まずは働きやすさから手を付けたさくらの改革
業界全体で働きやすさだけではなく、働きがいにも注力しなければならないというのが田中さんの主張。幸せの価値観は人それぞれ違うし、仕事とプライベートは不可分で切り分けるのは難しい。こうした中、会社として働きやすさを追求し、さまざまな制度にチャレンジしているのが、現在のさくらインターネットだ。
過去には平均給与も短期間で上がるようにしたり、平均の残業時間を短くしたり、採用も以前に比べて注力するといった施策をとってきた。一方で、「でも、導入する前に比べて生産性はあきらかに下がった。一人当たりの売り上げはずいぶん下がっている」(田中さん)という悩みもある。働きやすさを充実させても売り上げの貢献には直結せず、社員が働きがいを得られるようになり、サービスが充実することで、初めて売り上げにインパクトをもたらすというのが田中さんの論だ。「働きやすさは環境でしかない。働きがいを提供するために、まずは上司から変わってもらおうとしている。今までは働きがいを阻害する源泉は上司だった。これからは上司が働きがいのきっかけになるのが重要」とも考えている。
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エンジニアはつねに勉強し、働きやすい環境を得られる人材に。上司や会社がチャレンジできる環境を作る
そこで最近では「さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)」というキーワードを抱え、幅広いキャリア形成とプライベートの充実を両立させる働きやすさと働きがいの改革を行なっている。定時の30分前に退社できる「さぶりこショート30」や残業代を20時間分前払いする「さぶりこタイムマネジメント」、12~16時をコアタイムにして、10分単位でスライドする「さぶりこフレックス」のほか、在宅勤務や時短、有給休暇などの制度も充実させた。「2日以上の有給休暇を事前申請して取得すると、1日5000円出ます。計画的に有給休暇を取る人に対してインセンティブを提供するねらい」(田中さん)。そして、来年1月からはパラレルキャリア制度として副業も解禁し、起業や他社での就業、ボランティアなどの社外活動も支援する。
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キャリア形成とプライベートの充実を実現するさくらの「さぶりこ」
こうした制度面での充実もあって、3月末に330名だった従業員も現在は380名に拡大。平均年齢も36歳を切るようになり、女性比率も以前に比べて高くなった。「男性の育休取得率が30%を越えたほか、平均残業時間も月8時間を切った」(田中さん)。過去3年間の離職率も6.1%となった。
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社員数や離職率、残業時間など制度改革後のさまざまな数値
とはいえ、悩みや課題も多い。スタートアップやクラウドインテグレーターでは当たり前となっているSlackやGitHubの全社導入も、さくらインターネットの規模では大変だった。また、フリーアドレス制度の導入に関しても社内ではもめているという。「働きやすさを追求していくと、手段に対して固執する人が出てくる。フリーアドレスも多様な働き方の手段の1つでしかないのに、絶対ダメとか、絶対導入せよみたいな極論になりがち」と田中さんは指摘する。
また、さくらインターネットは採用に際しても、事業が先にありきではなく、その人がやりたいことを重視しているという。「PHP7.0で開発していて、5年間の業務経験があって、Perlでデータベースのコネクターが書けて、何歳以下うんぬんといった制限を加えていても、正直マッチするわけがない。だったら、Perlでデータベース設計するのが好きな人に、データベースの入れ替えを任せた方が良い」と田中さんは語る。
サービスの立ち上げに関しても、「人に合わせすぎるのはよくないが、具体的なやり方はある程度、その人に任せた方がいいというのが事実として出てきた」(田中さん)という。具体例としては、機械学習に最適な高火力コンピューティングや、さくらのIoT Platformなどはやりたい人がプロダクトオーナーとなって、サービスを推進しているという。「私がこれやろうぜ!と言ってたサービスはそもそも始まらなかった(笑)」(田中さん)。
20年間続いた「効率重視」の時代を脱却せよ
最後に田中さんが主張したのは、「効率性」という言葉からの解放だ。「効率を追求して新しいサービスが生まれればいいけど、むしろ原価を下げる方向に働いている。経営者にとって効率性の改善は容易だが、ポジティブになりにくい」と田中さんは語る。そのため、会社として効率性を追求するのは、必ずしもトップラインを伸ばすことになはならないというのが田中さんの持論だ。
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働き方や環境、制度などを効率から解放する
「効率も求めて利益を高めるより、自由を認めて成長を目指すのが最終的には重要だと思う。私は20年間やってきて、ようやくこのことに気がついたけど、Googleなどの米国のIT企業はこうしたことを重視している」と田中さんは語る。圧倒的な事業の成長を肌で感じている米国企業に対し、日本の企業はこの20年間効率性のみを追求してきた。こうした人の働き方をこうした効率から解き放ち、成長に結びつけていくのが、今後の1つの方向性になるという。
その1つの施策として、さくらインターネットではコンテナサービスである「Arukas」を社内ベンチャーとして立ち上げている。Arukasのチームはさくらのオフィスとは異なるマンションの一角を借りて、まさにベンチャーとしてビジネスの立ち上げに注力しているという。
田中さんは、「企業は働きやすさを追求していかなければならない。でも、2015年の2つのイベントで私が得たのは、エンジニアは働きやすさではなく、働きがいを求めて転職し、キャリアにつながっているということ。働きがいのためには、エンジニアがお互いに切磋琢磨して高めていける環境を作っていくことが重要だと思う」とまとめ、講演を締めた。
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講演終了後は、ケーキがカットされ、参加者とともに20周年を祝った
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