「地方にいることがデメリットでない」を目指すユニマル
鹿児島を拠点とするユニマルは2013年起業のスタートアップ。Webサイト制作やシステム開発を手がけつつ、リモートワークを円滑にする自社サービスを展開する。登壇したCEOの今熊真也さんは「地方にいることがデメリットでない社会」というミッションを掲げる。これを実現するため、「地方でも好きな働き方ができるリモートワークを円滑にする」という自社サービスを展開しているという。
そのために開発したのが、Web制作にターゲットを絞ったファイル共有コラボレーションサービス「universions」だ。リモートワークの導入が進むWeb制作の現場は、ライター、デザイナー、エンジニアなど複数の専門家が、共同作業している。こうした作業現場では、Dropboxを使っていることが多いが、必ずしもみんな満足しているわけではないという。今熊氏は、「Dropboxは簡単で使いやすい反面、みんなで成果物を作るので、スキルの高い人には使いにくい部分もある。一方、コーダーに人気のGitHubは、学習コストがかかるので、デザイナーには使いにくいと敬遠される」と指摘する。
こうした課題に対して、職種の異なるWeb制作者でも使いやすいツールとして作られたのがuniversionsになる。universionsは、開始1年弱で2000プロジェクトを突破し、デジタルハリウッドのジーズアカデミーの公式ツールでも採用されているという。そして、これを支えるのは、さくらのクラウド。今熊氏は、「シンプルな機能の割には、裏でいろいろなサーバーが相互に連携している。24時間365日の安定運用できているのは、さくらさんのおかげ。プロジェクトごとにサーバーを立ち上げているが、これを300を超えるDockerコンテナで安定稼働させている」と語る。海外市場も見据えており、3月には英語版を提供。鹿児島から世界を目指すという。
そして、「地方にいることがデメリットではない社会」を目指すユニマルが次に手がけるサービスが「Universions WORKS(仮称)」だ。Universions WORKSでは、ユニマルがWebサイトの制作を請け負い、業務を分解した後、クリエイターに発注するというもの。ここでの鍵は、クリエイターに月額最低5万円(予定)の報酬を保証するという点。フリーランスでも定期収入が得られるというアウトソーシングサービスだ。
Universions WORKSを作った背景には、まさに首都圏と地方とのギャップがある。「8割が無駄になると言われる提案コスト、打ち合わせできるかた優先のクラウドソーシング、フルスタックじゃないと仕事がとれないのが現状。しかも、地方だと安価なコストが求められる。これだと地方のクリエイターは疲弊する一方」と今熊氏は指摘する。自分にあったいい仕事と安定した収入を得るために、首都圏と地方を結ぶ付けるのがUniversions WORKSだという。
これを実現するためユニマルではまず面接などで地方の質の高いクリエイターを集める。その上で、営業やディレクションはユニマルが手がけ、クラウドソーシングを手がけるシェアゼロと提携。安定的な仕事の供給を実現できるよう目論んでいるという。今熊氏は、「地方にいることがデメリットにならない。地方にいることがステータスになる社会を、ここにいるみなさんといっしょに作っていきたい」とコメントし、LTを終えた。
なでなですると「もー、やめなさいよー」の抱き枕「痛すぽ」
「すごいのが来るので、みなさんストレッチとかした方がいい」と司会に紹介されたのはジョイアス 内村 康一さん。なでなですると声が出るという新しいコンセプトの抱き枕の製品化を進める。
鹿児島出身の内村さんが立ち上げたジョイアスは、「同人作家をスターダムにのしあげる」というユニークな経営理念を掲げる福岡県小倉のスタートアップ。同人作家や絵師がきちんと収入を得られるエコシステムを作るべく、クラウドファウンディング「makuake」による資金調達で製品化にこぎつけたのが、「痛すぽ」になる。
痛すぽには、内村さんが九州工業大学で研究に関わった「なでなでセンサー」を搭載している。なでなでセンサーは、布越しでも強弱を検知できるという特殊なセンサー。抱き枕の“特定の部位”をなでると、センサーの情報をBluetooth LE経由でスマートフォンのアプリに送信し、スマートフォンから「にゃんにゃん」「そこはダメ!」などの音声を再生できる。現在、プロの声優による500パターンの音声収録が終了しており、「この変態!痴漢寄らないで!」「信じられない! 私がこんなに優しく接してあげてるのに!」などきつい台詞にカスタマイズすることも可能だという。
ビジネスはアプリや抱き枕が売れると、絵師や声優にインセンティブが入るというB2Cのモデルで展開される。さらに音声データが売れれば、作家側には継続的に収入が入るという仕組みだ。「結局、このビジネスは単なる物販ではなく、アプリで音声を売るのがメインのビジネス。ハードウェアが1万個売れると、それがプラットフォームになって、音声が流し込める」。今後は、コンテンツホルダーにOEM提供し、プラットフォームの利用料を得られるB2B2Cのモデルもあわせて展開する。ただ、遠距離カップルなどリア充向けの用途に関しては「興味がない」(内村さん)とのことだ。
今夏には代々木アニメーション学院とコラボし、キャラクターボイスの声優オーディションを開催。セッションの最後、内村さんによる実演も行なわれ、会場は爆笑の渦に包まれた。
4社それぞれはビジネスの方向性も違うものの、技術先行ではなく、ユーザーや市場のニーズを取り込んだレベルの高いサービス・製品だったのが印象的だった。鹿児島のスタートアップには今後も目が離せない。