Google、オペレーターらの覇権争いが背景に
オペレーターによるモバイル決済サービスのローンチラッシュは、NFC端末がじわじわ普及してきたこともあるが、Googleの「Google Wallet」の欧州上陸を意識したものともとれる。Google Walletは2011年秋にアメリカの一部市場で正式にローンチ。ロンドン五輪に合わせてイギリス上陸とのうわさがあったが、時期的にみて実現は難しそうだ。だが、いずれはやってくるGoogle Walletの前に、ユーザーのおサイフを先に握っておこうという意図があってもおかしくない。
モバイル決済はまた、音声と既存のデータ通信以外の収益源としても期待されている。セキュアエレメントがSIM内に実装されることで、オペレーターは有利なポジションを獲得できる。Deutsche Telekomでは、オンラインサービスやM2Mなど新事業の売上げを、2015年に2倍に拡大させるという目標を掲げている。
Googleが2010年秋にNFCをサポートしたAndroid 2.3を公開して以来、NFCへの機運は高まっているがなかなか進展しない。ロンドン地下鉄の固有の事情については以前のコラムに書いたが(関連記事)、ショップなどでの課題は読み取り機などインフラの整備が整っていないためだ。
Deutsche Telekomは今回、NFC読み取り機の配布を計画にいれることで「タマゴが先かニワトリが先かの問題を解決する」と述べている。一方、NFCを搭載した携帯電話は順調に増える模様で、Juniper Researchは2014年には5台に1台のスマートフォンがNFC対応と予想している。
現状はSMSベースのサービスが中心
NFCでモバイル決済は本格的に花開くか?
携帯電話の普及率が以前から高かった欧州では、スマートフォンブーム前からモバイルを使った乗車券やプリペイドのトップアップ(追加チャージ)などが可能だ。そのほとんどがSMSを利用したもので、それなりに便利である。
たとえばプリペイドのトップアップでは事前にクレジットカードを登録し、PINをもらっておくだけ。好きなときにSMSを送って追加できるし、金額も選べる。モバイルでのトップアップにボーナスを付けているところもある。Gartnerが5月に発表したモバイル決済の報告書では、2012年の取引総額は、前年から62%増加するとしているが、主要な方法は引き続きSMSであるとしている。オペレーターの場合は、これらをどのようにして包括的なモバイル決済サービスに融合させていくのかも課題となりそうだ。
5月末にロンドンで開かれたモバイルイベント「Open Mobile Summit」では、VISA EuropeのCEOが2020年にVISAの取引額の半分がモバイルからになると豪語したが、American Expressのグループプレジデントで、Virgin MobileのCEOを務めたこともあるDan Schulman氏は、(ショップのPOS端末とユーザーのモバイル端末がすべてNFC対応となる)4~6年後にやっと離陸をはじめる、とやや冷ややかな(現実的な)見解を示した。
Schulman氏は、NFCによる決済だけでなく、モバイル側の個人情報や位置情報とクラウドを利用した大きな流れでNFCを見るべきだと述べた。
Google、オペレーター、カード会社を含む金融機関などがそれぞれの取り組みに着手しており、今後の展開が注目される。だが業界が一番注目しているのは、Appleがこの分野でどのような戦略を練っているのかかもしれない。
筆者紹介──末岡洋子

フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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