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「フロントエンド開発ってまだまだ」を変えたい——LIG林優一さんに聞く

2016年12月27日 23時00分更新

文●小島芳樹

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デザインとエンジニアリング、デザインとビジネスなど、クリエイターにも従来の仕事の範囲を超えた知識と発想が求められる時代。クリエイターたちは日々どんなことを考え、実行しているのか?  連続インタビュー企画「Borderline」では、ブログ「テクニカルクリエイター.com」を運営する小島芳樹さんが注目のクリエイターにオン/オフの両面からお話を伺います。
前編に続き、株式会社LIGでCTOを務める林 優一さんに、いま気になっていること、これからのキャリアについて聞きました。

将来への不安から始めたテニス

小島 林さんの趣味の3つめはテニスですね。始めたきっかけは?

  新卒で入った会社がSIの会社だったんですけど、どうしても座り仕事が多くて、1日中ほとんど動かない。これは将来まずそうだなあっていう、漠然とした不安があって。

小島 何かやろう、運動しよう、と。もともと学生時代にスポーツはやっていたんですか?

  中学校のときに軟式テニスを3年間。高校はやっていなくて、大学はテニスサークルに4カ月ぐらい。何かスポーツをやろうと思ったときに、フットサルとかいろいろあったんですけど、テニスなら少しはやったことあるし、ってことで。

小島 やったことあればハードルが低いですもんね。スクールにも通っていますか?

  毎週日曜日に通っています。グループレッスンで、練習時間は90分のレッスンと30分のフリーコートで合計2時間。

小島 しっかり通っていますね。試合には出ないんですか?

  出ないですね。簡単な打ち合いとかはありますけど。

小島 そこは出ましょうよ(笑)。じゃあ、ひたすら健康のために?

  健康と、動くことによるストレス発散がメインで、試合やるほどの熱量はないかな。極度の負けず嫌いで、試合出て負けるのがイヤだっていうのもちょっとありますけど(笑)。

林 優一(はやし・ゆういち) ソーシャルゲーム開発会社にてUI/UX開発本部本部長としてフロントエンド設計・開発及びマネジメント業務に従事。その後、株式会社LIGにフロントエンドエンジニアとして入社。フロントエンド開発・フロントエンドエンジニア育成を担当し、UI含めた設計からサーバーサイド・インフラ(AWS)分野まで幅広く担当。得意言語はJavaScript。2015年6月にCTO就任。

小島 ずるい(笑)。好きなテニスプレーヤーは?

  スタン・ワウリンカって知っています?

小島 ええ?

Wikipediaを検索する小島さん)

小島 スイス出身、身長183センチってそこまで大きくはない。この選手が好きなんですか?

  そうですね。プレースタイルが近いこともあって、好きですね。

小島 テニスのプレースタイルって?

  漠然としていて説明しづらいんですけど(笑)、ボレーが得意とか、サーブが得意とか、いろいろあって。フォアハンドとかバックハンドも両手だとか片手だとかいろいろある中で、バックハンド片手で打っているとか、比較的パワーテニスだったりするところが好きですね。なので、動画を見てフォームの参考にしたりしています。

小島 ワウリンカから学んだことは?

  え? 試合やプレイ動画でフォーム見ながら練習したりはしていますけど……。

小島 精神面では?

  それはないです(笑)。

小島 テニスが好きなんですね。全然イメージなかったから、意外でした。

  ゆるふわっとね(笑)。試合はやらないですけど。

最近は非テクニカル、デザインのコミュニケーションの本を読んでます

小島 ここからは未来へ向けてのお話をお聞きしますね。最近読んで面白かった本はありますか?

  持ってきました。『みんなではじめるデザイン批評』という本なんですけど、知っていますか?

小島 いや、この本は知らなかったです。どんな本ですか?

  デザインって感覚的に話をすることが多いじゃないですか。フィードバックでも、「なんか違う」とか「もっとふわっと」とか。僕はフィードバックする側の立場にいることが多いので、適切に戻してあげないと、お互いに手直しがすごく多くなってしまって、こちらとしても意図したものが上がってこなかったり、デザイナー側も意図がよくわからなかったり、結構よくある問題だと思うんですけど。

小島 デザイナー向けの伝え方というよりも、非デザイナーがデザイナーに対してフィードバックするための本、ということですか?

  両方ですね。デザイナー側がどう説明するべきなのか、という話もありますし、デザイナーがデザイナーにフィードバックする場合もあるので。デザインに対するフィードバックの仕方全般という感じかな。

小島 立場上、フィードバックすることが多いんですね。

  プロダクトオーナーをやるとわかりますけど、デザイナーとエンジニアの間のコミュニケーションって、ときどき問題になりますし、最近だとAtomic Design(※)のように、デザインと開発をパーツ化してやっていきましょうといった考え方も広まっている。もっとエンジニアとデザインの距離を詰めて効率よくやって、いいモノを作っていこうとしないと、思ったとおりに進まなかったり、できたものがデザイナーの思いどおりではなかったり、いろいろな問題が出てきます。そのヒントになるかな、と思って読んでいます。

小島 参考になったところはありますか? さっそくやってみたところとか。

  やってみたっていうよりは、自分自身が反省して確認していくみたいなイメージですかね。会議のファシリテーションや議論がヒートアップしたときの対応方法とか。あと、エンジニアだと、どうしてもすぐに問題を解決したがってしまうじゃないですか。それを一旦なしの状態でちゃんと考えましょうとか。

小島 その場ですぐに答え出そうとしちゃう。

  出そうとしちゃう。すぐに「それは難しい」とか、「工数がすごくかかる」とか、結論のほうにいってしまうと、そこで議論自体がストップしちゃう。

小島 「ジャジャーンをやめる」っておもしろそうですね(笑)。

  急に出すとか、事前にちょこちょこ出しましょうとか。そういう細かい、本当に細かい部分ですかね。気をつければよくなるみたいことが詰まった本です。

小島 最近、デザインのコミュニケーションに関する本が増えてきましたね。僕もこの間、『デザインの伝え方』を読んだんですけど、この本は組織の話が中心に書かれていました。

小島 僕が前にいた会社では定期的にデザインのレビュー会があったり、いまの会社もデザイナーのメンバーが集ってよくレビューのミーティングをやっています。他の会社の話を聞いてみると、組織の中で定期的にデザインレビューをやっているところってまだまだ少ないようなので、こういう本などがきっかけで組織的にデザインレビューを導入する会社が増えていったらいいですね。

ほかに気になっている本やツールはありますか?

  最近はテクニカルじゃない本をよく読んでいて、オライリーの『UX戦略』とかもそうですね。

小島 デザイン方面のことを積極的にキャッチアップされているんですね。

  そうですね、今後はもっとゼロイチレイヤーに近いところを広げていきたいな、って感じはありますね。

小島 今年のデザイン関連の大きなトピックスでしたが、フロッグデザインが電通と提携(※)しましたよね。一方で博報堂は、IDEOを買収した(※)。最近、広告代理店がデザイン会社と提携を組むなどデザインを中心としたサービスや制作・開発体制に注目が集まっていますが、いまやっているお仕事に近しいことってあったりしますか?

  やっぱり課題解決って必要になると思うんですよ。小さな問題って絶対起きてくるし、サービスをやっていれば改善しなきゃいけない部分ってちょこちょこ出てくる。そういう場面でゼロイチに限らず、デザイン思考的な考え方を使うことはありますね。例えばユーザーの行動が思ったとおりになってない、思ったとおりに情報が届いていないことがあったときに、デザインスプリント(※)のようなツールを駆使しながら、といったことは日々ちょこちょこあります。

小島 オライリーの書籍『デザインスプリント』もようやく日本語訳が出ましたね。たぶん翻訳に1年ぐらいかかっていると思うんですけど、実際に試している様子の写真がたくさん載っていたりして面白かったです。

やっぱりフロントエンドが好き

小島 UXやデザインに関心があるとのことで、テクニカルなことは最近あんまりやってないですか?

  もちろんやっていますよ。Angularも引き続きずっとやっていますし。

小島 フロントエンドが中心?

  去年からはインフラ周りも始めています。DockerやAWS(AmazonWeb Services)もばりばり使ってはいるので、できることの幅は広がりましたね。

小島 フロントエンドとインフラの間は……

  わりとお任せで(笑)。

小島 変わっていますよね。

  そうですかね。「サーバーレス」って言葉も出てきているし、インフラとフロントエンドだけでWebサービスを作ろうと思えば作れるじゃないですか。

小島 インフラ部分はFirebaseとかを使って?

  Firebaseもそうですし、AWSでもGCP(Google Cloud Platform)でもいいですし。

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小島 今後はどんなお仕事、キャリアを歩みたいと考えていますか?

  個人的に課題として感じているのが、フロントエンド開発ってまだまだだな、ってことですね。そんなに歴史がなくて、徐々に人も増えてきてはいるけど、マネジメント層のような上位レイヤーのメンバーってまだ多くない。でも、Webサービス自体はどんどん新しいサービスが開発されていて、リッチで使いやすいサービスがどんどん出てくる。
これからのスタートアップのサービスって、UIがある程度洗練されていないと、そもそも使われないと思うんですよ。老舗のサービスでも、新興勢力が出てきたときにずっと昔ながらのUIでやっていたら、「あっちのほうが使いやすいよ」って乗り換えられてしまう。たぶん、トレタはそれに近いと思うんですけど(笑)。そういうサービスや会社っていっぱいある。
僕自身、そういった相談を受けたりもしていて。それって今後解決していかなきゃいけないことなんじゃないかなと感じていて、いままで培ったノウハウや知識、技術を出していって、よりよいサービスや会社に発展していったら面白いなって感じています。

小島 確かに、フロントエンドエンジニアって増えてはいるけど、まだ全然追いついてない感じはありますよね。どこも人手不足感はすごくあるし、チームマネジメントをやる人もまだ少ない。

  そういった問題を解決していきながら、もっとフロントエンド開発が普及したらいいな、っていう気持ちはあります。

小島 林さんはやっぱりフロントエンドが好きなんですね。

  自分のベースですからね。

小島 いろんなところに仕事を広げつつ、フロントエンドを中心に取り組んでいく。ということで、締めたいと思います。

  ありがとうございました。

[撮影:後藤利江]

KEYWORD

Atomic Design(↑)
米国のデザイナー・ブラッド・フロスト氏が提唱するデザインアプローチ。「Atom(アトム)」「Molcules(モルキュール)」「Organism(オルガニズム)」「Template(テンプレート)」「Page(ページ)」の5段階にデザイン要素を分解し、下位の要素が上位の要素を構成していくことでデザインの再利用を実現する。
参考記事:http://postd.cc/the-unicorn-workflow-design-to-code-with-atomic-design-principles-and-sketch/
フロッグデザインと電通が提携(↑)
2016年11月18日に発表された。フロッグデザインは世界的なデザインファームで、今回の提携で、デザインプロセスを活用した企業のイノベーションと事業支援などを進めるという。
プレスリリース:http://www.dentsu.co.jp/news/release/2016/1118-009081.html
IDEOを博報堂が買収(↑)
2016年2月、博報堂DYホールディングスがIDEO(アイディオ)に30%出資、持分法対象とした。IDEOは「デザイン思考」で知られるデザインファームで、アップルの「最初のマウス」をデザインした企業として著名。
プレスリリース:http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/25908
デザインスプリント(↑)
株Googleベンチャーズが投資先向けに実践している、問題解決フレームワーク。5日間、集中的にプロトタイピングと検証を実施し、デザイン上の問題点の解決を目指す手法のこと。日本語による解説書『デザインスプリント――プロダクトを成功に導く短期集中実践ガイド』がオライリーから11月に刊行された。

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