EMCとの合体によって誕生した巨大エンタープライズベンダーのデル・テクノロジーズ。デルの元祖事業であるPC・クライアント事業は「Dell」ブランドを維持する。持ち運びできるノートPCやタブレットを開発・提供するのと同時に、同社が社内で進めているのが在宅勤務だ。デルのクライアントソリューションでマーケティング担当バイスプレジデントを務めるアリソン・デュー(Allison Dew)氏に在宅勤務を中心に話を聞いた。
従業員の50%を遠隔勤務にするデル、なにを狙う?
――デルが在宅勤務を奨励する理由は?
デュー氏:全社的に推奨している。国によって差があるが、デルは8年ほど前からフレキシブルな勤務体制の導入を進めてきた。2012年には、持続性のための取り組みとして「Dell 2020 Legacy of Good」として、従業員の50%を遠隔勤務にするという目標を正式に掲げて取り組んでいる。
狙う効果としては、広範な人材にリーチできること。人口圧力、人間関係からの圧力などがあり、仕事を変える必要がある人がいる。在宅によりいつでも仕事ができるのであれば仕事をしたいと思っている優秀な人材はたくさんおり、それを支える(無線、セキュリティなどの)技術もそろっている。人は職場の体験に基づき意思決定をするが、在宅勤務を可能にすることで、従業員の人生に柔軟性を持たせることができ、雇用と報酬を約束できれば、会社に対する従業員の考え方は改善するだろう。他にも、設備面積の削減、通勤により生じる炭素排出量の削減などがある。
――取り組みの結果は追跡しているのか?
デュー氏:持続性のメリットを調べた調査(「The Sustainability Benefits of the Connected Workplace」)を発表している。たとえば、デルの社員は平均して月に9.5回オフィス外から仕事をしている。オフィスのスペース削減などを入れると4000万ドル程度を削減できていると見積もっている。従業員による満足度も上がっており、過去最高記録に達している。
――在宅勤務はチームの結束や意思疎通などの課題もある。
デュー氏:対面での会話が重要だという認識は変わっていない。100%在宅では上手くいかない。対面でのミーティングは継続して重視している。
私自身はグローバルチームを統括しており、年に1度は自分が管理しているすべての市場のオフィスに出向き、担当者に会うようにしている。電話では不十分で、人と人のコネクションが不可欠だと考えるからだ。リーダーシップチームでは四半期に1度は対面して3日間のミーティングを行なう。これはカンファレンスコールを複数回やるよりもはるかに意味がある。人間関係の構築があって初めてその上に柔軟性を持たせることが効果を生む。この組み合わせとバランスは簡単ではない。
――8年間たくさんの学びがあったと思うが、デルの製品やサービスにどのように反映させているのか
デュー氏:クライアントソリューションはPC、モニターなどの製品を提供しており、ユーザーのペルソナ、役割や使い方などを調査している。デスク中心の作業をするスタッフか、コールセンターのスタッフかで異なる。ハードドライブ不要のシンクライアントソリューションが適しているところと適していないところがある。性能ありきではない。
営業担当は単にPCを販売するだけでなく、顧客がどのように働いているのかを聞き、まずはどのようなニーズがあるのかを知るようにしている。こんな従業員なら、デスクトップよりもワークステーションの方が良い、軽量のノートPCの方が良い、といった具合に顧客により異なるからだ。
オフィス外から仕事をすることは、柔軟性をもたらす一方でセキュリティには脅威となりうる。実際、セキュリティ侵害の95%がエンドポイントからと言われている。デルはPCからサーバーまでを揃えるが、これはエンドポイントが安全でなければデータセンターを安全にできないと信じているからだ。全体として、エンドポイントの重要性に対する理解は低い。従業員の生産性を高めて満足度を改善する性能やツール、同時にITが必要としているセキュリティのためのツールの両方が必要だ。
遠隔からの作業の中でも、出張が多いスタッフ向けには、グローバルで利用でき事後対策ではないセキュリティを提供するサービスが必要だ。デルの「Dell Pro Support Plus」は出張先でも24時間365日テクニカルサポートにアクセスでき、ハードディスクドライブが壊れかけているが、バックアップを取っていない時でも保護を支援してくれる。このようなグローバルサービスはアップルでは得られない。Pro Support Plus及び(下位の)Pro Supportを利用する顧客はデル製品への満足度が高い。
モバイルがないところの不足はシンクラアイントや2in1で補える
――クライアント事業ではライバルのヒューレット・パッカードがHPとして分社化した。PC市場全体の成長は減速傾向にあるが、市場や競合をどう見ている?
デュー氏:企業は多数のベンダーと取引するよりも、1社と深く付き合い、自社のニーズを満たすエンドツーエンドのソリューションを調達したいと思っている。
市場を見ると、技術をどのように調達するのかが変化しており、かつてのようにCIOがすべてを決定するわけではない。IT部門から与えられるのではなく、エンドユーザー主導の調達に変わりつつある。エンドユーザーが”これが使いたい”という影響力が大きくなっており、クラウドなど自分たちで調達するケースも出てきている。デルのクライアント事業はつねにこの視点を大切にしてきた。見た目がよく、ITが満足するセキュリティを備えたソリューションを揃えている。加えて、Pro Support Plusなどのサポート、それにコンサルティングにより顧客とITの両方のニーズにあったソリューションを提供できる。
HPは分社であり、エンドユーザーの生産性を企業の他の部分から切り離している。これでは、エンドユーザーのニーズとITのニーズを同時に満たすことはできないだろう。これは顧客のニーズではなく、株主のニーズを満たそうとしているからで、顧客のニーズにフォーカスしているわれわれの方が優れた事業モデルだと確信している。
PC分野でもコンシューマライゼーションが進んでいる。PCは死んだという向きもあるが、PCは死んでいない。売れているし、進化している。PCは作業を行なうという点で中心にあるデバイスであり、デルは作業の文脈に適した機能や外観を用意する。
たとえば、Infinity Edge液晶をLatitudeラインにも導入した。6年前のLatitudeは重たく、かっこいいとは言えなかったかもしれない。コンシューマー分野のイノベーションがビジネスにも入ってきている。
――エンドツーエンドであれば、ソリューションラインナップにモバイルがないことは不足ではないのか? HPは「Windows 10」を搭載したスマートフォンを披露している。
デュー氏:シンクライアントである程度のニーズはカバーできる。2in1型は急成長している分野だが、デルはこの分野をリードしている。2in1ならモニターにプラグインして大画面で作業して、アンプラグして持ち運んで作業するなどのことができる。まだ2in1の可能性は完全に開拓されていないと思う。VRではOculusと提携しており、Alienwareで取り込みを進める。ARというとゲームと思われるかもしれないが、ビジネスでのARの利用も模索していく。
エンドユーザーに対してのブランディングは改善の余地あり
――EMCとの合体がクライアントソリューション事業に与えるメリットは?
デュー氏:経済的なメリットのほか、データセンター事業にもメリットになる。エンドポイントでのセキュリティ対策はデータセンターのセキュリティ維持に役立つ。
セキュリティではCylanceと提携しており、人工知能を利用したエンドポイントの保護が可能だ。ビックデータに基づきマルウェアファイルの特徴を予測して実行される前に予防するなどのことが可能だ。複雑で高度な技術をベースとしているが、エンドユーザーから見るとシンプルで、しかも性能にも影響を与えない。DellはCylanceと主要OEMとして契約している。これはわれわれの差別化につながる。
――クライアントソリューションで取り組むべき課題は?
デュー氏:技術革新の速度が速くなっており、もっとも革新的で消費者にとってメリットのある技術を、使いやすい形で導入することにフォーカスしている。
ブランディングも課題で、ITの意思決定者とエンドユーザーの両方に訴求するメッセージを出していく。ITの意思決定者はデルの技術を理解しており、ブランドを認めているが、エンドユーザーに対してはまだ改善の余地があると思っている。一部では、古いままのイメージでアップデートされていないこともある。デルのクライアント製品の魅力を伝えていきたい。
日本市場については、世界的に見てとても好調だ。シェアも増えているし、小売店とも良好な関係を築いている。製品を手にとって見てもらうという意味で、小売店との関係は今後も強化していく。