100万人への検索をわずか10秒で完了する高速な顔照合
もう1つの時空間データ横断プロファイリングは、安全・安心なスマートシティでの犯罪者の検知に利用できるAI技術。NECでは顔認証の技術を元に、犯罪者の入国防止や盗難車の捜索、2人乗り検知、異常混雑の検知などで実績を持っている。街中監視においては、従来は静止画での顔認証を用いて、ブラックリストに登録された容疑者を発見するのがメインだったが、時空間データ横断プロファイリングでは、怪しい行動をする未登録の不審者を動画から発見できるという。
具体的には複数の場所で撮影された映像データから特定の不審行動にあった人物を高速に抽出する。複数のシーンに現れた人物が同一かを調べるには膨大な数の顔照合が必要だったが、時空間データ横断プロファイリングでは映像データを顔の類似度でグループ化し、ツリー構造で管理することで、人物を高速に分類できる。NECの検証では、100万人に対する検索をわずか10秒で完了できるため、同じ場所に頻繁に出現する人物や連続放火事件のように複数の場所で現れた人物をすばやく発見することが可能になるという。
人とAIの協調で社会課題を解決へ
将来的な方向性として、NECはAIで知識より上位の「知性」を提供し、人間の判断に示唆を与えるようにしていきたいという。これはAIの自動化のみでは解くことが難しい問題が社会課題では多いためだという。
単なる情報や知識のみにとどまらず、知性の提供により、人とAIの協調を進めるのが、NECの方向性だ。従来のようにゴールの定まった問題に対して、圧倒的な効率化をもたらすだけではなく、1つのゴールが定まらない経営判断や対人ケア、新製品の開発などの分野にまで技術を革新していく。これにより、解決までの時間を短縮にしたり、失敗リスクの低減が可能になるという。たとえば、膨大な顧客の声を分析して新製品自体を開発したり、仮説からその受容体をリアルタイムに探索し、経験を持った人との合意を形成することが可能になるという。
また、AIを支えるコンピューティング基盤の強化もあわせて進める。現状、機械学習はクラウド上で提供されることが多いが、実世界の変化にリアルタイムに対応するには、エッジコンピューティングでの処理やデバイス内部でのインテリジェンスも必要になる。これに向けて、正確な答えを出すための「ハードコンピューティング」の強化はもちろん、1つだけではない課題に柔軟に対応できる「ソフトコンピューティング」、さらには桁違いの電力効率を持つ人間の脳に近いコンピューターを目指していく。これに向け、AI関連の人員を1000名規模に増員し、2020年に売上累計2500億円を目指すという。