まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第53回
平澤直Pに聞く『ブブキ・ブランキ』とサンジゲンの新たなチャレンジ
甲子園を日本最大の興行たらしめる「物語のルール」をアニメに取り入れる!
2016年03月20日 17時00分更新
手描き不可能なロボットが、CGでは鬼門の肉弾戦を演じる
未知の映像フェチシズムを感じてほしい
―― 『ブブキ・ブランキ』はクリエイティブの見所もたくさんある作品です。
平澤 そうですね。深夜アニメにおける画面の情報量は1つ上のステージに上がったと思います。たとえば背景やオブジェクトの色数やグラデーション、細部への書き込み、それらが動く量。第2話のロボット戦のテレビシリーズでは相当に難しいレベルのものです。
CGのロボット格闘はどうしても“軽く”見えがちなんですが、重量感を出すことに拘っています。直線ではなく三次曲線を多用したデザインも、それに貢献していると思います。
―― 誤解もありますが、3Dだから戦闘シーンも簡単、という訳ではないですね。
平澤 ロボット同士がぶつかったときに、質量を感じてもらうのは難しいのです。だから、CGだと空を飛ばしたくなるんですよね。手描きで動かすのが難しい曲線を多用したロボットが、CGが鬼門とする地上での肉弾戦を展開する……これまで久しく見なかった映像のフェチシズムを感じてもらえるといいなと思います。
“神は細部に宿る”秘訣は職人技ではなく、ワークフローだ
―― 機動戦士ガンダム サンダーボルトがそうであるように、手描きでの濃密さや重量感の演出への回帰とも言える動きがあるなか、3DCGでそこに挑戦しているわけですね。
平澤 たとえば質量の大きな王舞が地面を歩くと、衝撃が足から順番に腰、肩、頭と伝わっていくのですが、巨大さ故にそれは遅れて伝わっていく。CGでそれが再現されるように丁寧に作り込んでいます。
―― 別の取材で松浦氏にもサンジゲンでの制作工程を解説してもらったことがありますが、すべてを3DCGで完結させるのではなく、Aftereffectsで仕上げることで効率化を図りつつ、表現を高めていくというのも特徴ですね。
平澤 アニメにおいて、顔にどのように影を付けるのか? というのはキャラクターの心理描写においてとても重要な要素です。3Dだからといって、単純にライトを当てるだけでは、そこに至ることはできないと思います。
―― まさに、先ほどの“読み解けるか”という話にも通じますね。そういった表現からキャラクターの心理を汲み取れるかどうか? ある意味、見る側の力も問われるようにも思えます。
平澤 ゲームのイベントムービーとアニメとの大きな違いでもありますね。リアルタイムレンダリングなどの描画技術はいま非常に高いところに来ているのですが、どう影を“付ける”のか――ここは反対側の目が見えるべきだとなれば顔のパーツだって動かします――という面は意外と無頓着であったりします。僕らは“アニメ”で1つ1つカットを作り込むことでその違いを生みだしていけるように、クリエイター一人一人の絵心、演出力を高めているところでもあります。
―― アルペジオのときも話数が進むにつれ、クリエイターがキャラクターへの演技のつけかたを理解して、どんどん納品が早くなっていったという驚くようなお話がありましたね。
平澤 今回もそうなると良いのですが(笑) CGの場合はライブラリーの活用やチェック・変換などの“ワークフロー”に神が宿るという側面があります。
松浦がどこかで「宮大工もそうだ」と聞いて、「なるほど!」と膝を打ったそうなのですが、ワークフロー次第でクオリティーが断然違ってくる。個々の能力をワークフローによって上手く分散・統合することで、“神は細部に宿る”状態にまで高められるわけです。
“キャラクターが可愛い”というのも、かなりの部分でモデリングの善し悪しが勝敗を分けます。モデルの出来・不出来が、最後の加工段階で“キャラクターを似せるための作業量”として跳ね返ってくるんです。
これまでの手描きアニメ制作では、何十人といるアニメーター全員が、キャラデザに似せて描けて、その上で良いレイアウト、カッコイイ構図も切れなければならない。さらに、カッコイイ動きも表現できないといけない。つまり3つの技能を一人の人間に要求するのが従来のアニメの作り方です。
CGにおいてはこれを――すべてではありませんが――分散させることに成功しました。CGは3つの技能をそれぞれ得意な人間に分散させて作れるのです。
―― いわゆる第二原画よりも、もっとシステマチックなイメージですね。
平澤 まあ、あまり私たちがドヤ顔しても良くないので、ぜひ皆さんの目で『これってもしかして凄くない?』というポイントを見つけ出して欲しいですね。
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