企業や国家が「デジタル化(Digitization)」を果たし、生き残るために
チェンバースCEO最後の基調講演「シスコは変革を遂げた。皆さんは?」
2015年06月23日 14時00分更新
6月7日~11日にかけて、米サンディエゴで開催された「Cisco Live US 2015」。20年間にわたりシスコシステムズのCEOを務めてきたジョン・チェンバース氏にとって、CEOとしての最後のCisco Liveとなった。基調講演で同氏は、社会や企業の「デジタルへの変化(Digital Transition)」がもたらす破壊的な影響を語り、未来に向けた変革に乗り出すよう聴衆に強く訴えた。
世界や産業の急速なデジタル化、「準備はできているか?」
シスコは今年5月、7月26日付でチャック・ロビンス氏が新たなCEOに就任することを発表した。チェンバース氏はCEO退任後も名誉会長としてシスコに留まるが、1995年から20年間にわたって同社を率い、その成長に大きく寄与してきたビジョナリーの引退であり、今回のCisco Liveはひとつの大きな節目となる。
もっとも、聴衆のやや感傷的な気分とは裏腹に、チェンバース氏は厳しく未来を見据え、これからの社会や産業のあり方や企業変革の必要性といった話題を、シスコ自身の経験も交えながら早口に語っていった。
昨年のCisco Live(関連記事)では、10年間で19兆ドルの利益を生む「IoE(Internet of Everything)」の可能性を訴えたチェンバース氏だが、今年の基調講演はテクノロジーよりも「ビジョン」「戦略」にフォーカスし、産業や社会の迅速な変革を強く呼びかけるものになった。
「社会生活からヘルスケア、教育、ビジネスモデル、政府機関や企業、もちろんテクノロジーカンパニーも――。われわれはあらゆる場面で『世界のデジタル化(Digitization)』という、これまでにないスピードでの変化を目の当たりにしている」「われわれは、その準備ができているだろうか?(Are We READY?)」
チェンバース氏は、インターネットの誕生により情報流通が加速した「情報の時代(Information Age、1990~2010年)」から、現在はあらゆるものがネットワークに接続される「デジタルの時代(Digital Age、2010~2030年)」へ移行していると説明する。
ここで言う「デジタル」とは、これまでのITを指すものではない。ガートナーが提唱するように(関連記事)、IoT/IoEやクラウド、モバイルといった新世代のテクノロジーを背景に実現が可能となる、まったく新しいビジネスモデルや企業像、新しい社会像のことだ。
「破壊するか、破壊されるか」大企業の40%は10年以内に消滅
昨年の基調講演でチェンバース氏は、Fortune 500に数えられるような大企業であっても、15年のうちにそのおよそ9割が経営難に見舞われ、そこから回復できる企業はわずかだとする予測を示していた。だが、この予測について同氏は「保守的すぎた」と振り返る。今年新たに示したのは「大企業の40%は、10年後にはもう生き残っていないだろう」とする、さらに過激な予測だったからだ。
この過酷な世界で生き残りに成功する企業、失敗する企業の分かれ道はどこにあるのか。チェンバース氏は、失敗する企業は4種類だと指摘する。「市場の変化に乗り遅れる企業」、「長期にわたり同じビジネスを繰り返しているだけの企業」、「組織体や経営チームをゼロから作り直せない企業」、「カスタマーやパートナーとの距離が離れてしまっている企業」である。
生き残りをかけて、シスコ自身も大胆な変革を遂げてきたとチェンバース氏は語る。事実、過去25年間で競合してきた多くのITベンダーが次々に姿を消し、あるいは勢いを失ってきた中で、シスコはリスクを取りながら時代の変遷とともに変革を図り、新たなビジネスへと拡大を続け、生き残ってきた。
「勝ち残るために、企業は劇的に変化する勇気を持たなければならない。今や『破壊するか、それとも破壊されるか(disrupt, or be disrupted)』のどちらかなのだ」
(→次ページ、デジタル戦略を持つ企業はわずか、しかも大半は「成功しない」)