「使いやすさ」「同期スピード」などの競合優位性を武器に、法人市場へのアピール強化
Dropbox Japan新社長、法人向けビジネス拡大の戦略を語る
2017年05月26日 07時00分更新
クラウドストレージサービスのDropbox Japanは5月25日、今年1月から代表取締役社長を務める五十嵐光喜氏が出席し、事業戦略説明会を開催した。すでに「良いモメンタム」を見せている法人向けサービス「Dropbox Business」の展開を、国内でもさらに強化していく。
ファイルの同期から「チームの同期」へ、ビジネス市場へ舵を切る
もともとはコンシューマー向けクラウドストレージサービスとしてスタートしたDropboxだが、近年では法人向けサービスのDropbox Businessも急伸しており、現在では20万社以上、Fortune 500企業の52%が採用している。全ユーザー数(コンシューマーユーザー含む)は5億ユーザーに達するという。
そして今年1月には、「年間売上10億ドル」という大きなマイルストーンの達成も発表している。創業から8年余りでの10億ドル達成は、Salesforce.comやWorkday、Service Nowといったクラウドサービス事業者よりも早いスピードでの成長だ。
説明会に出席した米Dropbox CTOのアディティア・アガーワル氏は、「初期のDropboxではファイルの同期に注力していたが、現在は『チームの同期』に注力している」と語る。つまり、企業内の部門内やプロジェクトチーム内での情報共有を改善することが主眼であり、そのためにテクノロジーやサービスを改善してきた。
昨年3月には、AWS(Amazon S3)からよりスケーラビリティの高い独自設計のクラウドインフラ“Magic Pocket”に移行したほか、昨年7月には企業管理者向けの強力な管理ツール「AdminX」をリリースした。
また今年1月には、新しいチームコラボレーションツールとして「Paper」をリリースしている。これは、テキストだけでなく画像や動画、共有ファイルなどを貼り込んだドキュメントをプロジェクト内で共有し、共同編集できるWebベースのサービスだ。これに加えて、Dropbox Businessのラインアップを2プランから3プランへとリニューアルしている。
「マイクロソフトやグーグル、Boxは『エンタープライズITのやり方』」
しかし、法人向けクラウドストレージ/コンテンツ共有サービスの市場は、競争も激しい。たとえばマイクロソフト、グーグル、Boxといった競合のグローバルベンダーと、この市場のシェアを争うことになる。
五十嵐氏は、Dropbox Businessが顧客に選ばれる理由、つまり競合サービスと比較した場合の「強み」について、次の3つを挙げた。
ひとつは「個々の従業員がストレスなく使いやすいこと」だ。五十嵐氏は、コンシューマー向けサービスとしてスタートしたDropboxでは「当初から使いやすさを追究してきた」と述べる。たとえば、DropboxではWindows、Mac、iOS、Androidのそれぞれでネイティブアプリを用意しており、それぞれのUIに最適化された機能を提供する。「Webベースのアプリとは使い勝手が大きく違う」(五十嵐氏)。
この点に関してはアガーワル氏も、マイクロソフトやグーグル、Boxなどの競合サービスは「従来からのエンタープライズITのやり方」の延長線上にあるものであり、コンシューマー向けサービスからスタートしたDropboxは、それらとは一線を画した「使い勝手の良いサービス」だと強調した。
ちなみにDropbox Businessでは、今年1月に新機能「スマートシンク」を投入している。これは、グループ内で共有されている大量のファイルのうち、実際に使用するものだけをローカルPCに同期する機能で、同期しない(オンラインのみの)ファイルがローカルストレージ容量を無駄に消費することを防ぐ。共有ファイルの多いビジネスユーザーでは特に利便性の高い機能だ。
次は「同期のスピード」だ。クラウドストレージサービスでは複数のデバイス間でファイルの同期処理を行うが、Dropboxではこのスピードを重視しており、たとえばクラウドを介さないLAN同期、同期完了を待たずに動画再生ができるストリーミング同期などの技術を提供している。
同期スピードについて、具体的な他社比較データは公表していないが、五十嵐氏は「特に大きなファイルの同期においては(競合サービスとは)格段の差がある」と述べ、IDCが「業界最高クラス(Best in Class)」のスピードと評価していることを紹介した。
最後は「グローバルなネットワーク」だ。五十嵐氏は「実はDropboxでは、大容量のデータセンター間ネットワークにも大きな投資をしている。これもスピードを考えてのこと」だと語る。このネットワークは当然、日本にも引き込まれている。
五十嵐氏は、ある日本企業で調査したグローバル拠点間でのコンテンツコラボレーション(ファイル共有)の状況を示し、Dropboxによるネットワークへの投資が、特にグローバル展開している企業における拠点間の情報共有を改善するために貢献していると述べた。「大手企業だけでなく、海外企業とコラボレーションする中堅中小企業においても、こうした仕組みが必要になるだろう」(五十嵐氏)。
なお、セキュリティ対策に関しては、「クラウドサービスを提供するうえでは、対策は義務であり、すでに『当たり前』のことになっている」と述べ、そこは競合との差別化ポイントにはならないという認識を示した。SOC2/3、ISO 27001/27018、HIPAA/HITECHなどのコンプライアンス要件を満たすほか、冗長化されたインフラと“ナイン9”のデータ可用性、データ暗号化や2要素認証などの技術を適用している。