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『モバ・テク』 魅惑のモバイル・テクノロジー 第2回

LTEのキャリアアグリゲーションをバンドの組み合わせで見る

2016年05月25日 10時00分更新

文● 塩田紳二 編集● ASCII.jp

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 前回2GからLTEまでのバンドについて解説したが、今回は、LTEのキャリア・アグリゲーション(Carrier Aggregation、以下CAと略)で利用するバンドの組み合わせについて解説する。

複数の周波数の組み合わせで高速化する
キャリアアグリゲーション

 CAとは複数のチャンネル(周波数)を使って転送速度を上げる仕組みだ。一般に無線通信では、利用できる周波数帯域が大きいほどより多くの情報を伝達できる。しかし、1つのチャンネルの帯域を広くするためには、従来のLTEの通信とはぶつからない新たなチャンネルを確保する必要がある(あるいは割り当て直すか)。

 従来幅のチャンネルにしか対応できない機器がある場合、帯域の違うチャンネル同士は重なりあって定義することはできない。このため、帯域の広いチャンネルを使うには、既存のチャンネルが存在しない周波数で行なうしかない。しかし、多くの国や地域ではすでに多くのバンドがLTE用に割り当てられてあり、新規の割り当てが困難な場合も少なくない。

 そのために考えられたのが、既存のチャンネル割り当てを複数使って、通信帯域を見かけ上広くする方法だ。FDD方式のLTEでは、上りと下りにそれぞれ1つのチャンネルが使われており、前回説明したようにバンドは、上り、下りで周波数がわかれている。上りまたは、下り(あるいは両方)で利用するチャンネルを2つ以上とするのがCAだ。

 このため、CAは、すでに定義されているバンドを使うことになる。また、このバンドの使い方によって大きく3つの方式がある。

・同一バンド内の連続するチャンネルを使う(Intra-Band、Contiguas Channel)
・同一バンド内の非連続のチャンネルを使う(Intra-Band、Non-Contiguas Channel)
・違うバンドを使う(かならず非連続チャンネルとなる。Inter-Band)

 また、これとは別に上りと下りに割り当てるチャンネル数を「2DL/2UL」のように表記する。DLはDown Linkでいわゆる「下り」(基地局から端末へ向かう)、ULはUp Linkで「上り」となる。それぞれの前に付く数字がCAで使うチャンネル数となる。たとえば、2DLは、下りに2チャンネルを使うことを意味する。

 すでに個々のチャンネルとして定義されたLTEがあり、まだ、CAに対応していない端末もある。こうした端末に影響を与えないようにCAは定義されている。このため、上り下りのチャンネル数はそれぞれを個別に定義する必要がある。なので、2DLと3DLでは別々の規格書が作られ、それぞれを定義することになる。

各国の周波数事情に合わせて
組み合わせが増え続けているキャリアアグリゲーション

 前回見たようにLTEのバンドは、現在では40を越えている。この中から複数のチャンネルを組み合わせる場合に、組み合わせを限定しないと、端末を作るのが難しくなる。なので、3GPPでは、チャンネル数やバンドなどを考慮し、それぞれのやり方ごとに規格書を作りその中で対応するバンドを定義している。

 なお、このCAのバンドの組み合わせは、原則、各国の事業者やメーカーなどから行なわれるため、組み合わせはかなり多くなる。特に、日本やアメリカ、EU圏では、毎年のように新しい組み合わせが申請されていて、規格書を見ると、ここ3年ほどCAの組み合わせバンドが増え続けている。

 携帯電話の通信には、複数のバンドを使うDC-HSPA(MC-HSPA)など、3G方式の高速化技術であるHSPAを複数バンドを使って高速化する手法もあるのだが、今回は話をLTEに限定する。というのは、これだけですでに大量のドキュメントがあるからだ(3Gのマルチチャンネル通信については別途解説する予定)。

 3GPPのLTE関連のドキュメントは、36シリーズと呼ばれ、ここにLTEの各種ドキュメントが登録されている。原稿執筆時点でドキュメントは全部で236本あり、うちCAやCarrier Aggregationがタイトルに含まれるものだけでも52本ある。ただし、すでに廃止(WITHDRAWNと表記される)とされているドキュメントもここに残っていて、52本のうち12本が廃止されたドキュメントになる。つまり、40本のドキュメントがあるわけだ。

 また、3GPPのドキュメントには、リリース時期があり、同一の番号を持つ同一タイトルの文書が更新されて複数存在する。俗に「リリース12」などと番号で区別されるが、文書によっては、過去のリリースでも意味を持つものがある。これは、ページ数が多くなってしまうため、更新部分を中心に記述したためだ。通常は、ここにある各文書のページに過去のリリースの文書があるのだが、一部、このページにリリース11、12、13(13が最新版)の文書が表示されているものがある。

 とりあえず、CA関連だけを抜き出したのが下の表だ。

 CA関連するものは、これ以外のドキュメントにもあるのだが、直接関係しているのがこれらになる。さて、これらの文書から現在定義されているCAには、

・2DL/2UL
・2DL/1UL
・3DL/1UL
・3DL/2UL
・4DL/1UL
・5DL/1UL

がある。各種の文書から対応している周波数の組み合わせを抜き出して作ったのが下の表だ(ドキュメントで周波数が特定されていないCAの定義もある)。

 この表は、各種の文書で定義されているバンドの組み合わせのうち最初のバンドを横軸に、2つ目のバンドを縦にとったものだ。この表で○は、2DLのみで使われる組み合わせ、◎は3DL以上の組み合わせ(3チャンネル目以降は示していない)に含まれる最初の2つのチャンネルの組み合わせだ。なお、縦横が一致しているところ(表の対角線部分)は、Intra-Bandが定義されているチャンネルだ。

 なお、LTEには、上り下りに別々の周波数を使うFDD方式と単一の周波数で上りと下りを時間で分けるTDD方式がある。前回示したようにTDDの場合のバンド番号は33以上になる。TDDに対してもCAは定義されており、さらに、TDDとFDDを組み合わせるCAも検討されている。

 現時点では、この○を付けたバンドの組み合わせ以外は、CAに使われないため、国内でのCAでもバンドの組み合わせはこの表のどれかになる。逆にいうと、この表にない組み合わせは、現時点ではCAとして利用できない組み合わせになる。もちろん、将来的に組み合わせが標準化される可能性もあるため、将来にわたって利用不可能なわけではないが、直近には採用されることがない。

 また、複数チャンネルを使う場合、最初に接続するチャンネルをプライマリーチャンネル、追加で利用するチャンネルをセカンダリーチャンネルという。この2つは、動作が違っており、プライマリーチャンネル側で制御を行ない、セカンダリーチャンネル側では、制御は行なわない。

 CAといっても、端末が常に複数のバンドを使うわけではなく、通信量に応じて、セカンダリーチャンネルを使う。また、通信していない場合には、セカンダリーチャンネルを非アクティブ化することも行われている。

 たとえば、NTTドコモは、バンド1、3、19、21、28(周波数は前回を参照)をLTEで使っているが、バンド3(1.7GHz帯)と21(1.5GHz帯)の組み合わせは今のところ定義されていないため、この2つを組み合わせるCAは行なわれていないことがわかる。実際には、2DLとしては、Band1/Band3、Band1/Band21の組み合わせをドコモは利用しており、3DLとしてBand1/21/19の組み合わせなどを使っている。バンド3と21は、周波数が近く干渉しやすいため、1つの端末が同時に扱うCAとしてはあまりいい組み合わせにならないからだ。

 さて、次回は、CAについて各ドキュメントを細かく見ていくことにする。

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