評論家・麻倉怜士先生による、いま絶対に聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。2016年 最後の回となります。リサ・バティアシュヴィリがチャイコフスキーの協奏曲を録音していなかったというのは意外でした。クラシック成分がやや多めですが、ゴダイゴやスティングなども必聴盤です。年末年始、一息つくタイミングにダウンロードして聴いてみてはいかがでしょうか?
特におすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
チャイコフスキー&シベリウス: ヴァイオリン協奏曲
リサ・バティアシュヴィリ, ベルリン国立歌劇場管弦楽団
ダニエル・バレンボイム
リサ・バティアシュヴィリは、世界的に注目が集まるグルジア出身のヴァイオリニスト。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、CDジャーナルによると「あまりにも多くのヴァイオリニストがこの作品を演奏し、あまりにも多くの解釈が私の頭の中にあるからという理由で避けてきた」ということだ。
彼女のやる気を引き出したのは、「あなたとチャイコフスキーを演奏したい。その思いに突き動かされて、私はこの協奏曲を研究し、自分のレパートリーの一つに取り入れた」と言ったバレンボイムだった、とCDジャーナルはリポートしている。
冒頭のオーケストラの導入部が、これからヴァイオリンを迎える心構えとわくわく感を演出。あたりを睥睨しながら堂々と入るバティアシュヴィリのヴァイオリンは、一音一音が慈しむように発せられ、音の表面のなめらかさと、それと対照的な内実の深さと緻密さが同居する。チャイコフスキーのこの通俗名曲でも味わいの深さという点では、最近のベストではないか。悠々としたテンポ感も体感的に気持ち良い。オーディオ的なサウンドも素晴らしい。ナチュラルで解像感と階調感がここまで深い同曲の録音も随一だ。録音は2015年5月、ベルリンにて。
FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music
Revive、Elina Garanca
Orquestra de la Comunitat Valenciana, Roberto Abbado
ラトヴィア出身のメゾ・ソプラノ、エリーナ・ガランチャは現代最高の歌手の一人と評される。私はクラシカ・ジャパンの放送でメトロポリタン歌劇場の「カルメン」を観て、とりこになった。
冒頭のアリアで、なんて深くて勁く感情を揺さぶる声なんだ、と。その感動がこのアルバムで再度味わえた。ガランチャの深く、体積が大きく、渋く、深淵な音の塊が聴き手に向かってハイスピードで迫り来るのを聴くのは、ブレシャスな体験だ。情熱的なバックを務める、クラウディオ・アバドの姪のロベルト・アバドとバレンシア自治州管弦楽団の音がいい。抱擁力があり、包み込むような器量の大きさが聴ける。ガランチャの歌とオーケストラの音場的なバランスも好適で、2つのスピーカーのセンターを中心に、大きなヴォーカル音像を描く。
FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music
In War & Peace - Harmony through Music
Joyce DiDonato
2度のグラミー賞を受賞した「アメリカン・ディーヴァ」。刮目の感情表現力と独自の音楽語法を展開するハイテクニックで、いま世界から注目の的だ。躍動的なベルカント・オペラ分野でも大評判だが、本ハイレゾはバロックアリアから「平和の意味」を考える、好アルバム。
1曲目、ヘンデルの"Some dire event hangs o'er our heads... Scenes of horror, scenes of woe"。まずはリュートの伴奏を従えた、感情の濃い歌声から始まる。透明で、彩度感に豊むサウンドだ。
次は、いかにもバロックオペラ的なアクセントが強調され、ハイスピードで進むオーケストラの番だ。細部まで丁寧に解像し、音の輪郭が明解。メゾ・ソプラノはエキセントリックとも形容できるほどの強調的な感情を発し、高音域が見事に強靱。音場はひじょうに透明感が高く、直接音、間接音のこまやかな音変化を余すところなく、高解像に捉えている。
FLAC:96kHz/24bit
ERATO、e-onkyo music
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