『よろしくメカドック』。そのタイトルに少年時代、胸をときめかせた人も多いのではないだろう か? そんな『メカドック』の最新作が約30年の時を経て復活! HondaのWebサイトと販売店で読むことができるようになった。作者である次原隆二先生と今回の企画の仕掛け人であるHonda広報の中村圭太郎氏に、作品の概要と執筆の経緯について聞いてきた。
マンガ『よろしくメカドック』とは!?
『よろしくメカドック』は1982年~1985年に週刊少年ジャンプ誌上で連載されたマンガ作品で、 1984年~1985年にはテレビアニメ化もされているので、そちらが印象に残っている人も多いかもしれない。チューニングショップ「メカドック」(Mechanical Doctorの略)のメカニック・風見潤がショップのお客さんのクルマをチューニングしたり、自ら手掛けたクルマでレースに参戦したりする模様を描いた作品で、自動車のチューニングを扱った作品の草分けと言える。
欧米産のスーパーカーが登場するのではなく、日常的に見かける国産市販車をベースにチューニ ングしたクルマがレースを闘うという展開に胸を熱くした当時の少年世代は多いことだろう。また、 要所要所にチューニングの手法や自動車のメカニズムを解説したページが入ることも特徴で、この作品で自動車のメカに興味を持ったという人も少なくないはずだ。
メーカー純正チューンの『モデューロX』がきっかけ
その作品が21世紀に蘇ったきっかけは、ホンダが新たに発売する「ステップワゴン」の「モデューロX」というバージョンの存在。通常のステップワゴンをベースに、足回りの変更やエアロパーツの装着など、いわば”メーカー純正チューニング”を施したモデルだ。
「『メカドック』の素材にしていただくには格好のモデルだと思い、次原先生に読み切りという形でマンガを描いていただくことを企画しました」と語るのはHonda広報部の中村圭太郎氏。今回の企画を仕掛けた人物だ。
「実は次原先生には昨年『ステップワゴン』がモデルチェンジした際に一度ご取材いただいているので面識もあるし、このクルマの基本的な部分も理解いただいている。何より、私が『メカドック』 の大ファンだったことから、一読者として新作を読みたいという思いがありました。この作品に出会っていなければ、今この仕事はしていなかったと思いますので」(中村氏)
自らネームを描き、社内を動かす
早速、次原先生にコンタクトを取り、作品執筆のOKを得た中村氏だが、社内の調整には苦労したという。「そもそもクルマの訴求ツールとしてマンガを描いてもらうということが当社としては珍しい試みでしたので、どういう形になるのかイメージできない者が多かった。また、せっかく描いていただくなら露骨な販促マンガのような内容にはしたくなかった。それでは読者としての私が納得できませんし、往年のメカドックファンの方々もシラケてしまうと思いますので」そこで、仕事の合間にこっそり食堂で自らネーム(マンガの構成を決める下書きのようなもの)を描くことにする。どういう内容の作品になるのかが見えれば、社内も説得しやすくなるし、執筆を依頼する際にもイメージが伝わりやすいと考えたからだ。
自筆のネームができたことで、社内の説得も一気に進んだという。当初、メディアPR用という位置付けで企画していたというが、現場の営業マンこそお客様へのアプローチに有効と考え、営業サイドに提案したところ「ぜひとも販売現場にほしい」との声が挙がり、全国のホンダカーズ販売店でも冊子として配布することが決定した。
久しぶりに徹夜して描き上げた
そして、このネームを直接次原先生のもとに持参したところ、締め切りが厳しくなるのを承知のうえで、全編フルカラーでの描き下ろしを快諾してもらえたという。
「この作品で何を伝えたいのか? ということが明確になっていましたし、何よりも中村さんの熱い思いが伝わってきた。かつて自分の作品を読んでくれていた読者からの依頼ということであれば、 力にならないわけにいきません」と語るのは作者の次原隆二先生
自身も自動車整備士の免許を持ち、『ROAD RUNNER』 や『レストアガレージ251車屋夢次郎』などクルマ関連の作品が多い。現在は『月刊コミックゼノン』を出版するコアミックス、そして関連会社のノース・スターズ・ピクチャーズの役員を務める。
現在は2つの会社の役員を務め、後進の指導にも当たっている次原先生。だが、連載を持っているわけではないため、アシスタントもおらず、1人でカラー作品を1本仕上げるのには骨を折る部分も 多かったという。
「久しぶりに徹夜での作業もしました(笑)。ただ、今はPCのソフトを使って色を塗ったりする作業が格段に楽になっています。別の仕事でPCを使った作画に慣れていたことが救いでした。そうでなければ、この仕事は請けていなかったと思います」(次原先生)
『よろしくメカドック』以外にも『ROAD RUNNER』『特別交通機動隊 SUPER PATROL』、『レストア ガレージ251車屋夢次郎』など、クルマやバイクを取り上げた作品の多い次原先生だが、今の時代にチューニングを扱ったマンガを描くことは難しいと考えていたという。
「『メカドック』を描いていた頃と違って、今のクルマは製品として完成されていてチューニングの手を入れる余地が少ない。そんなことしなくても十分に高性能ですから。何よりもコンピューター制御など手を加えづらい領域が多いので、実際にリアルなチューニングマンガを描こうとしたら、 風見はずっとPCに向き合っていることになってしまいます(笑)。それではマンガとしては成立しづらいですよね。でも、今回のテーマである『モデューロX』は足廻りやエアロなどメカニカルな部分にも手が入っている。これならメカドックの3人も平等に腕を振るうことができるので、メカドックの新作として読める構成になるなと感じました」
気になる作品の内容は!?
それでは、時を経て蘇った新作の内容はどんなものなのだろうか?
「これまでは『シビック Type-R』など走りを重視したクルマに乗ってきた主人公が、子どもが大きくなってきたことをきっかけに奥さんの要望もあってミニバンに乗り換える。でも、ただのミニバ ンでは満足できないので、そのクルマをメカドックに持ち込んでチューニングしてもらうというのがざっくりとしたストーリーです」(次原先生) 「全国のクルマ好きなお父さんのいる家庭で、よくある話だと思います。実は我が家も同じ状況な のですが、『よろしくメカドック』を読んで育った世代は、ちょうど今そんな状況になっている人が多いのではないかと思います。そういう意味で、共感して読んでもらえるのではないかと期待しています」
インタビュー当日は、ちょうどカラーの印刷見本が刷り上がってきたタイミングだったため、作品を読むことができたが、まさに同じメカドック世代の筆者としては共感できるストーリーで、内容もメカドックの世界観が再現されていて販促マンガっぽさもなく、メカドックの新作として興奮しながらページをめくった。
作中に『モデューロX』の文言は一度も出てこないため、PRとしてこれで良いのか? と思ってしまうくらい。
「今回の作品では、フィクションという自由度のもと、あくまでも『ステップワゴン』をメカドックでチューニングしたら……という視点で描いていただきました。ですから、登場するのはあくまでもメカドックでチューンした『ステップワゴン』。もちろんチューンの内容は『モデューロX』の仕様に準じていますので、同じものを欲しいと思っていただけたら『モデューロX』をご検討いただければ幸いです」(中村氏) 「元々、メカドックに登場するクルマは、レース用では過激なチューニングもしていましたが、登場人物が乗るものは単に速くするだけでなく、外装なども含めて乗り手に合わせたバランスを重視した仕様にしていたつもりです。そういう意味では今回の『ステップワゴン』の『モデューロX』仕様は、まさにメカドック的な内容。だからこそ、無理なくストーリーに組み込むことができました」 (次原先生)
内容だけでなくサイズにもこだわりが
全国のホンダカーズ販売店で配布されるコミック冊子のサイズは通常のカタログなどとは異なり、一般的な少年マンガの単行本と同じサイズ。フルカラーの作品だけに、カタログのように大きく印刷することも検討されたというが、最終的には中村氏の強い意向でこのサイズに決まったという。「かつての『よろしくメカドック』読者で今も単行本を持っているというファンの方々に、本棚に揃えて並べてもらいたい。その思いから、当時の『メカドック』の単行本と同じサイズにしてもらいました。もちろん、PRの観点だけならクルマが大きく印刷されているほうが良いのだと思いますが、あくまでも『メカドック』の新作を往年のファンの方々にも楽しんでもらいたいので、読者の視点を大切にしました」(中村氏)
また、このサイズであれば通常のカタログと異なり販売店を訪れたお父さんだけでなく、奥さんや子どもにも気軽に読んでもらえるという思いも込められている。
『ステップワゴン モデューロX』のPRマンガとして日の目を見た『よろしくメカドック』の新作だが、そこには作り手側の”読者としての視点”が貫かれている。「かつての読者だった方も、そうでない方も1人でも多くの人に読んでもらいたい」と中村氏は言う。作品はHondaのWebページで読めるほか、全国のホンダカーズ販売店でもコミック冊子(部数限定)として手に入るので、興味を持った方はお店に足を運んでみてほしい。
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