衝突型加速器の最高峰・スーパーKEKBへの改修を見る
ASCII.jpにおいて、幾度か紹介してきた高エネルギー加速器研究機構(KEK。かっこよくいうと、高エネ研)。つくば市にあってCP対称性の破れで名が知れ渡ったBelle 測定器がある素粒子物理学を行なう研究施設として有名だ。KEKにはその他にも放射光施設等多くの加速器施設がある。
Belle測定器とその前後に伸びる加速器は、ざっくばらんにいうと、ビーム(電子と陽電子)を衝突させて、ビッグバン直後の状態を生み出し、そこで発生した現象から、素粒子物理学を発展させていく、いわば先端科学の城だ。
なぜ質量があるのか、重力ってそもそもなんであるのかといった超身近なことだが、根っ子がわかっていない部分を解き明かそうとしている。計算科学分野の技術開発については、小型スーパーコンピューター「Suiren」がGreen500で世界2位になるなどの報告もある。また身近な例(物質を構成する素粒子自体も身近だが)では国内で最初にWebサーバーが設置された施設という面も持つ。
KEKの中核となっているのが、周長約3kmの地下トンネルにある電子/陽電子の2台の円形加速器とBelle測定器などからなるBファクトリー。現在は、その性能を約40倍にするためのスーパーKEKBプロジェクトとして改修工事中であり、その稼働開始は2016年とされている。
改修項目を見てみると、キーワードは「ルミノシティ」。ルミノシティとは、衝突を起こす頻度を示す指標であり、KEKB加速器は、2010年6月末にビーム運転を終了するまで世界で最もルミノシティの高い施設だった。その性能でもりもりとB中間子を作り出し、そこで起きる現象を捉え、小林・益川理論(2008年ノーベル物理学賞)の検証に貢献するなど、素粒子物理学の発展に寄与してきた。
スーパーKEKBプロジェクトでは、ビームあたりの粒子数(電子/陽電子)を増やすと共に衝突点でビームを細く絞ることで40倍のルミノシティの達成を目指している。
そして、次はさらなる物理法則解明のために、よりB中間子を作り出せる性能を実現するべく改修している。とくに位相空間においてのビームの広がりを低くした、低エミッタンス・ナノビーム方式の採用がポイントになるだろうか。
多くの電磁石や、ARESや超伝導の加速空洞などの既存の機器を流用しつつ、光学設計の見直しやチェンバーの変更、陽電子ダンピングリングの新設などで、低エミッタンスを実現する形だ。想定スペックでは、スーパーKEKBプロジェクトでは40年かかる実験データを、1年で得られるようになるという。
今回は改修工事中にお邪魔して、Belle IIの中心部に収納されるユニットや膨大な数のケーブルが取り外されてさっぱりしていたBelle II測定器、配置転換中の電磁石群などを見てきた。簡単な解説を織り交ぜつつ、写真中心で改修の様子を見ていこう。