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「カメレオン型」エンジニア比留間和也さんに聞く、最先端に身を置き続ける方法

2017年02月06日 23時00分更新

文●小島芳樹

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デザインとエンジニアリング、デザインとビジネスなど、クリエイターにも従来の仕事の範囲を超えた知識と発想が求められる時代。連続インタビュー企画「Borderline」では、ブログ「テクニカルクリエイター.com」を運営する小島芳樹さんが、注目のクリエイターが日々どんなことを考えているのか? オン/オフの両面からお話を伺います。
前編に続き、ゲーム会社でVRコンテンツの開発に取り組む比留間和也一さんに、常に最先端の分野で働くキャリアの作り方と、VRのこれからについてお話いただきました。

VR開発者がおすすめする初心者向けタイトル

小島 VRのお話をもっと詳しく聞きたいんですけど、いま見せていただける作品はありますか?

比留間 App Storeで配信されている『Another Planets』というアプリがあります。ハコスコやGoogle Cardboardといったゴーグルにスマホを入れて見て楽しむVRアプリですね。

小島 個人で開発した作品ですか?

比留間 友人と一緒にチームで作ったアプリですね。コンセプトは「VRを楽しむ」なんですけど、VRを知らない人に「VRってこういうことができて、こういうことなんだよね」と、さっと体験してもらうことを目的に作ったものです。

小島 1000円ぐらいのゴーグルを買えばすぐに体験できるんですね。

比留間 そうですね。このアプリはもともと展示会に出展するために作ったものを拡張して、App Storeに公開したものです。

小島 もともとゲームは好きなんですか?

比留間 ゲームは結構やっていましたね。幼稚園のころにファミコンを与えられて、親に怒られながらやる、っていう……よくあるパターンです(笑)。

小島 最初に遊んだのはやっぱりマリオ?

比留間 いや、シューティングゲームでしたね。いま思えば、幼稚園児がやるにしてはちょっと暗いゲームでした。そのあとスーパーマリオを知って、ねだってやっと買ってもらったのを覚えています。「学校に行く前はやっちゃダメ」ってよく言われていたのに、いまでは息子がまったく同じことを言われていますね(笑)。

小島 お父さんがゲーム作っているのに(笑)。人生に影響を与えたゲームといえば?

比留間 ドラクエIIIはすごくやり込んだ記憶がありますけど、これだと言えるものはないかな。でも、普段からゲームをベースに行動を考えることが多いので、そういう意味ではゲーム全般が影響を与えているのかな、とは思っています。

小島 最近おすすめのゲームはありますか?

比留間 FFXV(ファイナルファンタジー15)はもちろんですが、あとはやっぱりVRのゲームですね。

小島 VRのゲームって僕は詳しくないんですけど、プレステVRですか?

比留間 OculusやHTC Viveのコンテンツもたくさん出ています。VRコンテンツの初心者、たとえばVRをやったことがない人が家に遊びに来たときには、Googleが作っている『Tilt Brush』をおすすめしています。

要はお絵描きソフトなんですけど、3D空間に絵を描けるんですよ。たとえば、ラインをばーって引くとネオンみたいに光ったり、3D空間にじか絵を描ける感覚がおもしろい。思ったところに自由に絵が描けるので。

小島 これはやってみたいですね。

比留間 この場にあったらいますぐやってもらいたいぐらい(笑)。僕の妻はこれだけVR、VR言ってもそんなに興味を持ってくれなくて、ちょっとしょぼんとするんですけど、このソフトだけは「楽しいね」って遊んでくれました。すごくわかりやすいし、誰でも楽しめるコンテンツだと思います。

小島 ゲームのイメージだけでVRに入ると、「別に興味ないし」っていう感じになりがちですよね。これなら子どもでも大人でも、「おおっ」てなりそうですね。

比留間 あとはVRの「ゲーム」で挙げるなら、『Fruit Ninja VR』がおすすめです。 HTC Viveのコントローラーで操作するんですけど、Ninjaだけに刀を持って、下から飛んでくるフルーツをバシっと切るんです。ぶつかったところをちゃんと物理演算してくれて、角に当たると角が切れるし、真ん中にちょうど当たれば半分に切れる。

とにかく、わかりやすい。タイトルのとおり、刀を持って飛んできたら切る、っていう本当にシンプルなゲーム。しかも、本当に切ったときみたいな感覚で切れる。VRって、当然ながら映像だけだとモノを感じないんですよね。

小島 え? このゲームには感覚があるんですか?

比留間 もともとのコントローラーの重さもあるんですけど、モノにぶつかったときにバイブレーションがあるので、切ったような感触が得られるんです。すごく気持ちいいのでおすすめですね。

小島 それ、すごいですね。

プログラミング教育は妻の説得から

小島 さきほど家族の話になりましたけど、家庭でお仕事の話ってしますか?

比留間 「こんなことやってるよ」とか、「こういうのが大変だったよ」とかは話しますね。妻はコンテンツに対しての興味はあまりないんですけど、やっている仕事に対してはよく理解してくれていて。イベントに出るときにも協力してもらったりしています。

小島 最近だとプログラミング教育が流行っていますけど、お子さんには何かやらせていますか?

比留間 いま7歳なんですけど、いずれやりたいなとは思っています。ときどき、ネットでキッズプログラミングを検索してみるんですけど、自分で教えてもいいんですよね。でも自分がやると甘えちゃうかな。

小島 本気で教えるつもりですね(笑)。

比留間 でも、妻はパソコンを与えるとそればかりに夢中になるんじゃないかって、気になるらしくて。なので、まずは妻を説得しないと。本人に「パパと同じことやってみる?」と聞くと、「やる!」とは答えてくれるんですけど。

小島 いまどき、iOSアプリを出している小学生もいますからね。

WebVRで「ちょこっとVR」が実現できる

小島 この連載では、今後どんなことをやっていきたいか、お話を伺うことにしています。比留間さんはこれからどんなことに挑戦されるんでしょうか?

比留間 もちろん、VRをメインに。1年ぐらい前から流行ってはいましたけど、いよいよここ数カ月で本格的に仕事になってきたので、今後も続けていきたい。

世の中のVRの認知度は上がってきてはいるものの、実際にやったことがある人となるとまだまだすごく少なくいです。

VRってどうしてもハードルが高いんですよね。ユーザーにアプリをインストールしてもらうことだけでさえハードルが高いのに、さらにヘッドセットを用意して、かぶってもらう必要もある。しかも、長くプレイするのはつらい。15分もやると目がすごく疲れて、もう脱ぎたくなっちゃう。

そこで、僕は今後のVRの発展にはWebVRが不可欠なんじゃないかなって思っています。「ちょこっとVR」って呼んでいるんですけど、例えばショッピングサイトで、商品を手に取ったときの見え方だったり、サイズ感だったりをイメージできるような使い方。こういった体験なら1分かからないぐらいで済みます。ちょこっとVRは今後増えていくはずなので、特に力を入れていきたいですね。

比留間さんが執筆された、WebVRの記事は必読。

小島 これからVRコンテンツを作ってみたい人に、おすすめの本や入門方法があれば教えてください。

比留間 まだVRの書籍はそれほどないですよね。自分でもQiitaで発信していますが、おすすめはk0rinさんが運営しているサイト『フレームシンセシス』ですね。VR関連のいろんな記事がすごく充実しているので、まずはこのサイトでセットアップ方法から始めて、ベーシックなチュートリアル記事を読むと、すごく参考になるんじゃないかな。というか、僕も参考にしていますよ。

小島 お話を聞いていたら、久々にUnityを使ってみたくなりました。

比留間 Unityの最新版なら、起動して新規プロジェクトを作って、「Player Settings」から「Virtual Reality Supported 」にチェックするだけで、VRがサポートされます。その状態でOculusをかぶるとデフォルトの何もないシーンが表示されるので、3Dのチュートリアルによく出てくるキューブを2、3個置いて再生すると、それがもう空中に浮いているように見える。そこからプログラムを書いていけば、すぐにでもVR対応できるので、興味がある人は手を出してみるといいんじゃないかな。

情報発信することで「一歩進めてもらえる」

小島 では、そろそろまとめますが、技術のトレンドってどんどん移り変わっていく中、比留間さんはカメレオンのように変化しているなと思っていて。トレンドの最先端を行くキャリアを積んでいると僕は思っているんですけども、大変じゃないですか?

比留間 僕自身が思っているのは、「運がいいな」ということです。もちろんVRに関しては興味があっていろいろやってはいるんですけど、興味があったり、やってもいいかなって思っていたりすると声がかかる。それが結構繰り返されている感じはあります。

小島 それは普段から比留間さんが発信しているから、誰か気づいてくれんじゃないですか?

比留間 よく、「ヒト、モノ、カネは、実は全部同じ場所に集まる」って言うじゃないですか。お金はお金があるところに、人は人がいるところに集まる。情報も同じ性質があって、情報は情報があるところに集まるんですよ。

情報発信をしていると、「これ、間違っているよ」という指摘も1つの情報ですし、「これできますか」っていう話が来て、「ちょっとやってみましょうか」ってなって、やってみると一歩進める。その情報を発信すると、またちょっと違った角度の別の話が来る。自分で一歩一歩進むというよりは、一歩進めてくれる。なので、情報発信はすごく大事です。

比留間 和也(ひるま かずや) VRエンジニア/Unityエンジニア。カヤックにてHTMLファイ部のリーダーを務めたのち、iOSエンジニアとして自社サービスアプリ開発に携わる。その後、趣味のVRコンテンツ開発が高じてVR開発をメインとした活動を開始。現在はOculus Rift、HTC Vive向けVRコンテンツ開発を主業務としている。技術全般記事をQiitaにて公開中。またUnity限定の記事をはてなブログにて公開中。

情報発信するもう1つのメリットは、より正確な知識を身につけられること。エンジニアは常に勉強しなきゃいけないと思うんですけど、ブログを書くことは人に説明できる状態になること。ただのメモとは違って、「誰かに読んでもらう」という視点が入ってくるだけで、情報の整理の仕方が変わってきて、結果として自分自身がある程度腑に落ちるまで、ブログには書けない。

書くことを続けていくと、腑に落ちることが繰り返されていく、自然と学んだことがちゃんと身についていく流れが作れます。だから情報発信はすごく大事です。新人にもよく話していますね。

小島 今日はいいお話をたくさんいただきました。ありがとうございました。

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