クラウドファンディングMakuakeの矢内さんから電話が来た。「例のやつ届きましたよ!」矢内さんはとても興奮していた。「まだ試作品ですが、カチッとやってクッとやると大丈夫ですから!」よくわからない。
その後、電話のことを忘れて普段どおり仕事をしていたところ、わたし宛にバイク便が届いた。小さな包みを開けてみると、そこには世界最小級の折りたたみイス「SitPack」のプロトタイプが入っていた。
デンマーク製のステッキ型折りたたみイスだ。クラウドファンディングで出資者を募っており、5000円の出資で入手できる。受付は26日まで。
収納時は500ml缶くらいの大きさ。スコンスコンと伸ばしていくと、座面がついた一脚のようになる。バッグに入れておけば、行列で並ぶことになったときもスコンスコンで休憩できて便利なのだというふれこみだった。
重量は約500グラム。イスを入れておくカバーがそのままクッション座面になるのはかしこいアイデアだと思う。
さっそく使ってみることにする。足をスコンスコンと伸ばしていき、接合部をクッと回し、カチッと鳴ったら固定される。矢内さんが言っていたのはこのことか。さっそく座ってみる。お、意外と頑丈な感じで──
が、どうもおかしい。なんか怖い。バランスがとりづらい。足が疲れる。内腿が張る。ぷるぷるしてきた。そういうトレーニング器具かこれは。
いやおかしい。そんなはずはない。
あらためて姿勢を見なおすと、足とイスが三角形になり、三脚のようになってしまっていた。これではイスとおなじだけの負荷が足にかかってしまうことになる。高さをスコンと調整し、まっすぐにイスを立ててみることにした。
すると今度は疲れない。ちょっと不安なのは変わらないが、ラクだ。コツがあるのだ。パッケージ写真はずいぶん高いところで座っているが、欧米人基準ということだろう。普通に座っているイスくらいの高さにすると落ち着いた。
いきなり女子編集者ナベコさんがイスの足を「えいっ」と蹴りに来たが、びくともしなかった。「おかしい」とナベコさんは言っていた。なんだこの人。怖い。
便利なことはわかった。塩化ビニールのパイプを組み合わせたような素材感は少し気になるが、まあ別にいい。
これが本物の行列で使えるかどうかをたしかめるため、行列ができることで有名なラーメン屋さんに持っていってみた。
バックパックからSitPackを出し、シャキコンシャキコンはじめると、前に並んでいたカップルがぎょっとしていた。意外と音がでかい。
ついあわててしまい、座った瞬間バランスをくずしてずでーんとこけた。カップルドン引きだ。手をさしのべてくれる男子がやさしい。
「あっあっ大丈夫です」と言いながら起きあがる。「あっでも便利そうですね」とか言ってくれる男子。やさしい。ほれそうだ。
バランスがいい位置に体を持っていき、やっと一息。ところがすぐに列が動き、よっこらしょで前進して、またバランスとりなおし。そういう芸人みたいになってきた。これ、わたしが運動神経ないからなのだろうか。
ふたたび編集部に戻り、まわりの男の子にもためしてもらった。
「これコツがいりますね」と小嶋くん。やっぱりそうか。
一方、「あっ全然いけますよ」というのは八尋くんだ。「あ~ラクですわァ」「リラックスできますわァ~」。すごい。本当かな。顔をのぞきこんでみた。
リラックスできたみたいです。