃあ、何を基準にして作られているんだろう、と。
小島 (本をめくりながら)「人々はデザインをどう語るのか」という章がおもしろそうです。
三橋 いろいろなデザイナーの仕事が載っているんですけど、僕らの職業も入っています。
小島 UIデザイナーやUXデザイナーも入っているし、UXデザイナーとサービスデザイナーをきちんと分けている。これはおもしろそうなので、読んでみます。それから、もう1冊は?
三橋 『一汁一菜でよいという提案』、その名のとおり食事の本です。NHKの料理番組でもおなじみの土井善晴さんの本ですね。普段、食事を作るときってどうしてもメインを作って副菜を作って……となるんですけど、土井さんは一汁一菜でよくて、かつ、具のたくさんあるみそ汁だったら、もうご飯とみそ汁だけでいい、と提案していて。ご飯と具だくさんのみそ汁で、あとはお漬物で一汁一菜。
小島 タンパク質を全然取らないということ?
三橋 「そもそもおいしい料理って何だっけ?」とか、「本来取るべき普段の食事って実はこれだけでいいんじゃないか?」といった、気張らずに普段の食事を取るための提言なんです。とりあえずみそ汁に具を入れればもう立派なご飯になるんだ、という、気の持ちようですけど。最近、自分でもできるときは実践していますね。
小島 1日3食、しっかり食べますね?
三橋 はい、基本的には。服も好きなんですけど、最近、衣食住のうち、食にも最近、興味があって。やっぱり30代になると、食べ過ぎるとちょっと体にくるじゃないですか。
小島 そうですね。
三橋 暴飲暴食はできない。あまり無理はしないで、どう食事を取ったらいいんだろうか、と思っていて。
小島 この本に出てくるみそ汁、めちゃくちゃ美味しそうだなぁ。
三橋 あと、僕は民芸も好きなんですけど、例えばお皿だったらその土地の皿を使って食べ物を置く、受け皿みたいな考え方に通じるものがあって。食材の味が単純に出ていればいい、余計な味つけはしなくていいんだ、ということに気づかされる本です。
使ってもらえるものに携わりたい
小島 では、そろそろまとめです。三橋さんが今後デザイナーとしてやりたいこと、考えていることを教えてください。
三橋 ソウゾウに転職したのも、広く使ってもらえるものに携わりたい、というのがきっかけだったので、メルカリ アッテをどうみんなに使ってもらうか、デザイナーとしてどう関われるか、チャレンジしていきたいと思っています。
小島 「広く使ってもらう」のは、海外とかも含めて?
三橋 海外もできたらいいですね。ただ、まずは身近な人に「これっていいよね」「使いやすかったよ」と言ってもらえたらすごくうれしいなと思っています。受託のデザイン企業でも長期のプロジェクトはありますけど、思い入れがあっても手が離れるところがあって。ソウゾウではより深く、長く関わっていけたら、と思っています。
小島 たくさんの人に使われるプロダクトを目指して、引き続きがんばってください。
三橋 そうですね。ありがとうございます。
[撮影:後藤利江]
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