JAWS-UG鹿児島の新沼貴行さんは、Webの受託開発やサービスを手がけるモンスター・ラボでインフラ全般を担う。桜島を臨む仙巌園で、東京でのエンジニア経験、AWSとの出会い、そして鹿児島でのリモートワークに至るまでの経緯などを聞いた。
本連載は、日本のITを変えようとしているAWSのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」のメンバーやAWS関係者に、自身の経験やクラウドビジネスへの目覚めを聞き、新しいエンジニア像を描いていきます。連載内では、AWSの普及に尽力した個人に送られる「AWS SAMURAI」という認定制度にちなみ、基本侍の衣装に身を包み、取材に望んでもらっています。過去の記事目次はこちらになります。
岩手県から上京し、インフラに触れるまで
今でこそ鹿児島に腰を落ち着けている新沼さんだが、出身は岩手県の大船渡。「高校までは地元で、宮城県の情報処理専門学校を経て、その後上京。小さいソフトウェア会社に新卒で入社しました。学んだことを活かしたほうがいいなと思ったし、卒業生も多かったし」という経歴だ。そこではプロジェクト先に出向し、物流や金融などのシステム開発に携わった。おもにJavaのWebアプリケーションを開発しており、当時はインフラはまったく触っていなかったという。
その後、次のキャリア形成に悩んでいた新沼さんは、先輩が立ち上げた新しい会社にジョインする。そこで担当したのが大手通信事業者の物品管理のシステム。「PCにRFIDタグを貼って、決められた部屋から持ち出されないように管理する施策を手がけていた。そこで、2年近くサーバーの管理をやらせてもらった」(新沼さん)。
今までインフラに関わってなかった新沼さんだが、そこでサーバーの構築や運用のノウハウを学ぶことになる。「師匠筋に当たる人からいろいろ教えてもらう中で、サーバーやインフラが面白いなと感じられるようになった」と新沼さんは語る。一方で、さまざまな拠点に管理用のサーバーが分散していたため、それらの管理に苦労したのも事実。サーバールームに入るたびに入館申請したり、サーバーのランプをチェックすると行った作業に煩わしさを感じたという。このとき感じたインフラ構築・運用の苦労が、後のクラウドダイブへの大きな背景となってくる。
あの人との出会いが新沼さんの人生を変えた
新沼さんに転機が訪れたのは、結婚にともなう地方移転だ。前述した物品管理システムのプロジェクトが一段落した2010年、奥さんの実家である鹿児島に移住することに決めたのだ。「東京は趣味や仕事の点ではすごく充実しているんですけど、一生いないだろうなとは思った。2人とも地方出身だったので、鹿児島に戻りたいという妻の気持ちもわかった。僕も東京に来られたし、仕事が見つかれば、どこでもいいなと考えた」とのことで、鹿児島の地場SIerに就職した。こう書くといとも簡単に仕事が見つかったように見えるが、リーマンショック以降は人材募集も抑制。地方の転職ではどうしても収入が減ってしまうという実態もあり、苦労した地方移住だったという。
「味付けが甘いなあという感想でした(笑)」と、最初は驚きもあった鹿児島移住だったが、新沼さんは趣味でやっていたフットサルなどを通じて、地元のエンジニアと交流を深めることになる。その流れで行き着いたのが、AWSのユーザーグループであるJAWS-UG鹿児島だ。「知り合いだったユニマルの今熊がJAWS-UG鹿児島を立ち上げるということで、勉強会に来ませんか?というお誘いをくれた。なんだか面白そうだなと思って0回の勉強会に参加したんです」(新沼さん)。
そして、そこで出会ったのが、エバンジェリストとしてAWS普及のために全国行脚をしていたADSJの玉川憲さん。この出会いが、これまでクラウドに関わってこなかった新沼さんにとって大きなインパクトとなる。「サーバーが壊れたら、ビルに行って直したり、月一のメンテナンスのために電車で移動したり、面倒な書類作業が要らない。プログラムでサーバーをコントロールできるとか、本当に衝撃だったんです。こんなサービスが世の中にあるんだと感動した」と新沼さんは振り返る。もちろん、単にAWSのサービス自体のみならず、AWSの魅力を熱く語る玉川さんにも惹かれた。「AWSやりたいというきっかけを与えてくれた大きな人。今でも恩人だと思っている。あのとき素直にAWSすごいなと感じて、今までやって来てよかった」(新沼さん)。
鹿児島でAWSを使いたい!2年に渡った転職活動
地元のエンジニアや企業の人たちとの新しい出会いもあり、地場SIerでの仕事や鹿児島での生活は楽しいものだった。東京で感じた人のドライさとは異なり、なにしろみんな情に厚い。周りとなじみながら、どんどん自身が「鹿児島化」される体験を味わったという。
とはいえ、新沼さんが業務でクラウドを触る機会はなかった。会社というより、そもそも鹿児島の仕事ではインフラを構築・運用することが少なく、アプリケーション開発が業務の中心だった。そのため、新沼さんは無料枠を使い切り、足りない場合はお小遣いでAWSを試用し、勉強し続けた。「どんどん知識は溜まっていくのに、業務で使えない生兵法だったので、もどかしさがあった。もはや起業した方がいいのではないかと思った」と新沼さんは語る。
そんな中、考えたのが、東京の会社でリモートワークするという働き方だ。サーバーワークスの一員として福岡で仕事をする小室文さんや、東京の印刷会社に所属しながら、札幌で働く田名辺健人さんなど、JAWS-UGには何人も先輩がいる。こう考えた新沼さんは、AWSを使ってリモートワークできる企業を転職サイトで探し続けた。2年間探し続け、最終的に行き着いたのがスタートアップの転職支援サービスを提供するWantedlyに出ていたモンスター・ラボの求人だ。
モンスター・ラボは、Webサービスやスマホアプリの受諾開発のほか、グローバルソーシングの「セカイラボ」、インターネットBGMを謳う「モンスター・チャンネル」などの自社サービスの企画・開発、運営などを行なっている東京のIT企業。中国やシンガポールにも拠点を持ち、従業員も100名超。すでにスタートアップというレベルを超えた事業展開を行なっている。
モンスター・ラボにさっそく応募した新沼さんは、人事から連絡を受け、すぐにSkypeで面談。東京から熊本に移住して、リモートワークしようとしている事例がすでに社内であり、モンスターラボ自体もこうした新しい働き方を積極的に推進していきたいという意向があったため、めでたく採用にこぎつけた。「採用までに2日もかからなかった。今までGoogleストリートビューでしか見たことなかった中目黒のオフィスに、入社のとき初めて足を運んだ(笑)」とのことで、ようやく地方にいたまま、AWSを仕事にすることができたという。
(次ページ、新沼さんはどうやってリモートワークしている?)
この連載の記事
-
第23回
デジタル
クラウド時代のあるべき情シスを訴える友岡さんが武闘派CIOになるまで -
第22回
デジタル
運用でカバーの波田野さんが現場で得た経験則とCLI支部への思い -
第21回
デジタル
IT業界のデストロイヤー長谷川秀樹さんとJAWS DAYSで語る -
第20回
デジタル
コミュニティ発のIoTで関西を沸かすJAWS-UG京都の辻さん -
第19回
デジタル
地方勉強会の成功パターンを考え続けるJAWS-UG大分の平野さん -
第18回
デジタル
Moneytreeを支えるシャロットさん、日本でのエンジニアライフを語る -
第17回
デジタル
ソニー銀行のAWS導入を進めた大久保さん、FinTechに切り込む -
第16回
デジタル
日・欧・米での経験を活かしてSORACOMで羽ばたく安川さん -
第14回
デジタル
JAWS-UG青森の立花さんが語る地方、震災、そしてクラウド -
第13回
デジタル
クラウド愛、HONDA愛で戦うエンプラ情シス多田歩美の物語 - この連載の一覧へ