2020年の東京オリンピックにあわせて自動運転を実用化する、といった発言が日本の総理大臣から発せられ、ドイツではダイムラーが、日本ではトヨタが、それぞれ自動車専用道路における限定的な自動運転のデモンストレーションを行なった2015年10月。
さらに、先進的な電気自動車で知られるアメリカ・テスラ社は、自動運転機能を市販車に搭載してきたことでも話題を集めている。
いよいよ自動運転の量産化が、一端とはいえ見えてきたタイミング。あらためて、自動運転とはなんぞや、ということを整理してみたい。
自動運転には5段階のレベルが定義されている
各社のデモンストレーションを見ても、レース場のようなクローズド状態において、地図上に引いたルートをなぞるだけの自動運転もあれば、周囲の状況をセンシングして、機械が安全を確認しながら法規に則った自律走行を行なうといったものまで、システムとしてのレベルの違いもあるが、ここで話題にしたいレベルは別の話。
自動運転の目指すレベルについて、自動車技術の基準を策定しているSAEインターナショナルは5段階で定義している。
SAEによる自動運転レベル
現時点で開発を目指しているレベルとは
すべて人間が操作する状態は当然ながらレベル0(ゼロ)で、そこから徐々にレベルアップしていく。そして完全に機械がクルマを走らせる自動運転がレベル5となっている。自動運転のニュースを耳にすると、ついついレベル5のような無人で走る完全自動運転を期待したくなるが、現実はそう甘くはない。
現段階で各メーカーが目指しているのは、限定された状況(主に高速道路)で、ドライバーがスイッチを入れたときだけ自動運転を行ない、またシステムの限界を判断してオフにするところまで管理するというレベル2で、その実現目標が2020年なのである。
もっともレベル2の中でも松竹梅はある。
たとえば前走車に追従しながら、道路上のセンターラインを利用してハンドル操作を行なうというシステムは、レベル2に区分されるが、すでに市販車にも搭載されている技術で実現可能だ。
しかし、トヨタがデモンストレーションしたような、料金所から高速道路本線への合流や追い越しなどウインカーを出すような車線変更までもカバーするレベル2の自動運転は、まだまだ実用化には年単位の時間がかかるというのが実情だ。
その違いはAI(人工知能)の有無。ある程度のパターンで走るのと異なり、周囲の状況から安全で最適な走り方を判断するには、情報の取り入れ方(センサーの種類や精度)も含めて、現在の市販車よりも高い機能が求められるのだ。
レベル2の自動運転は現在の法規で問題ない
また、SAEの自動運転レベル定義において、注目したいポイントは、バックアップの項目だ。システムがカバーする範囲を超えた段階で人間がバックアップするということは、当然ながらドライバーは運転スキルを有している必要がある。
すなわち、自動運転レベル3までは運転免許が必要であり、またドライバーが最終責任を負うカタチになっているので、現在の法規制の中で十分にカバーできそうだ。
実際、トヨタの自動運転デモンストレーションも、法律的には特別な許可はいらないのだ。「運転手がハンドルやアクセルを操作していない状態は道交法に違反する」という解釈もあるようだが、その解釈ではクルマが指定した速度を維持するクルーズコントロールも違法になってしまう。直接的に操作していることよりも、常にドライバーが監視して、即座に対応できる状態にあれば問題ないというのが、一般的な解釈といえるだろう。
ちなみに、レベル1というのは加速や操舵など、一部分を機械が担うというもので、何十年も前から実用化されてきたクルーズコントロールは自動運転の入口なのだ。
SAEのレベル区分でもわかるように、操作は機械が行なうが、それが正しく行なわれているかをモニタリングするのは人間というのがレベル2。レベル3ではモニタリングまで機械で行なうとされているので、自動運転中にドライバーは本を読んだり、ネットを楽しんだり、スマホやタブレットなどの端末を操作することが可能となるが、機械が操作をバックアップ(人間)に移譲すると宣言したときにすぐさま対応しなくてはいけないので、居眠りはもってのほかだ。
ドライバーが眠っていても目的地につけるレベル4、ドライバー不要のレベル5の実現は、まだまだ先の話。
とはいえ、クルーズコントロールから衝突被害軽減ブレーキ、追従型のアダプティブクルーズコントロールまでの進化にかかった時間が長かったことを考えれば、現在の自動運転へ向けた技術進化のスピードは驚くほど速い。先の話といっても、レベル5の自動運転は夢物語ではなく、実現へ向けて、着実に研究が進んでいるのである。
東京モーターショーで、各メーカーの発表に注目したい。