モバイル端末を利用した決済サービスの話題が主に欧州で続いている。この1ヵ月の間にも、スウェーデンで主要オペレーターが共同で展開するモバイル決済サービスが発表されたほか、ドイツのDeutsche Telekomもモバイル決済に向けた計画を発表した。間もなく開幕するロンドン五輪でも、VISA EuropeとSamsungがNFCを利用した決済を加速する契機にしようと取り組んでいる。
モバイル決済サービスのローンチラッシュ
モバイル決済とは文字どおり、モバイル端末を利用して、金銭の支払を行なうもので、NFCを使うのもその1つと言える。日本ではNTTドコモの強力なプッシュもあり、FeliCaチップを搭載した携帯電話による買い物が普及しているが、世界的にはまだまだこれから。どちらかというと、思ったより進まないことからいらだちすら感じられる。
まずはここ数週間のニュースを紹介しよう。6月末にスウェーデンのTelia、Tele2、Telenor、3の4社は共同のモバイル決済サービス「WyWallet」を発表した。まずはオペレーターをまたいでの個人間送金、専用モバイルアプリを利用しての公共機関での決済やチケットサービス、オンラインショッピング、プリペイドトップアップ(追加チャージ)を提供し、夏にはNFCを利用した決済システムのテストを開始する。
このサービスはiPhone、Android、Windows Phoneなどに対応、4社でスウェーデンのモバイルユーザーの97%をカバーするというから、共同で利用を促進しようという狙いが見えてくる。
同じ市場で競合関係にあるオペレーターが、モバイル決済を共同で開発するというパターンはイギリスでもみられる。2月にイギリスの3大オペレーターであるVodafone、Telefonica O2、Everything Everywhere(OrangeとT-Mobileの各英国子会社が統合して誕生)が“Project Oscar”として、銀行や金融機関と小売店がアクセスできる決済プラットフォームを発表した。
残りの1社と、Google、PayPalらの苦情を受けて欧州連合(EU)が競争法(独占禁止法)違反の疑いで調査していたが、間もなくゴーサインが出るとみられている。これはアメリカでVerizon Wirelessらオペレーター連合が進めているISISと同じようなものと考えてよいだろう。
オペレーター単独の取り組みとしては、T-Mobileブランドでサービスを展開するDeutsche Telekomがモバイル決済サービス計画を発表した。同社のオンライン決済事業「ClickandBuy」を利用したオンライン決済、デジタルクーポンなどのおサイフ機能、そしてNFC決済のためのPOS端末の配布を含む包括的なもので、MasterCardと提携して進める。まずはポーランドでスタートし、年内に本拠地ドイツに拡大。デジタルクーポンなどのおサイフ機能は2013年にローンチする予定だ。
そしてクレジットカード大手のVISAだ。開幕が迫ったロンドン五輪の公式スポンサーである同社は、同じく五輪公式スポンサーのSamsungと組み、五輪期間中にNFCを使ったモバイル決済の利用を奨励する。
端末はSamsungの最新スマートフォン「GALAXY S III」で、VISAの非接触型決済サービス「payWave」を搭載する。スタジアムなどの五輪関係の場所を中心に、ロンドン市内でもショップやレストランなどでNFCによる決済を利用できる。VISAはこれとは別に、おサイフサービス「V.me」を間もなく欧州でローンチする計画もある。
クレジットカードでは、VISAのライバルであるMasterCardも非接触型決済とおサイフ機能の「PayPass」を発表している。

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