四面楚歌――とまではいかないが、クアルコムのビジネスモデルに対して厳しい目が向けられている。今年の1月にクアルコムは少なくとも4件の訴訟を起こされた。そのうちの3件はアップルが原告だ。
クアルコムは半導体メーカーであり、無線関連技術の開発とライセンスを行なっている。3Gに関するものを中心に重要かつ膨大な知的所有権ポートフォリオを持ち、スマートフォンやタブレットを製造・販売するメーカーのほとんどは、同社に何らかの料金(ライセンス料金やロイヤリティーなど)を払っていると言われている。
1月17日、米連邦取引委員会(FTC)はそのクアルコムに対し、自社ベースバンドプロセッサの販売やライセンスについて、独占的立場を利用する半競争的な行為が見られるとして、独占禁止法に抵触する疑いがあると提訴した。
FTCによると、”ノーライセンス、ノーチップ”ポリシーのもとで、クアルコムに有利なライセンス条項で自社ベースバンドチップを供給していたという。このやり方では、競合のチップを採用した携帯電話メーカーに対してライセンス料金を上げたり、他のライセンス条項を求めたとのこと。「”ノーライセンス、ノーチップ”とは、他の半導体サプライヤーを利用させないための条件」とFTCは非難している。
このほかにも、基本的技術特許についてFRAND(公正、合理的、かつ非差別的にライセンスする)としておきながら、競合するベースバンドプロセッサに対して(FRAND条項でライセンスするとしている)特許のライセンスを拒否したこと、アップルに対しては2011年から2016年の間、自社のベースバンドプロセッサのみを調達し、競合を採用しないようにさせたと記している(https://www.ftc.gov/news-events/press-releases/2017/01/ftc-charges-qualcomm-monopolizing-key-semiconductor-device-used)。
さて、そのアップルも動く。1月20日、同社がカリフォルニア州南部地区連邦地方裁判所にてクアルコムを提訴したことが明らかになった。
アップルはここで、自社チップに対して過剰なライセンス料金(5倍)の支払いを求めたこと、10億ドルの支払い義務を怠っていることなどを主張している。10億ドルの支払い義務とは、クアルコムを独占禁止法の疑いで調べていた韓国当局(KFTC)の調査に、アップルが協力したことに対する報復として、リベートを受け取る権利を失ったとして、クアルコムから支払われなかった金額とのことだ。アップルによると、クアルコムはこのリベート金の支払いの条件としてKFTCに正確ではない情報の提供を強要したとのこと。
これに対し、クアルコムの法務顧問、Don Rosenberg氏は声明文を発表、「書類をレビューしているところだが、アップルの主張は根拠のないもの」などと攻撃している(https://www.qualcomm.com/news/releases/2017/01/20/qualcomm-comments-apple-complaint)。
アップルは攻撃の手を緩めない。1月末に中国で2件の訴訟を起こしたことが報じられた。ロイターによると、1件目は、中国の独占禁止法に違反しているとするもので、10億人民元(約165億円)の損害賠償金を求めている。2件目はFRAND特許についてで、FRAND条項で該当特許をライセンスしていないと主張しているという(http://www.reuters.com/article/us-apple-qualcomm-china-idUSKBN159264)。
これについてもクアルコムは声明文を発表、「アップルの中国子会社による今回の提訴は、クアルコムの技術への支払いを少なくするための方法を探る、アップルの取り組みの一部に過ぎない。アップルは100社以上の中国企業が合意したのと一貫性のある条項を提示されたが、それを検討しなかった。しかもこの条項はNDRC(中華人民共和国国家発展改革委員会)が認めた修正プランと一貫性があるものだ」と主張した。
NDRCの修正プランとは、クアルコムが2015年に中国政府による独禁法訴訟で、60億8800万人民元(約100億円)の罰金支払いと同時に合意した修正案だ(https://www.qualcomm.com/news/releases/2017/01/25/qualcomm-comments-apples-lawsuits-china)。
そんな中で発表されたクアルコムの会計年度2017年第1四半期(9~12月)の決算だが、同期の売上高は予想を約1億ドル下回る60億ドルとなった。クアルコムはアップルに対して反訴するのではないかと予想されている。