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後悔しないスタートアップの社名はどう決めるべきか?デザイン思考の5ステップ

2017年03月13日 05時18分更新

文●Anada Lakra

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起業を考えたときに、もっとも楽しく、もっとも悩ましい作業といえば、会社名の決定でしょう。後悔しないために、デザイン思考のアプローチで考えるための5つのステップを紹介します。

会社の命名は起業家であれば必ず通過するもっとも楽しい作業でありながら、同時にやっかいなことでもあります。会社名は事業を世界に紹介する役目を果たし、売り込みには必ず口をついて出てくる言葉です。話をしたあとに覚えておいてほしいと思う最大の言葉こそ、会社名なのです。

会社名は第一印象となるだけでなく、一般的に会社の永続的な基礎となるものです。会社名は事業計画、マネタイズ、製品、メールマーケティング、ロゴデザインなど事業戦略や事業執行中の至るところで繰り返し利用されます。しかも、一度決めてしまうと変えたくないものです。

これを踏まえ、プロフェッショナルとしての努力の賜物である製品に何年間も使える名前を付けるにはどうしたら良いでしょうか。デザイン思考を取り入れると最適な選択にたどり着けます。

Design thinking is a human-centered approach to innovation that draws from the designer's toolkit to intergtate the needs of people, the possibilities of technology, and the requirements for business success.

写真出所:Wired

デザイン思考(Design thinking)という言葉を聞いたことがない人でも、グループでブレインストーミングをしたり、ワークショップでポストイットを使ったりしたことがあれば、ある種のデザイン思考をしたことがあるようなものです。この方法論の提唱者であるTim Brownは「デザイナーのツールキットを利用して、人びとのニーズや技術の可能性、会社の成功を一体化させイノベーションを起こす人間中心のアプローチ」と定義しています。

ビーチを連想させるようなイメージと名前を結びつけたかったので、ライフガードタワーが理想的な名前だと思った

– Tower Paddleboards

デザイン思考をもっとシンプルに考えます。つまり、思考を体系付け、さまざまな問題に対してより協力的、共感的、創造的な解決法を紡ぎ出せる一連の原則やツール、方法論だと考えます。デザイン思考の良いところは、さまざまなものに応用できるところです。デザイン思考は「デザイン」のツールですが、デザイナーだけでなくあらゆる人の課題に利用できます。この記事を読み進め、実践していくうちに、ツールを習得(または体得)し、自分個人のツールキットとして取り入れ、あなたの会社生活においてデザイン以外の課題に直面したときにも利用することをおすすめします。

では、名前を考えてみましょう!

ステップ1:定義する

名前のことはいったん忘れて、もっと大きな枠組みで考えます。自分の会社はどのような会社ですか? 会社の目的は? 会社の基礎としてどのような価値観を持っていて、世界に対してどのように表現したいですか?

このようなことを考えるのが重要な理由は、会社のブランドとしてたくさんある重要な要素の中でも、会社名がもっとも重要だからです。さまざまなデザインを決定する場合でも、会社名自体が重要な役割を果たすからです。視覚に訴えるもの(ロゴ、配色、パッケージング、Webサイト、製品デザインなど)や非視覚的なもの(会社の価値観、コミュニケーション、マーケティングなど)の決定に影響するからです。

Huge’s brand is, well, huge

ブランドが文字通り大きいHuge

Hugeは、上のようなロゴで成功したブルックリンに拠点を置くデジタル企業です。「huge」という要素がロゴ自体として表現されていて、名前は太字、全部が大文字で表示されています。また、配色では黒とマゼンタが大胆に使われています。Webサイトを閲覧すると、この大きなロゴの画像がページの大半を埋め尽くしていて、画像には大きい太字フォント(おそらくAvantGarde Bold)が使われているのが分かります。

以上は視覚的なデザイン要素ですが、それにとどまりません。Webサイトのコピーは大胆不敵な視覚に訴えるスタイルとぴったりマッチした独特の語り口です(採用ページでは「気になるやつは金が稼げるぜ」と強調されています)。また、映像はダイナミズムのある活発な企業文化を表現しています。「たくさんの人がいれば大きなものが作れます」とアピールしています。また「多くの人の力を合わせて革新や大胆さ、大きなことを考えるという共通の価値観の実現を」ともアピールしています。

Kivaという名前の由来は「kiva」という単語にある。kivaはネイティブアメリカンの聖なる住処を意味し、ヒーリング効果があるとされ、コミュニティとして機能するだけでなく、生まれ変わることさえできると言われている。この聖なる風景を想いながら、Kiva Confectionsは生まれた

– Kiva Confections

事業の原動力を書き出す時間を作ってください。要点を少し箇条書きすれば十分です。会社名を決めるプロセスを進めながら常にこの点を考えることで、会社名と会社の根底にある価値感に必ず関連性を持たせられます。

ステップ2:調査をする

すぐに名前の候補リスト作成を開始したくなりますが、コンテキストを設定し、創造力を働かせるために最初は調査から始めるのをおすすめします。

■語彙を磨く
おそらく、自社の業界で起こっていることはすでに分かっているでしょう。自社の専門領域だからです。しかし、最新の記事を読んだり調査をしたりするのは有益です。主要なテーマはなんですか? 業界内外の人はどのようなことを話題にしていますか? 新しいトレンドはなんですか? 顧客志向の見方をするためにも、専門家や潜在的なユーザーがどのようなことを気にかけているかを含め、キーワードを書き出してください。

■競合他社の調査を怠らない
次に、競合他社をGoogleを使ってしっかり調査します。直接的な競合他社がない場合、自社の業界の主要な企業を調べます。業界の命名トレンドの大まかな感じを掴めるはずです。型にはまる必要はありませんが、トレンドからどの程度「離れているか」を知り、意図的にトレンドから離れるようにします。たとえば、法律業界の企業名の99%の名前が「名字&名字&アソシエーツ」になっている場合、自社名を「iHeartLaw」にすると注意を引きつけるでしょう。良い悪いの問題ではありません。競合他社の名前の調査をするときは、各社のWebサイトにもアクセスして、それぞれの名前がその会社のブランドをしっかりと表しているかを考えます。良いと思う名前と悪いと思う名前を書き出してみましょう。

Contrasting approaches to naming and overall branding of a legal services firm. Design by Terry Bogard for Juan Maria Naveja, Logo concept by Azael Carrera

法律事務所の命名および包括的なブランディングに対する対照的なアプローチ。「Juan Maria Naveja」の例(左:デザイン Terry Bogard)、ロゴコンセプトの例(右:作成 Azael Carrera)

会社命名のトレンドを考慮する

スタートアップの命名トレンドを紹介します。有名企業と新鋭のスタートアップ企業の例です。

私はとても賢い名前を付けようと試行錯誤していたが、いまではスタートアップが提供するサービスまたはサービスの主要な機能を表す言葉を使おうとシンプルに考えている。それが「Buffer」という名前になった。

– Buffer CEO Joel Gascoigne

命名トレンドにはメリットとデメリットがあります。特にオンラインで会社の名前を浸透させる計画をしている場合、気を付ける必要があります。これについては、記事の後半で詳細に説明します。多くの場合、名前の簡潔さの度合いとドメイン取得容易度は相反する関係になるので、バランスを取るように注意してください。

最後に、これらの形式に縛られる必要はありません。私が好きな会社名もいずれの命名トレンドのカテゴリにきっちりと当てはまりません。たとえば、TheRealReal(同じ単語が2回も使われていまが大丈夫でしょうか、でもうまくいっています)、Robinhood(ちゃんと通用するのでしょうか、問題ないようです)、x.ai(もうなにがなんだか分かりません)、そしてもちろん、私のスタートアップday100(名前に単語と数字が両方ありますが、背後に隠れたかっこいい意味があるので大丈夫です)などがあります。

Long live suffixes. Via Bo_Rad for bruno.m.

接尾辞を追加した「bruno.m.」の例(作成 Bo_Rad)

The mashup. Via ludibes.

単語を組み合わせた名前「FLYTANIUM」の例(作成 ludibes)

The one-word punch. Via Ian Douglas for Rhshaner

1語でインパクトがある「Rhshaner」の例(作成 Douglas)

これらのトレンドを制限ではなく、次のステップで取り上げる名前のバリエーションや組み合わせを考えるときのための参考にしてください。

ステップ3:アイデアを考える

Confused goat by bboyren

混乱したヤギの例(作成 bboyren)

ここからは楽しいステップです。アイデアを考えたり、ブレインストーミングしたりします。意味飽和(1つの単語を繰り返し見たり聞いたりすることで、その単語の意味が分からなくなってくるおもしろい心理現象)を避け、ポストイットに埋もれないように(先に言っておくと、こうなることは多いです)、このステップのコツを紹介します。

  • 質より量:そのままの意味。人生におけるほとんどの物事と違い、いち早く完璧な名前を決定するのが目標ではなく、生かせるアイデアをたくさん考えることが重要
  • チームワークが良ければ傑作が生まれる:1人でもブレインストーミングはできるが、ほかの人の新鮮な見方は有益かつ効果的。できれば、ほかの人を引き込み、多くの人ですばらしいアイデアを共有し判断できる心地よいブレインストーミングができる環境を作る
  • 視覚的に考える:TomとDavid Kellyの共著『Creative Confidence』で、チームリーダーはマーカーを使うことをためらう必要はまったくないと書いている。アイデアを書くのではなく描写する。たくさんスケッチをすること。芸術的に描写するのではなく、アイデアのポイントを伝える。画像を使うと名前が思いつきやすい。さらに、会社のロゴも思いつきやすくなる

私たちは、名前に2つの要件を設けている。「W」で始まる3語の文字で、かつ覚えやすいものということだ

– Wix

  • ゲーム形式を取り入れる:ただ座って意識の流れに任せてたくさんの名前を書き出すだけのブレインストーミングは、長く続かない。演習や問題を取り入れてもっとおもしろく生産的にする。すでにゲーム形式のブレインストーミングに関して書かれた本はたくさんあるので、書中にある演習問題を参考にするとよい
  • 正攻法ばかりを取らない:すべての名前を自分自身またはチームで考える必要はない。Thesaurus を利用して関連したキーワード群を探したり、NaminumNamemeshなどの命名ツールを利用し、キーワードに基づいてたくさんの名前のバリエーションを探す
  • 同じことを繰り返す:スタートアップの黄金律はここにも当てはまる。休憩を取ってから(または散歩したり、昼寝したりしてから)ブレインストーミングを再開する。それを繰り返す。クリエイティブなプロセスに変化を与えるために、周りの環境を変えるようにする。グループで作業する場合、チームメンバーや友人、潜在ユーザーなどのグループ編成やグループの大きさを変える

ステップ4:情報をとりまとめる

ブレインストーミングではおそらくたくさんの命名アイデアが考えられるでしょう。このステップでは目の前にあるすべての紙、ポストイット、走り書きなどを集め、選択肢を絞ります。

「良くない」アイデアを削除する

以下のような方法で進めます。

  • 第1に、似ているもの(たとえば、同一のルーツを持つ単語)をベースにグループ化し、重複しているものを削除する
  • 第2に、意味が複雑すぎるもの、スペルやタイプするのが難しいものを削除する。見込み客が会社の名前をつづれず、ネットからコンタクトできないという理由で販売の機会を失いたくはない
  • 第3に、口に出して言ってみる。簡単に言えるか、おかしくはないかを確かめる。シリコンバレーのショーで「smaller」と解釈されるのを狙ってSMLLRと名前を付けてから「smeller」とも読めることに気付いたグループのようにはならないように

    Chock-full of good ideas. Via HBO.

    HBOが作成した豊富な優れたアイデア

  • 第4に、ほかの人とテストをする。自分の事業内容を知らない人とテストするのが望ましい。名前を聞いて第一印象や、どのように響くか、どのように感じるかを尋ねる。ステップ1でまとめた会社の価値観や使命と比べて結果がどうかを確認する

絞り込んだ会社名が利用できるか確認する

会社名の候補を絞り込めたので、実際に使えるかを確認します。ドメインが利用できるかということに加え、関連したソーシャルメディアも確認する必要があります。Twitter、Facebook、Instagramなどがもっとも一般的です。確認できるワンストップの無料ツールがNamechkです。利用する可能性のある名前1つ1つが使えるかどうかを自動的に確認してくれます。

覚えやすく、コンタクトが取りやすく、親しみの湧く名前がほしいことは分かっていた。しかし、既存の単語は使いたくはなかった。Dave(Rusenko、Weebly共同創立者)は単語の長さや子音と母音の組み合わせ、.comが利用できるかなどのルールに基づいて利用可能なドメイン名を自動的に生成するアルゴリズムを実際に構築した。Weeblyを目にしたとき、やったと思ったものだった

– Dan Veltri、Weebly共同設立者兼CPO

絞り込んだ会社名が利用できない場合はどうすれば良いでしょうか。実際、予想しているよりも、よく起こることです。現在、ほとんどのドメイン、特にシンプルなものは、すでに利用されています。幸い、使おうと心に決めていた名前と完全一致する名前が使われている場合でも、名前のほかの選択肢やクリエイティブに考えて名前に変更を加えることはできます。

  • 人気の.comではないドメインを試す:特にスタートアップでもっとも広く使われている代替的なドメインの末尾は「.co」「.io」「.net」で、新しくトレンドとなっている「.xyz」などもある。さまざまなドメインの末尾が利用できるかもしれないので、Namechkを使って確認する
  • 業界特有のドメインを利用する:業界によっては特定のドメイン末尾のほうが適している場合がある。たとえば、金融業界の.cash、技術業界の.tech、Eコマース業界の.shopなどだ。より詳しく知りたい人はまとめリストを参照
  • もっとクリエイティブになる:ドメイン末尾で会社名をおもしろくアレンジする。たとえば、soul.campbonus.lyのようにする。ドメイン末尾を名前の中にシームレスに組み込む
  • 妥協も必要:トレンドを再度参考にしながら音は同じながら母音を省いたり子音を変化させたりして変化が生じるかを確認する

これで満足できる解決策になりましたか?

Unusual spellings. Via artsigma.

珍しいスペル「Surelock」の例(作成 artsigma)

The .co option. Via vraione.

.coオプションの例(作成 Via vraione)

ステップ5:テストし、最終決定する

大まかに候補を絞り込み、複数の選択肢に対するほかの人の反応を評価し、名前が利用できるか確認し、候補を2つか3つに絞り込めました。一見難しい作業に思える選択肢を最後の1つに絞るにはどうすれば良いでしょうか?

ブランド認知を容易にするため、そしてSEOも考慮して、新しい単語を作りたかった。また、簡単に発音できるものにしたかった

– Bellgray

直感的に1つに絞れなくても、途中でいろいろな人の意見を聞いてください。ほかの人の意見を個人的に聞くことを続けてください。これまでのステップはいろいろな面でしっかりした戦略ですが、常に意見の偏りがあり、調査対象が限られるために調査の正確性は保証されていません。

代わりにオンラインで次の方法を試してください。以下に2つの方法を紹介します。

  • ハッカー的な方法:A/Bテストをして、数字から判断する方法。同一のランディングページを用意し、ターゲットを絞った広告を意図したユーザーやクライアントに表示する。そのあと、トラフィック/エンゲージメントを比較し、人気のあるほうを選択する。起業家ブログのStartupBrosを閲覧すると良い例が見られる。この方法が優れた戦略である理由は、できるかぎり実生活に近い状況を作り出していることにある。また、データに基づいた判断ができる
  • ソーシャルメディアを活用した方法:A/Bテストは技術に精通していない人や命名に資金を費やしたくない人にとってはあまり気乗りがせず魅力的でないかもしれない。そのような場合は、ソーシャルメディアを使う方法をすすめる。オンラインソーシャルネットワークでつながっている人に尋ねる方法だ。Linkedin、Twitter、Facebookなどのアカウントを持っているはずだ。なんらかのプロフェッショナルであれば、何千とまでいかなくとも何百かの人とつながっているだろう。短くて簡潔なアンケートを作成し、つながっている人たちと共有する。Google フォームなどの外部のツールを利用すると、すべての結果を1カ所で表示できるだけでなく、自動的に結果を整理、分析されるので便利だ。ほかの方法としては、オンラインソーシャルネットワークに組み込まれている調査ツール(Twitterは無料、Facebookは有料)を使うか、単にアンケートの質問や選択を提示して、直接回答をソーシャルメディアプラットホームに投稿できようにする。データ分析は手作業になるが、返答率はおそらく高くなる

どちらの方法を選ぶかは自由ですが、ソーシャルメディアを使う方法は、マーケティング効果という隠れたメリットがあります。会社のブランド化のプロセスで見込み客が自分の意見を反映できるので、ネットワークでブランドへの関心への高まりにもつながります。

自分の会社に名前を付けよう!

これから飛び立とうとする人たち、準備はいいですか? 今回紹介したデザイン思考の方法や演習が、クリエイティブで記憶に残り、意味があり、利用可能な会社名を考えるのに必要なツールを補完できていれば幸いです。することが多くて大変かもしれませんが、第一印象が悪いと2度とチャンスはないかもしれません。ですから、正しい方法を取って成功させましょう。

※本記事は99designs blogで公開されました。

(原文:How to Name Your Business with a Little Help from Design Thinking

[翻訳:中村文也/編集:Livit

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