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VRおじさんの「週刊VRかわら版」 第30回

すぐに崩れてしまう「実在感」をいかに壊さないか

なぜ「Mikulus」はキャラの存在を感じるのか? 答えは「引き算」にあり!

2016年10月30日 10時00分更新

文● 文● 広田 稔 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

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VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!

マイクロソフトはWindows 10の次期アップデートとなる「The Creator Update」のイベントの中で、Windows 10対応のVR HMDをPCメーカー5社から発売することを発表

 どもども! VRおじさんことPANORAの広田です。今週は何と言っても、マイクロソフトがWindows 10のイベントにて、299ドルのVRヘッドマウントディスプレーを発表したことが注目でしょう。国内に目を向けると、29日にVR開発者の有志による5時間半ものライトニングトークイベント「JapanVR Fest(旧オキュフェス)開発者会 皆の10分を繋げてVRの未来を作る」が実施されて大盛況で幕を閉じました。

 というわけで、今回は日本でも人気の高いキャタクターを扱うコンテンツについて知見をシェアしていければと思います。


すぐに崩れてしまう「実在感」をいかに壊さないか

 日本におけるVRアプリにおいて特徴的なのが、キャラクターに会いにいけるツールとしての活用です。PlayStation VRのローンチタイトルを見ても、アイドルマスターや初音ミクのライブ、サマーレッスンといった具合に、キャラクターに軸足が置かれている作品が出てます。

 一方で難しいのは、バーチャル空間に単純に3Dモデルを置いて動かしただけでは、そこにキャラが存在しているとは感じられないことです。一体、どんな工夫でキャラクターに命を吹き込んでいるのか──。そんな秘密を明かすべく、今週25日、PANORAとTokyo VR Startupsが開催した「Tokyo VR Meetup #10」にて、「Mikulusの衝撃」と題して、クリエイターのGOROman氏にご登壇いただきました。

 GOROman氏がつくっている「Mikulus」は、Oculus Riftをかぶると目の前に初音ミクが現れるというアプリになります。Oculus Riftの初代開発キット(DK1)が2013年春にリリースされた際、日本でもまっさきにこのMikulusの動画が公開されて注目を集め、ネットでアプリの配布が始まると、体験した人から「目の前にキャラクターが本当にいる感覚がスゴい」という声が多く上がって話題になりました。

 ポイントは、目で追ってこちらを見つめてくれるという点です。ユーザーがコントローラーを使って動くと、それに合わせて目線と首を動かして追ってくれるのが「キャラがその場にいる」感覚を増してくれます。

 その後、同作品は2014年にOculus Riftの第2世代開発キット(DK2)向けにもリリースされましたが、それ以降、更新されずに放置されてきました。

 しかし、ここにきて10月22日、いきなり製品版のOculus Rift対応がスタートし、Twitterで寄せられた意見を吸収しつつ、どんどん人として見えるように改良されて来ています。


 今回、講演で出ていた人に見えるように工夫したポイントは、以下の通りです。

Tokyo VR Meetupの公演スライドより引用。内部解像度など画質の向上、上半身が動く呼吸スクリプト……

VR体験に入る前の召喚モーションを入れたり、首の角度を固定したまま目だけ見るようにしたりと工夫が続きます

 GOROmanさんのテクニックで非常に興味深かったのは、あえてストーリーテリングをしていないという話でした。

 普通にキャラものの企画を立てる際、せっかく3Dキャラクターを使うのだから、しゃべらせたりいろいろ動かしたりしたほうがユーザーも満足するのではとなりがちです。しかし、ここで問題になるのが、Sense of Presence、日本語でいう「実在感」。本当にその世界にいるという感覚です。

 リアル世界において、誰かと顔を合わせて会話をしたり、何か肩をたたくなどボディータッチした際には、それに合わせて相手がリアクションを返してくれることを期待するでしょう。しかしバーチャル世界でそうしたストーリーを考え始めると、無限の分岐に出くわすことになります。

 実際のところ、キャラを感じさせる実在感とストーリーテリングは相反関係にあります。ストーリーを設計して、それに基づいてバーチャルのキャラから能動的にインタラクションさせようとした場合、自分が返した反応に的外れなボールが返ってくると、実在感がガラガラと音を立てて崩れてしまいます。

 例えば、360度動画をVRヘッドマウントディスプレーで見るときがわかりやすいです。誰かが登場してこちらに語りかけてくれるようなストーリーでは、プレイヤーがいろいろ反応しているのにも関わらず話が勝手にが進んでいきます。そこでプレイヤーの脳は、「これは現実ではない」と引き戻されてしまう。それなら、アイコンタクトや微笑みなど受動的なインタラクションに割り切ったほうが実在感が高まるのでは……という「引き算の美学」な上につくられたのが、Mikulusというわけです。

 同作の開発は現在も続いており、直近ではバーチャルデスクトップ機能が追加されたりと、日進月歩でバージョンアップが進んでいます。GOROmanさんによれば、Twitterにてテスターを絶賛募集中とのことなので、Oculus RiftのCV1を持っている人は、ぜひ申し込んで見てはいかがでしょうか?



 さて、実はこの「『Mikulus』の衝撃」という講演は、元々「『サマーレッスン』の衝撃」というタイトルだったのですが、ご登壇いただく予定だったバンダイナムコエンターテインメントの玉置絢氏が体調を崩されてしまったため、急遽、同じテーマで差し替えさせていただいた感じです。

 そして非常に実在感にこだわっていたGOROmanさんに印象に残った受けたコンテンツを聞いたところ、挙げていただいたのが「サマーレッスン」でした。来月11月22日、「Tokyo VR Meetup #11」にて、そのままスライドして「『サマーレッスン』の衝撃」を実施しますので、現地でぜひご聴講ください!(という熱い宣伝)


著者近影

広田 稔(VRおじさん)

 フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。


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