Adobe Summitが開催されたネバダ州ラスベガスから、カリフォルニア州バークレーに帰ってきました。ラスベガスからサンフランシスコまでは1時間半の空の旅。
途中、空の上からは、昨夏訪れたモーノ湖やマンモスレイクス、そしてヨセミテの山々を見ることができました。マンモスレイクスは冬場はスキーリゾートとして栄えているエリアなのです。
ラスベガスも、着いた初日は30度を超えていて、さすがに暑かったのですが、それ以降はカラリと晴れた25度前後の陽気。ただ、取材中は、ホテルの部屋から直結している会場までを往復するだけで、強すぎる冷房に凍えながら、しかし室内だけで1万歩以上歩いている数日間を過ごしました。
さて。
300ドル台のiPadは教育市場奪還のための戦略製品
Appleが3月21日に発表したiPadに、大きな興奮を覚えた人はさほどいなかったでしょう。スペックの変化は、iPhone 6sシリーズと同じA9プロセッサですし、薄く軽くなったわけではなく、逆に厚く重くなりました。セールスポイントは329ドル、日本で37800円というこれまでにない低価格、ということになります。
このiPadは教育市場での復権を賭けた、戦略的な製品と位置づけられています。
もともと、iPadは教育市場で人気のある製品でした。頑丈なケースに入れて大切に使わせる日本の小学校では、4~5年も続けて使うことができる例も多くあります。プレゼンテーション作成、ビデオ編集程度の作業を、パフォーマンスを落とさず長年こなせる点は、iPadが持つメリットとも言えるでしょう。
そうしたパフォーマンスが落ちないデバイスで、Pages/Numbers/Keynoteといった文書作成アプリ、写真/iMovie/GarageBandといったメディア編集アプリなどを、追加コストなしに利用できる点もアピールしています。
しかし、これまでのiPadの9.7インチモデルは、長らく499ドルでした。iPad Proが登場してからじゃ399ドルに値下げされましたが、それでも200ドル以内で揃うChromebookに対して、価格競争力の面で劣っており、米国の教育市場ではすでに58%がChromebookで占められるまでになっています。
この状況をなんとか打開したい。今回のiPadのリリースと329ドルという価格設定には、そうしたAppleの決意のようなものがにじみ出ているように感じます。
「Apple Teacher」なる認定制度とは
そんなAppleは、単にiPadを安くするだけでは教育市場を奪えないという認識もあるようです。そこで登場したのが「Apple Teacher」という認定制度です。
この認定は、ウェブサイト(https://appleteacher.apple.com/)上の知識を問うクイズに解答していくことで無料で獲得することができ、そのクイズのための教材も同じウェブサイトに掲載されています。
筆者もApple Teacherのクイズを早速受け、MacとiPadそれぞれ8つずつのコースをクリアし、Apple Teacherに認定されました。どちらかのデバイス向けの8つのコースがクリアできれば、Apple Teacherのバッジが獲得できる仕組みです。
クイズの内容は、デバイスそのもののほかに、Pages/Numbers/Keynote/iMovie/GarageBandの各アプリの機能や活用方法についてのコース、そして学習効率化、創造性を生かす2つのコースで構成されます。
特に学習効率化と創造性のコースは、複数のアプリを組み合わせるワークフローが問われており、MacやiPadを最大限に活用する授業の構築が求められるといった雰囲気です。ワークフローについては、教室の中だけでなく、普段の仕事でも取り入れたい連携の姿がそこにありました。
Apple Teacherは、教室における指導や学習にApple製品を組み込んでいる教育者を支援するための取り組みと位置づけられています。前述のように資格のための勉強も試験も無料ですが、認定されても「Apple Teacher」のロゴが使えるようになるだけです。
ただ、このApple Teacherのための教材に注目すべきです。Apple製品を教室内の活動で生かすポイントや、その際の使い方、生徒に対してゴールをどのように与えるかといったアイディアが含まれているからです。
Apple Teacherは情報の授業向けではない
Apple Teacherの教材は、単なる使い方ガイドではなく、教室内での活動や授業のゴールに、Apple製品をどのように活用するかが主眼とされています。
そのため、コンピューターやタブレットの使い方を学ぶ情報の授業というよりは、それ以外の教科でiPadを活用しながら学習を進めることが前提となっているわけです。
たとえば理科の授業では、実験の様子をビデオで撮影し、iMovieで編集したり、Keynoteにまとめて発表する、という流れを取り入れることができます。
また社会科のフィールドワークでは、Numbersで取材先の情報をまとめて、写真やビデオを織り交ぜながらPagesでレポートにまとめる、といったワークフローが示されます。
確かにApple製品が前提ではありますが、日常的な活動でコンピュータを活用するという前提がそこにある点で、日本の多くの学校との温度差を感じることができます。
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