8月5日、ネットアップはオールフラッシュアレイと6月に発表された「NetApp AFF(ALL Flash FAS)」に関する勉強会を開催した。勉強会では、フラッシュのスペシャリストであるネットアップの岩本知博氏がフラッシュの落とし穴やAll Flash FASの真価について説明した。
SAS HDDモデルと同じ価格で投入されたAll Flash FAS
オールフラッシュアレイは、フラッシュの低価格化とともに導入の障壁が下がってきている状況。cMLCとSATA HDDで比べると、GB単価はまだ10倍の開きがあるが、最低廉なフラッシュとSAS HDDを比べると価格差は縮まっており、2017年にはGB単価が逆転すると見られている。とはいえ、2017年までは待ってられないため、SAS HDDと同じ価格で6月に投入したのが、All Flash FASになる。
All Flash FASは、ネットアップの主力製品であるFASをオールフラッシュ化した製品。オールフラッシュアレイとしてHDDを認識しない仕組みとなっており、市場調査的にもハイブリッドアレイとして扱われるFASとは異なるオールフラッシュアレイとしてリブブランディングを施している。
それ以外は既存のFASと同じ。コントローラーもHAペアのFAS8000シリーズ(AFF8020/8040/8060/8080EX)、SSDも400/800GB/1.6TBなどを利用できる(200GBは非対応)。ソフトウェアも共通のClustered Data ONTAPを採用しており、スナップショットやスケールアウト、マルチテナント、ミラーリング、マルチプロトコルなどFASのリッチな機能はすべて利用できる。「オールフラッシュの分野でSSDからHDDへのミラーリングができたり、NFSやCIFSに対応できる製品はAll Flash FASしかない」と岩本氏は語る。
オールフラッシュアレイの性能に関する落とし穴
clustered Data ONTAPという実績のあるOSを採用するAll Flash FASでは、従来のオールフラッシュでの課題をいくつも解消しているという。
たとえば、従来のフラッシュアレイは経過時間によって性能が劣化するという弱点を持つ。NANDフラッシュはHDDのように直接上書きができず、書き込み処理もページ単位。ページが未使用な場合は定期的に消去(Erase)の処理が必要だが、消去はページを集めたブロック単位という特徴を持つ。そのため、フラッシュは上書きが苦手で、書き込みデータをいったんメモリにキャッシュし、書き込み先をブロック単位で消去してから、キャッシュのデータを改めて書き込むという複雑な処理を行なう。これがWrite Amplificationで、基本的にかなり重い処理になる。
こうした事情もあるため、NANDフラッシュでは特定領域の書き込みを防ぎ、フラッシュの寿命を最大化するためにはウェアレベリングや、実効容量にカウントされないスペアブロックの確保によるWrite Amplificationの低減なども行なわれている。しかし、「オールフラッシュアレイは1秒間に10万回くらい書き込みできてしまうので、スペアブロックもあっという間に埋まってしまう」(岩本氏)とのことで、事実上どうやっても物理容量を超えてしまうという。
しかも、消去がブロック単位でしかできないため、スペアブロックを生み出すためのガベージコレクションを行なうには、使用中のページと無効ページをブロック単位に移動した上で、無効のブロックを削除するという動きになる。こちらも処理負荷が重く、書き込みが数時間におよぶと性能がどんどん“なまって”くることになる。
実際、ラボで実証したところ、他社製品はかなり性能が不安定になる傾向が見られたという。「ざっくり言うと、ソフトウェア側で処理をやっているところはかなり性能が劣化する。ガベージコレクションでついていけなくなり、がくんと性能が落ちる。時間軸という要素に対して、性能が安定しないというオールフラッシュの落とし穴はある」と岩本氏は指摘する。
岩本氏はそのほかにも「重複排除率や圧縮率によって性能が大きく異なる」「Write比率やI/Oサイズで性能がぶれる」「冗長性が確保されていない製品もある」といった現状のオールフラッシュアレイの問題点を指摘。「オールフラッシュはオーバーヘッドが隠ぺいされることも多い。ベンチマークのいい値ではなく、最低値でサイジングしないと、性能ミスが起こる」と説明した。
All Flash FASでアグレッシブな価格付けを実現した背景
これに対して、clustered Data ONTAPを採用するAll Flash FASの場合、オールフラッシュでも性能面での課題が解消されているという。clusterd Data ONTAP自体が上書きをしないアーキテクチャで開発されているため、フラッシュと相性がよい。ブロックサイズを変えても、安定した書き込みができるのが大きなメリットだ。
一方で、オールフラッシュアレイに比べて、価格が高いという弱点があった。「FAS8000という高性能のコントローラーにフラッシュを載せ、スナップショットなどのライセンスを加えていくと、正直お高くなっていた」(岩本氏)。これに関して、All Flash FASでは、定価自体をアグレッシブに下げ、SAS HDDモデルと同等の価格を実現した。「100TBのファイルサーバーであれば、さすがにSAS HDDの方が安いが、データベースで20TB、仮想化環境で40TBで使うのであれば、All Flash FASの方が安い」と岩本氏はアピールする。
これは競合に対する戦略的な判断もあるが、180PBというSSDの出荷実績も価格下落に大きく寄与しているという。「今までのOSを使えるし、コマンドもそのまま。パートナー様は運用の仕組みやビジネスのやり方もなにも変えず、低廉な価格でAll Flash FASを販売できます」(岩本氏)。
また、All Flash FASでは「Premium Bundle」としてソフトウェアがすべて含まれる。clusterd Data ONTAPはもちろん、SnapMirror、SnapRestore、FlexClone、SnapVault、SnapManager Suiteなどが含まれた状態で出荷される。さらにAll Flash FASに関しては、7年保守に対応し、安心して長期的に利用できるという。
clustered Data ONTAPに関しても、よりフラッシュに特化した機能が導入される。近々リリースされるclustered Data ONTAP 8.3.1では各レイヤーのバッファをバイパスし、読み込みを高速化する機能のほか、インライン圧縮でも遅延を下げる最適化が施される。「HDDではあまり意味がなかったが、SSDの世界になるとマイクロセカンド単位の遅延を下げる努力が響いてくる」とのことで、OSをバージョンアップするだけで、性能を10%向上できるという。