Belle II測定器内部に配置されるセンサーたち
KEKで目にするものは、初見だと「なんだかわからんが、スゴイもんがある」状態になることは多々だ。数回訪れると、なんとなくわかってくるのだが、Belle II用に開発されているセンサー類は初見であり、(やはり)「なんかスゴイもんがある」状態だった。
Belle II測定器内部は、巨大なデジタルカメラに例えられ、陽電子と電子が衝突した以降の様子を捉える。より高い衝突頻度に対応するため、センサー類の刷新によるスペックアップも行なわれており、世界で最も厳密に光子一個の到達時間を計測できるユニットもあった。
以下、写真で紹介するものはBelle II測定器の中央部に収納されるものだ。ちなみにワンオフ的なものばかりで、設計・開発・製造まで、研究者や製造メーカー、技術者方々が協力して担当している。
まず紹介されたのがCDC(Central Drift Chamber)。多線式ガスチェンバー構造で、半径1.13mの筒の中に30ミクロンの金メッキタングステン・センスワイヤー1万4336本、126ミクロンのアルミニウム合金フィールドワイヤー4万2240本、合計5万6576本のワイヤーがCDC内部を走っている。
ケタはずれなワイヤーの数を要する理由は、これまで秒間500回のデータ収集を行なっていたところを、秒間3万回に拡張するため。もちろん、約40倍の性能のビームに対応した設計だ。それにしても、なにかと数字で脳みそをシェイクされることが多い。
TOPカウンターは、チェレンコフ光を利用してその到達時間を取得するもので、計測結果から通過した粒子の速度がわかる。16基のユニットでCDCを囲むように配置されており、1基あたりの構造をみると、透過度がとても高く、そして薄さ2cm 長さ2.7mの石英板が1枚あり、その末端部に浜松ホトニクス製の光学センサーがあるシンプルなもの。だが、時間を計測するという面では世界一の性能を誇る。
TOPカウンターとCDCよりもさらに衝突点に近い場所にある検出器のモックアップも見ることができた。衝突点に最も近いものがピクセル検出器で、これは粒子の通過位置を測定するもの。衝突点から14mmのところに、136mm×15mmのモジュールが8基、ビームパイプを囲むように配置され、22mmのところにさらにもう一層設置される。ピクセルサイズは50ミクロン。
ビームパイプの半径は旧型の16.2mmから12mmにまで細くなっており、より近い距離で衝突で生まれる粒子の情報を得られるようになるという。わずか約4mmの差だが、1mm違うだけで得られるデータに多大な差があるため、この点はとても重要なポイントなのだそうだ。
ピクセル検出器を取り囲むように配置されるのがシリコンバーテックス検出器。これは厚さ320ミクロンのシリコン製の板状のモジュールを4層設置するもので、粒子が通過した場所を記録する。施設内にあったモックアップはほぼ最終段階になっており、担当者によると配線をするための構造でも苦労したそうだ。
最後にエアロゲル・リングイメージングチェレンコフカウンター。ARICHの略称で呼ばれている。荷電K中間子とパイ中間子を見分けるための検出器だ。
配置場所としては、CDCの前方にCDCサイズに合わせてエアロゲルが配置され、そこから20cm離れたところにハイブリッド型アバランシェ光検出器を設置し、リング状のチェレンコフ光を捉える。
エアロゲルとは、密度が低く透明度の高い物質で、手に持つと妙に軽くて頭にハテナが浮かぶ。エアロゲルにはいくつかの製造法があるが、以前KEKで製造していたものはパナソニックとともに開発したものだ。下記に写真を掲載しているが、妙にCGっぽく見える。
進化する科学の城である
というわけで、過去のKEK取材記事も含めて見てみると、変化がよくわかる取材だった。とくにBelle II測定器内部に収納されるモジュールは、実験が始まると見られなくなるため、資料という意味でも貴重なものだといえる。
完成は2016年で、それまでにCDCやTOPカウンターなどをBelle II測定器内部に設置する作業もあるので、その際に取材ができればその様子をお伝えしたい。あと陽電子ダンピングリングも見たい。
ともあれ、KEKは年に2回、4月と9月に一般公開を行なっている。本記事で興味を持ったのであれば、是非見学に行ってもらいたい。