Windows XPのサポート終了に伴う特需以来、PC業界は押し寄せるダウントレンドの波にさらされてきた。しかしそんな低迷からの本格的な回復が、2017年ようやく進みそうだ。
底が見え、助走期間に入ったPC市場?
個人向けのパソコン販売は依然厳しさがあるが、実際、企業向けPCについては2016年は底が見えた回復の基調が見えてきたとするメーカーが多い。IDCなどの調査を見ると、2015年にはふた桁の減少率だった市場規模も、(メーカーによって温度差があるもの)2016年には前年比で増加に転じたり、数パーセントと低い減少率にとどまっているケースが多い。
けん引しているのはビジネス分野だ。背景のひとつは企業内でのWindows 10導入準備が整い、2016年から徐々にPCリプレースが進み始めていることが挙げられる。
さらにWindows 10以外のバージョンも選択肢に入れやすくなった点はもうひとつの追い風だ。
マイクロソフトはインテルの第6世代CPU(Skylake)と組み合わせるOSは、Windows 10を推奨しており、Windows 10以外のOSのプレインストールおよびサポートはその前の世代のBroadwell/Haswellよりも早く打ち切る方針としていた。そのためWindows 7/8.1を使い続けたい、使わざるを得ない企業ユーザーにはSkylake世代より前のCPUを搭載するPCが必要だったのだ。
しかし昨秋、マイクロソフトは方針を一転。2016年10月末までとしてきたWindows 7/8.1プレインストールPCの出荷期限を、2017年10月31日まで延長した。さらに2018年7月までとしていた、Skylake搭載機に向けたWindows 7/8.1のサポートもBroadwellやHaswell世代と同様、それぞれ2020年1月/2023年1月まで延長している。
Windows Vistaの延長サポートは2017年4月に切れるが、Windows 10に直接アップグレードする道筋だけでなく、間にWindows 7/8.1へを挟む選択肢もより現実的なものになった。新しいハードを導入するためのハードルがひとつ下がったのだ。
ワークスタイル変革と、用途を絞ったパソコンが仕事を変える
就業環境やワークスタイルの変化という別の追い風もある。
2017年から2018年にかけて、パソコン市場のV字回復を目指すのであれば、この追い風を受け止め、大きく羽ばたく必要があるだろう。例えば“労働時間の短縮”(時短)の流れは、短い時間でも企業として成長を続ける“個人の生産性向上”という課題と表裏一体のものになるはずだ。その実現のために、ITは頼りがいのある相棒となる。
そのためのツールとしてはパソコンに限らず、意思疎通を円滑に図っていくためのコミュニケーションツールやナレッジシステム、会議を円滑に進めるためのディスプレーやプロジェクターなど広範囲に及ぶはずだ。
一方で、パソコン自体も汎用的なものではなく、バーチカル的な応用形態が増えてきている。例えば、コンパクトなパソコンとして話題を集めたスティックPCは、デジタルサイネージのようなB2B用途に加え、無線でパソコン、スマホ、タブレットなど、さまざまな機器の画面を共有するための機器に応用されたりもしている(NECのMultiPresenter Stick)。機器の構成はパソコンであり、OSはウィンドウズだがユーザーにはそうは見せずプレゼンに便利な無線対応のモニター切り替え器として見えるのだ。
同様にテレビ会議に特化した重箱型パソコンである「HP Elite Slice コラボレーションモデル」といった製品も登場。多機能であるがゆえに、用途が曖昧であったパソコンの役割をオフィスの中でより明確にするアプローチが出始めている。
働き方も多様化している。育児・介護・人材不足といった要素から、オフィスを離れ、自由な場所と時間を選択して働ける“テレワーク”あるいは“モバイルワーク”のために新しいパソコンの導入は必須だ。そこでキーワードになるのはもちろんモバイルだが、それに付随してセキュリティーやユーザービリティ―が当然重要になる。
2016年は“ランサムウェア”や“標的型攻撃”といった悪意のある攻撃が、猛威を振るった1年でもあった。このうち、身代金型ウイルスなどとも呼ばれるランサムウェアは感染するとパソコンのストレージを暗号化するなどして、ユーザーが使用できなくなるプログラムのことだ。ユーザーはその解除のために攻撃者に身代金を払わなければならなくなる。こうした新しい攻撃に対する備えは、ソフト側だけでなくハード側の対応も必要となる場合があり、最新のセキュリティーに対応した最新のハードウェアの需要も期待できる。
また2017年はベビーブーム世代が70歳の大台に乗るタイミングでもある。その子の世代である第二次ベビーブーム世代は40代の働き盛りとなるが、親の介護をはじめとした様々な問題に直面することになる。在宅作業やワークバランスの観点で、ネットとパソコンの活用は不可避だし、その時代に備えていく必要がある。様々な場所にいる多様な人材がネットを経由してコラボレーションする環境がますます進んでいくだろう。
変化を続けられる限り、死なない
1990年代後半にパソコンのコモディティー化が叫ばれて以来、パソコンの未来を疑問視する声は根強くあった。
1990年代の後半、「パソコンは死んだ」とセンセーショナルに発言したのは米IBMのCEOだったルイス・ガースナー氏だ。20代前半、ちょうどIT業界の記者として働き始めた筆者にとって衝撃的な台詞だった記憶があるが、その裏付けを得るためにネットを検索してみても、不思議と、この表現は見つからなかった。もしかしたら「パソコンの時代は終わった」ぐらいのマイルドな表現だったのかもしれない。人間の記憶は曖昧だ。
それから約20年のときが経ったいま、改めて市場を眺めてみると、パソコンは確かに当たり前のものになった。しかしそれは当たり前のように求められ、より一層活用されていくものに変わっている。ガースナーは市場の変化をダーウィンの進化論になぞらえて「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは変化できる者だ」とも語っていたのは興味深い。
パソコン市場の減少が危惧されている。逆に言えば先進国ではコモディティー化などと言われつつも、その間、必死に変化しようとし続けてきたのがパソコンとその市場だったともいえる。
パソコン業界は2017年、どのような進化を遂げるのか。社会の変化に適応し、その変化をけん引していくプロダクツのあり方を見ていくのは楽しい。