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マイクロサービス、フリーミアム、API公開――InIn 日本支社長にその特徴と市場戦略を聞く

クラウドネイティブなUC/CC製品「PureCloud」を展開するInIn

2016年06月21日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 コンタクトセンター向けソフトウェアベンダーのインタラクティブ・インテリジェンス(InIn)が今年3月、新たなクラウドプラットフォーム「PureCloud」を国内で提供開始した。AWSのマイクロサービスアーキテクチャを採用して開発しており、急速な機能拡張が進んでいるという。同社日本支社長のポール・伊藤・リッチー氏に、この“クラウドネイティブな”コンタクトセンター(CC)/ユニファイドコミュニケーション(UC)サービスの狙いを聞いた。

インタラクティブ・インテリジェンス 日本支社長のポール・伊藤・リッチー氏

アーキテクチャもビジネスモデルも“クラウドネイティブ”なPureCloud

 インタラクティブ・インテリジェンスの製品ポートフォリオは、オンプレミス型のコンタクトセンター向けソフトウェア「Customer Interaction Center(CIC)」、CICをクラウド/従量課金型で提供する「Communication as a Service(CaaS)」、そして新たに開発されたクラウド型のCC/UCサービスであるPureCloud、という3本柱で構成される。

20年近い実績のあるCIC、そのCICをクラウド型で提供するCaaS、そしてまったく新規に開発されたPureCloudの3本柱

 CICはすでに20年近い実績を持ち、提供する機能も豊富で、世界6000社/組織以上の顧客に採用されている。現在でも同社の主力製品であり、リッチー氏によると「昨年の売上の99%はCIC(とCaaS)によるもの」だった。そのCICに対する開発投資も継続しつつ、同社では新たなクラウドサービスとして、2015年にPureCloudをリリースした。

 「近年、クラウドベースのソリューションを求める顧客が増えた。当社としても、こうしたクラウドの流れにどう対応し、将来をどう作っていくかという観点からPureCloudが生まれた」(リッチー氏)

 正確に言えば、PureCloudはAWSベースで提供される「クラウドサービスのためのプラットフォーム」であり、現在はこのプラットフォーム上で3種類のアプリケーションを提供している。ビデオ会議やチャット、ファイル共有など企業内コラボレーション機能を提供する「Collaborate」、IP-PBXや電話会議などのテレフォニー機能を提供する「Communicate」、そしてコンタクトセンター機能を提供する「Engage」の3つだ。

PureCloudプラットフォームで3種類のアプリケーション(サービス)を提供している

 コンタクトセンター領域だけでなく、バックオフィスのUC領域も単一プラットフォームでカバーするPureCloudでは、従来のCICとは異なり、AWSのマイクロサービスアーキテクチャを採用した“クラウドネイティブな形”で設計、開発されているのが特徴だとリッチー氏は語る。

 「マイクロサービスアーキテクチャ採用のメリットは、開発スピードがとても速いこと。PureCloudはまだリリースから1年ほどしか経っていないが、現在は2週間サイクルで次々に機能が追加されている。今後の新機能追加ロードマップも、非常に詰まったスケジュールになっている」(リッチー氏)

 一方で、競合他社はまだ従来のソフトウェアをそのままクラウドに載せる形で展開している。リッチー氏は、「現在のところ他社は(マイクロサービスアーキテクチャ化を)真似できないと考えている」と話す。

さまざまなコンタクトセンター機能を提供するPureCloud Engage。現在はEngageのさらなる機能追加に注力しているという

 また、一部サービスを無償提供する“フリーミアム戦略”を取り入れている点も、クラウドネイティブな時代の考え方と言えるだろう。具体的には、コラボレーション機能を提供するPureCloud Collaborateサービスは、ユーザー数無制限で無償提供している。

 「既存のCIC顧客、それに新規顧客とも、まずは機能を試してみたいと(Collaborateを)活用いただいている。もちろんわれわれとしては、そこから営業のアプローチを展開して、有償サービスの検討に結びつけたいと考えているわけだが」(リッチー氏)

 さらに、API公開やブリッジ(コネクタ)の提供を通じて、サードパーティのクラウドサービスや顧客が独自開発するアプリケーションとの連携も進めている点も、クラウドネイティブなあり方だ。すでに「Salesforce CRM」や「Microsoft Dynamics」「Zendesk」といったクラウドサービスとの連携パッケージを提供しており、今後もさらに拡充していくという。また、APIの仕様はWebサイトで公開している。

 「すべてPureCloudでカバーするという考え方もあるが、すでに使っている他社ソリューションと連携させたいというニーズも多い。PureCloudでは、自社サービスだけで“閉じた”ものにするのではなく、オープンな考え方でやっていく。それにより、PureCloudを企業の通信プラットフォームの中心に位置づけていけたらと考えている」(リッチー氏)

PureCloudは、サードパーティのクラウドサービスや顧客独自開発のアプリケーションとも連携可能なオープンさを持つ

採用ペースの速いPureCloud、パートナーも強化して「InInの第3の柱」に

 3月下旬に日本市場でローンチした後、5月中旬までの間に、すでに5社での採用が決まったとリッチー氏は明かした。コールセンター事業者だけでなく、製造業の顧客もいるという。

 「採用のペースは速い。中には水曜日にPureCloudをお見せして、金曜日にはもう契約をいただいたケースもあった。クラウドサービスなので、PureCloudのサービスそのものは数時間で立ち上がり、回線などの手配を含めても契約から数週間レベルで利用開始できる」(リッチー氏)

 前述したとおり、現在でも同社ビジネスの中心はCICやCaaSであり、日本支社でも「8割くらいの提案がCIC」だとリッチー氏は述べる。ただ、新しい選択肢としてPureCloudも積極的に提案していく方針だ。

 PureCloudの顧客ターゲットとして、リッチー氏は、業種を問わず「前に進もうとしている会社」だと表現した。

 「最新技術を使って業務を効率化したいとか、顧客対応チャネルをモバイルやビデオにも広げたいとか、そうして『前に進もうとしている企業』に、PureCloudは評価していただいている」(リッチー氏)

 またSIパートナーについても、CICだけでなくPureCloudを顧客に提案でき、さらにAPIを活用して連携機能を個別開発することで、パートナー独自の付加価値を提供できるメリットを強調する。パートナーへのPureCloudに関する情報提供にも注力している。

 「今後はさらに、通信キャリア系のパートナーとの連携も考えていく。SIP回線も含め、オールインワンで提供できるようにしたい」(リッチー氏)

 今後、PureCloudでは、特にコンタクトセンター機能を提供するEngageを中心として機能拡充を進めていくという。顧客から新機能の要望を受け付ける“投票ページ”のようなものも提供しており、短い新機能リリースのサイクルの中で顧客の声に応えていきたいとした。

 なお、インタラクティブ・インテリジェンスでは、5月にAWSの「アドバンスドテクノロジーパートナー」となった。夏から秋にかけて全国主要都市で開催される「AWS Cloud Roadshow 2016」に参加し、プロモーションを展開していくと述べている。

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